15章 邂逅  12

 翌日は旅の準備を行いながら、エルフの薬師のホーフェナさんやDランクに上がった『銀輪』のカイムたちに挨拶をして回った。街中では獣人のガシ、ナリ夫妻とも会うことができたが、俺がメンバーを連れているのを見てかなり驚かれてしまった。特にラーニとカルマがどちらも族長の娘ということで、非常に恐縮してしまったようだ。


 そしてその翌日、俺たちはエルフの里マルロへと出発した。マルロは以前一度訪れて色々とあった里だが、奥里はそのさらに先にある。


「この道を歩くとソウシさんたちと会ったばかりの頃を思い出しますね。あの時はまさかパーティに入ってこんなに色々な体験をすることになるとは思ってもいませんでした」


 街道を歩きながら、スフェーニアが感慨深そうに言う。


「それはわらわがエルフの里で捕まる前の話かえ?」


「ええそうです。疫病騒ぎがあってマルロに向かって、そこで巨大なゴーレムが出現して、シズナさんが捕まったと思ったら賊に狙われて……。思えば驚くことばかりですね」


「ゴーレムっていえばあのマゼロって男はどうなったの?」


 ラーニがシズナに聞くが、そういえば『死体使いのマゼロ』の処遇については俺も聞いてなかったな。


彼奴きゃつについては、オーズの法では死刑しかありえんという話じゃったな。取り調べが終われば執行されるじゃろう」


「国宝と巫女様を奪おうとしたわけだから当然そうなるよね。でもメカリナン国との関係とかあった場合はどうなるんだろう?」


「それは分からんの。メカリナンも国王が変わったことじゃし、そことの関係を考えて背後関係の追及はしないかもしれんのう」


「政治的判断ってやつ? そういうのは私には分かんないわね」


 ラーニが興味なさそうな顔で肩をすくめる。


 マゼロがメカリナン国の前国王ジゼルファの命で動いていたことはほぼ確実だろう。王位が交代したからといって国としての行いが消えるわけではない以上、オーズとしてもメカリナンを糾弾することはおかしなことではない。ただオーズ自身、他国との交渉を避けているので強い動きに出ることはないはずだ。


「そういえば奴隷狩りに出会ったこともありましたね。ソウシさんのおかげでそれも減るのでしょうか?」


 スフェーニアがそう言って微笑む。奴隷狩りにあっていたらしいエルフや獣人にとってはかなり重要な話だろう。


「俺のおかげじゃなくて新しい王のおかげで、だけどな」


「しかしメカリナンの王が変わったのはソウシさんの活躍があったからなのですから、エルフとしてはソウシさんに感謝することは必要だと思います。私も感謝しています」


「さすがにそれはちょっと強引な気もするが……スフェーニアの気持ちは受け取っておくが、他のエルフにはわざわざ伝えないでいいからな」


「ふふっ、そういうわけにもいきません。それにエルフに『貸し』を作っておいた方が奥里でも通りがいいですから」


「ああ、そういうこともあるのか……」


 スフェーニアもなかなかに『腹芸』に達者なようだ。見た目は十代後半の少女だが、やはり見た目とは違う……とか考えるのは失礼だろうか。


 俺が黙ると、カルマが俺の横に来て興味深そうな目を向けてきた。


「今のメカリナンの王が変わったとかソウシさんが活躍したとかっていうのは、具体的にはどんな話なんだい?」


「ああそれは――」


 一通りの話を聞かせると、カルマはまた「はぁ~」と声をもらした。


「話を聞いた範囲だけでもソウシさんはもう伝説の冒険者ってレベルなんじゃないのかねえ。そこまで色々やってたら貴族さまたちも放っておかない気がするけど」


「ヴァーミリアンの国王陛下には一応後ろ盾になってもらっているので大丈夫のはずだ。俺は貴族になることに興味はないし、冒険者をやめるつもりもないしな」


「ん~、なんかカッコいいねえそれ。そりゃ皆惚れるわけだよ」


 うんうんと頷いているカルマ。「惚れる」というのはパーティメンバーのことを言っているのだろうが、彼女たちの感情は少し違ったもののはずだ。もっともそれをわざわざ否定するのも意識しているみたいでおっさんとしては口にしづらい。


 しかし改めて見回してみると美女美少女しかいないパーティである。稀にすれ違う旅人もこちらを二度三度と見ているくらいだから外から見ると相当に目立つのだろう。伝説になるのも遠慮したいところだが、見目麗しい女性を口説きまくってるおっさんという評判も避けたいものだ。




 野宿は相変わらずの『ソールの導き』流で、俺の超大容量『アイテムボックス』にフレイニルの強固な『結界魔法』、スフェーニアの各種魔法とシズナの『精霊』の存在もあって非常に快適である。カルマも「これは下手な宿よりはるかに快適だよ」と太鼓判を押してくれた。ちなみに俺の『アイテムボックス』には浴槽や衝立なども入っていて、外で風呂に入れる仕様にまでなっている。


 旅の方は道中何事もなく3日目には山を越え、エルフの里マルロに到着した。もちろん里の門はスフェーニアのおかげで顔パスである。


 宿を取って一泊した後、里の中心にある里長の館へと向かった。


 里に来た際には必ず挨拶に寄ってくれと言われていることもあるが、エルフの奥里へ向かうには里長の許可が必要らしい。


 7人で押しかける形になったが、里長のゴースリット氏は笑顔で迎え入れてくれた。


「ソウシ殿、再会できて嬉しく思います。しかしパーティの人数が増えた上にシズナ殿までが一緒とは驚きましたな」


 応接間のソファに座るゴースリット氏は話し方に貫禄を感じさせる里長ではあるが、見た目は二十代のエルフの青年である。


「お久しぶりです里長。急な訪問で申し訳ありませんが、エルフの奥里への通行の許可をお願いしたく参りました」


「おお、それはそれは。スフェーニア様がいらっしゃいますし許可はもちろんお出しします。目的は観光……ということではございませんな」


「ええ、里長は近頃出現しはじめた『悪魔』というモンスターの話はご存知ですか?」


「旅人の噂では聞いております。なにやら奇怪な見た目の、しかも相当に強力なモンスターとか」


「Bランク相当と言われています。そのモンスターについてエルフの奥里に記録がないかどうか調べてもらおうと思いまして」


「それは国やギルドの依頼ということですかな?」


「いえ、基本的には個人的な興味からです。ただ情報を得られた場合はギルドや国にしらせることにはなるでしょう」


「なるほど、つまり人々を救うための調査というわけですな」


「そんな大それたものではなく、自分たちでなにかできれば程度の考えですよ。実際は奥里を見てみたいという興味もありますし、それにドラゴンの鱗で武具を作ってもらおうという目的もあります」


「なるほど、結構なことだと思います。ところでソウシ殿たちのランクは今いかほどでしょうか?」


「Bランクです」


 と答えると、スフェーニアが「実際にはAランクに近いですね。ソウシ殿だけならAランクをはるかに超えています」と付け足した。


 その様子がちょっと自慢げで微笑ましかったのだが、一方でゴースリット氏は口に手をあててなにかを考えるそぶりを見せた。


「ふむ、さすがですな……。しかしそうであるならば、ソウシ殿たちが今いらっしゃったのは奥里としても運がよかったのかもしれません。いや、ソウシ殿たちには面倒がふりかかるかもしれないというお話でもありますが」


「それはどういうことでしょう?」


「ええ、実は奥里は今、2つの面倒を抱えているのです。一つは奥里の森になにか得体のしれない者が住み着いたということ、そしてもう一つは、奥里の近くに新しくダンジョンができたということです」

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