15章 邂逅 11
翌日、7人となった『ソールの導き』は、エウロンの丘にあるDクラスダンジョンに来ていた。
目的は三つ。
一つは新メンバーであるカルマとの連携の確認だ。とはいえ互いに経験を積んでいる者同士であるしこれについては特に不安はない。
もう一つはこのダンジョンで『エリクサー』が出やすいのかどうかの確認だ。『ソールの導き』は過去このダンジョンで2つの『エリクサー』を手に入れている。もし3度目があれば、『エリクサーダンジョン』の可能性はグッと高まるだろう。
最後の一つは俺の『将の器』スキルのレベルアップ確認だ。スキル取得時に頭に入ってきた情報の通りなら、ボス部屋に7人で入れるようになっているはずである。
「15階のダンジョンだが、昨日言ったように可能なら一気に行く。ただしキツいと感じたら遠慮なく言ってくれ」
「一気に15階はアタシも初めてだね。ちょっと楽しみだよ」
『ソールの導き』新人のカルマだが、このパーティへの適性は高そうだ。
「体力が切れるとしたらわらわが一番怪しいのう。なんとか頑張るのじゃ」
シズナの言うことはその通りで、リーダーとしては彼女に一番気を配っておかないといけない。
「よし、行こうか」
俺が先頭、しんがりがカルマという布陣で、俺たちは丘の上に開いたダンジョン入り口へと入って行った。
道中のザコ戦はまったく問題はない。
気になるのは『ホブゴブリン』や『アサルトタイガー』の出現数が15体前後から30体近く出るようになったことだ。ラーニの『疫病神』がレベルアップしているのだろうが、パーティに人数が増えたことも関係しているのかもしれない。
ともあれこちらも7人+『精霊』2体の大所帯になっているので、完全に力押しで勝てる。だんだんとダンジョンの戦闘からかけ離れてきている気もするが……
「シズナの『精霊』も驚いたけど、モンスターの出現数もすごいもんだね。しかも全員半端なく強いし、こりゃアタシも頑張らないと置いていかれちまいそうだ」
というのが数回戦ったあとのカルマの言だが、彼女の大剣の冴えも凄まじい。一振りで『ホブゴブリン』3体を切り裂くのはさすがにラーニも驚いていた。
2時間少々でボス部屋まで到達、扉を開けるとすんなりと開いた。どうやら『将の器』の効果は確からしい。
「7人いたのに本当に開いちまったよ……。ソウシさん、こりゃホントにとんでもない話だね」
「そうだな。あとはボスがどうなるかだ」
カルマに答えながらボス部屋に入る。
湧き出る
靄が晴れるとそこには鎧を着たミノタウロスが2体。両方レアボスは初めてのパターンだな。これもパーティ数増加の影響か、それともカルマのスキルか。
「いやいや、話には聞いたけど2体でてきてしかも両方レアボスかい!? アタシは夢でも見てるのかねえ」
「これが『ソールの導き』の普通だから。まあすぐに慣れると思うけどねっ」
ラーニが先輩風をふかせたようにカルマの肩を叩く。
レアボスの鎧ミノタウロスではあるが、一体は魔法の集中攻撃で瞬殺、もう一体もカルマの『飛刃』で大ダメージを与えたところをラーニが首を落としてほぼ瞬殺だった。
宝箱は二つで、もちろん両方銀のレア箱だ。
「レア箱2つはさすがに私たちも初めてですね」
とスフェーニアが涼しそうな顔で言う。カルマは「はぁ~」と声を漏らしたまま言葉もないようだ。
ラーニとシズナが箱を開ける。一つは『ミスリルインゴット』、そしてもう一つはまさかというかやはりというか、精緻な装飾のはいった薬瓶、すなわち『エリクサー』だった。
「なんかここまでで今までの3年分より濃い経験をしてる気がするよ。こんなのが普通なんて、そんなことがあり得るのかい?」
カルマの言葉はまさに普通の冒険者の感覚を代弁しているのだろう。
「普通じゃないことは自覚しているが、『ソールの導き』ではこれが普通なんだ」
「いやいや、アタシもとんでもないパーティに誘われたもんだ。でもこういうのはいいね。久々に楽しくなってきたよ」
ニヤッと笑うカルマ。どうやら『ソールの導き』入団試験は合格のようだ。
俺が『エリクサー』をフレイニルに渡して『アイテムボックス』に入れるよう指示していると、マリアネがスッと近寄ってきた。
「ソウシさん、これは非常に重要な情報になりそうです。ギルドへ報告してもよろしいでしょうか?」
「ああもちろん、もとからそのつもりだしな。ただ他のパーティでも検証はするんだろう?」
「そうですね、複数パーティに依頼をだして検証をすることになると思います」
「もし実証されたら公表するのか? 影響は大きい気がするが」
「グランドマスター次第ですね。確かに公表したらエウロンに冒険者がおしかけるかもしれませんし」
「下手をするとエウロンの経済にまで影響を与えるようになるかもしれないな」
「そうですね。貴族間のパワーバランスにまで変化をもたらすかもしれません」
