15章 邂逅  10

 エウロンのCクラスダンジョンがまだ踏破済みでないので、翌日から2日かけて攻略をした。


 20階のダンジョンを一日10階進むという強行軍だが『ソールの導き』には特に問題にはならない。


 得たアイテムは『ミスリルのインゴット』『修行者の錫杖』『金の腕輪』の三つ。特に『修行者の錫杖』はレア宝箱から出たもので、『剛力+2』がついたBランクの杖であった。シズナが今持っている『剛力の杖』の上位互換ということで、シズナの装備品となる。なお『金の腕輪』はただの装飾品だった。


 スキルは俺が『剛掌握』、これは『掌握』の上位スキルで、もはや俺の手が吸盤になったかのように物を掴めるようになった。


 フレイニルは『衝撃吸収』で、すでにラーニたちも持っているものだ。防御力アップスキルは華奢な彼女にはいくらあってもいい。


 ラーニが得たのは『付与持続』、これは『付与魔法』の継続時間を延長するものだ。ただ『ソールの導き』の戦闘スタイルは基本短期決戦なので使いどころがあまりないかもしれない。先日の『ヒュドラ』みたいな相手には有効だろう。


 スフェーニアは『必中』で、これは『狙撃』の上位スキルだ。名前の通り矢の命中率を上げるもので、長ずれば目をつぶっても対象を射ることができるようになるとか。魔法にも多少補正がかかるようで地味ながら強力なスキルだ。


 マリアネは『翻身』を得たが、これは下位スキルの『軽業』のスキルレベルが上限に達したことで身についたようだ。ますますマリアネの機動力に磨きがかかる。


 シズナの得た『不動』はもちろん俺が持っているものと同じだ。これは本人というより『精霊』を強化するスキルとなるだろう。彼らが強化されるのは後衛の守りが固くなることでもある。


 ダンジョンを出て街に戻り冒険者ギルドに行くと、見慣れた顔の冒険者がいた。


 長身の金髪虎獣人美女、Bランクの大剣使いカルマである。


「ソウシさんじゃないか。ようやく合流してこっちに来たんだね。なんかとんでもないことに巻き込まれたって聞いたよ」


「お久しぶりですカルマさん。色々と驚くような目にあいましたがなんとか戻ってこられましたよ」


「メカリナンに飛ばされたって聞いたけど、あっちはどんな感じだったんだい? 噂じゃ国内で王位争いがあったって話だけど」


「そうですね。今までの王がかなり酷かったらしく、新しく前の王のご子息が王位につきまして……」


 と俺が説明をしている途中でラーニが割り込んでくる。


「実はその王位交代の戦いでソウシが活躍したんだって。そのうち褒賞も出るみたいだし、しかもさらわれた獣人の奴隷も帰ってくるかもって話よ」


「へえ、そりゃまたすごい話だね。もし本当なら獣人族としても礼をしなければならないんじゃないのかい?」


「いや奴隷を解放するのは新しい王がなさることですから私は関係ありませんよ。それよりカルマさんはお一人ですか?」


 パーティメンバーの姿が見えないので聞いてみると、カルマは苦い、というか寂しそうな顔をした。


「実はメンバーがそれぞれの故郷に戻るって話になってね、『酔虎』は解散になっちまったのさ。昨日別れの宴会をやって、今日は行き先を決めようと思ってここに来たんだけど、どうも気がのらなくてね」


「ああ、話はお聞きしていましたが、解散されてしまったんですね。お気持ちはお察しいたします」


「はは……、3年の付き合いだったけど思ったよりも寂しいもんさね」


 カルマがそう言って遠くを見る目をする……その横で、ラーニが耳をピクピクさせながらなにか言いたそうに俺を見返した。


 俺が後ろを振り返ると、フレイニルとスフェーニアが頷いた。マリアネはこの手の話には我関せずのようで、スッとギルドの奥へと行ってしまった。シズナは話が分かってない感じであったが、スフェーニアに耳打ちされてうんうんと頷いてみせた。


 メンバーの了解を得たので、俺はカルマに向き直った。どうも傷心の女性に声をかけるナンパ男になってる気もするが……


「ええと、カルマさん、よかったら我々のパーティに入りませんか?」


「え……本気かい?」


「もちろんです。むしろカルマさんほどの方なら引く手数多あまただとは思いますし、入っていただけるなら願ってもないことなのですが」


「いやいや、『ソールの導き』はもうメンバー5人いるじゃないか。それに専属職員もいて……あれ? そういえば一緒にダンジョンに潜ってるって話だったね。どうして……」


「そのあたりの話はパーティに入っていただければお話します。どうでしょうか?」


「どうでしょうかって、ソウシさんのパーティに入れるならアタシとしてもありがたい話だけど……本当にいいのかい?」


「ええ、是非」


 俺が強く言うと、カルマは縞模様の尻尾を一振りしてからこちらに手を差し出してきた。


「そういうことならよろしく頼むよ。ラーニの話だと強さを求めてるって話だけど、アタシもそれは羨ましいと思ってたんだ」


「それに関しては期待を裏切らないと思います。こちらこそよろしくお願いします」


 カルマの手を握るのは二度目だが、今度は力比べはなしだった。


「やったねカルマ! また楽しくやろうねっ」


 ラーニがカルマに抱きついて2人で喜びあっている。カルマの憂い顔も多少は晴れたようだ。


 しかしこれで『ソールの導き』は7人パーティ、しかもうち6人は美女美少女である。ますます目立つ感じではあるが、そこはもう完全に諦めるしかないだろう。


 とはいえどうせ目立つならとことん目立ってやる……とまではなかなか吹っ切れないのもおっさんの性ではあるが。



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