「ああ、そこまであるのか……。それがバリウス子爵にとっていい結果になればいいんだが。しかしまずは実証されないとな」
俺の『悪運』がレアボス出現率だけに影響を与えるのか、それとも宝箱の中身にまで影響を与えるのか。そのあたりも気になるところではある。1個目のエリクサーは王妃を助けるというイベントと絡んでいたので『悪運』がらみだろうが、その後の2個はさすがに違う気もする。もし『エリクサーダンジョン』だったということになれば……その影響は一冒険者には計り知れないものがありそうだ。
さてその後はまた一気に10階まで下りて行った。
正直当初の目的はすべて達成されてはいるのだが、15階を一日でいけるのかというのも試したかったので続行である。
10階ボスは『ギガントトータス』だが、なんと3体出現した。これも初のパターンだが、やはりカルマ加入の影響だろうか。
「巨大ボスが3体は壮観じゃのう」
「さすがソウシさまです」
シズナはともかくフレイニルの言葉はちょっと意味不明である。どちらにしろボス3体でもあまり緊張感がないのだが、Dクラスだし仕方ないか。
やはり1体は魔法の集中攻撃で瞬殺、一体はカルマとラーニとマリアネの連携でほぼ瞬殺、一体は俺のメイス一撃で瞬殺である。
宝箱も3つで、『金塊』『腕輪(剛力+1)』『鋼の長剣』だった。『腕輪』はカルマがつけることになった。『鋼の長剣』はラーニが使う武器だが、もちろん『ミスリルソード+2』を持っているラーニには必要ないので換金アイテム扱いである。
ここまでで5時間くらいだろうか。一休みした後全員の体力に問題ないことを確認して最下層まで一気に行く。
最下層のボスは『スモールドラゴン』のはずだが、出現したのは漆黒の巨竜だった。
「ちょっとちょっと、ここDクラスダンジョンだよっ。『ダークフレアドラゴン』が出るっておかしくないかい!?」
「私たちにはこれが普通だから」
叫ぶカルマにラーニが答えるが、やはりレアを引く率がおかしい気がする。ともあれカルマには『ソールの導き』フルコース体験をしてもらう形になった。
『ダークフレアドラゴン』に関しては、ブレスは『衝撃波』で完全防御、後は魔法の集中攻撃とラーニ、マリアネ、カルマ、そして『精霊』の前衛組で袋叩きにして討伐完了である。Bランク最上位のボスだが7人という数の暴力の前にはあまりに無力であった。
全員一度攻略済みのダンジョンなのでスキル獲得はなし。だが『ダークフレアドラゴンの鱗』が再度入手できたのは大きい。これで防具を多く揃えることができるだろう。
ダンジョンから出ると、カルマが伸びをしながら天を仰いだ。
「はぁ~、なんか一生分の運を今日一日で使い果たした気がするよ。レアボスにボス3体にエリクサーにダークフレアドラゴン。こんなの話しても誰も信じてくれないだろうねえ。おまけにボス部屋に7人で入れるわ、全員信じられないくらい強いわで、いったいこのパーティはどこを目指す気なんだい?」
「とりあえずAランク、あとは行けるところまでいくつもりだ。俺個人としては大陸をあちこち見て回りたい気持ちもある」
「とりあえずAランクとは大きくでたね……と言いたいところだけどソウシさんはもうAは超えてる感じだしねえ。強くなるのも大陸を見て回るのもアタシ自身やりたいことだし、パーティに誘ってもらってラッキーだったねこりゃ」
「そうそう。それに『ソールの導き』の神髄はこんなものじゃないから。まだまだ驚いてもらうからねっ」
ラーニがカルマの肩をばんばんと叩く。
その横でフレイニルが俺の顔を見上げて言った。
「ソウシさまは大陸を見て回るだけでなく、この大陸に忍び寄る災いまでも退けようとなさっているのではありませんか?」
「そんな大それたことは考えてないさ。そもそも災いが起こるというはっきりした話があるわけでもないしな。『悪魔』のことを調べるのもちょっと気になるってだけだ」
「それでも自ら謎に挑もうとされるのは素晴らしいと思います。運命の導きも感じますし、きっとソウシさまは伝説の冒険者になられるはずです」
うっとりした目になっているフレイニルを見て、カルマが「ふぅん」と意味ありげな声をもらした。
「なるほどねえ。そんなリーダーがいるパーティならなおさら退屈しないで済みそうだね。ラーニ、アタシたちも伝説の冒険者になるよ!」
「もっちろん! そうじゃなきゃ冒険者になった意味がないからねっ!」
「私もハイエルフとしてさらなる高みを目指します」
「ギルド職員としてサポートは欠かしませんのでお任せください」
「わらわも伝説の冒険者になれば母上も褒めてくれるかのう」
どうもフレイニルの言葉で『ソールの導き』が妙な方向に行きはじめたような……しかし『災い』については明確な話がないとはいえ、キナ臭い動きが複数あるのは確かだ。エルフの奥里ではそのあたりの話も聞くことができるといいのだが。
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