14章 魔の巣窟 21
さて、本来ならそのままジゼルファ王を探しにいくところだが、俺はまず城の地下に向かった。
途中で一般の衛兵や番兵などとも遭遇するが、彼らは俺の持つメイスと盾を見て腰を抜かし逃げてしまう。文官などもいるはずだが、『気配感知』によると彼らは部屋の隅で固まっているようだ。
侯爵に聞いた通りに廊下を進んでいくと地下への階段にたどりつく。下りた先は廊下だった。造りの通路が20メートルほど奥まで続いており、その左右にいくつかの金属製の扉が並んでいる。
扉には横に長いのぞき窓がついていて、いくつかののぞき窓からは光が漏れている。なんらかの事情で高位の人間を一時的に監禁しておく場所ということらしい。
見ると一番奥の扉が開いていて、そこから声が響いてくる。
「ドゥラック夫人、ご子息と一緒に来ていただきます」
「夫になにかあったのでしょうか?」
「将軍は国王陛下に対して反旗を
「では陛下は我々を人質にして夫を脅すつもりということですね」
「そこまでは私も存じません。とにかく来ていただきます」
若い男と女性の声だ。話の内容から女性がドゥラック将軍の
どちらにしろ無視はできないので声の方に向かっていく。
「むっ、何者かっ!」
「私はラーガンツ侯爵に
「なに……? いや、それがもし本当だとしても私は国王陛下に仕える身、最後まで陛下の命を遂行するのみ。貴殿こそそこを退かれよ。退かねば斬る」
そう言って腰の剣を抜いて両手で構える青年騎士。見るからに真面目そうかつ融通のきかなそうな雰囲気である。
「分かりました。では失礼」
俺は『不動不倒の城壁』を前にして突っ込む。酷い話だが、それで完全に通路が塞がってしまう。
オリハルコンの盾の向こうで、青年騎士はなにかすさまじい攻撃を繰り出したようだ。この盾がわずかにでも震動したのはじめてかもしれない。しかしほぼ同時に「ガッ!」という声が上がり、何かが奥の壁に激突した音が聞こえた。
見ると壁の下で青年騎士がぐったりと倒れていた。まだ死んでいないのを確認し、俺はその剣を取り上げて『アイテムボックス』にしまっておく。
横を見ると開いた扉の奥で、大人の女性と10歳くらいの男の子が抱き合ってこちらを見ている姿があった。
「私はラーガンツ侯爵家の者です。ドゥラック将軍のご家族でいらっしゃいますか?」
「は、はい……、そうですが……」
女性……ドゥラック夫人が震える声で答えた。
「ドゥラック将軍が外でお待ちです。一緒においでください」
「あの、夫が国王陛下に反旗を翻したというのは本当なのでしょうか?」
「本当です。現在王都はほぼ侯爵と将軍の軍によって掌握されています」
「そうですか、そのようなことになったのですね……。そちらの方は大丈夫でしょうか? 親衛騎士の方だと思うのですが……」
「まだ生きていますのでご安心を。この国の大切な人材ですから、このような戦いで失うわけにもいかないでしょう」
俺がそう言うと、ホッとした表情でドゥラック夫人は部屋から出てきた。その手は男の子の手をしっかり握っている。
彼女たちを先導しつつ、俺はもう一つの光が漏れている部屋を覗いてみた。するとそこにも母子と思われる2人の人間がいて、不安そうな目をこちらに向けていた。どうもこちらも人質のようだ。
「私はラーガンツ侯爵に雇われている冒険者です。すみません、貴方がたはどのような方たちなのでしょうか?」
「私たちは冒険者ギルドのマスターをしているダンケンの家のものです」
「ああなるほど。分かりました、お待ちください」
なるほどそういうことかと女性の言葉に納得する。俺は青年騎士の腰から鍵束を拝借して扉をあけた。
「一緒に参りましょう。ダンケンさんのところにお帰しします」
「あ、ありがとうございます」
俺は二組4人の人間を連れて地下から階上へと上がっていった。
王城の廊下にはすでに侯爵軍の兵士や冒険者が多数入ってきていて城内の制圧をはじめている。玄関ホールまで戻ると、そこにはラーガンツ侯爵とドゥラック将軍、リューシャ少年などが揃っていた。
「あなた……!」
「父上……っ」
ドゥラック母子が将軍のもとに駆け寄る。将軍は一瞬驚いたような顔をして、その後なるべく平静を装いながら2人を抱きしめていた。とりあえずこれで将軍も心のつかえが取れたことだろう。
ダンケン母子も冒険者ギルドまで送ってくれるよう侯爵に頼んだので、これでギルドもひとまず平常運転に戻るはずだ。ダンケン氏は責任を取るつもりみたいな発言をしていたが、それはギルド内で判断をすることなのでこれ以上は関われない。
二組の母子が城の外に兵士に連れられて去っていくのを眺めていると、鎧姿の侯爵が近づいてきた。
「ソウシ殿、我らはこれから謁見の間へと踏み込む。ただジゼルファ王がまだなにか隠し玉を持っていないとも限らぬ。共にきてくれるか?」
「承知しました。それと地下に親衛騎士の1人が倒れています。まだ生きていますのでご処置をお願いします」
「分かった。やはり貴殿は親衛騎士すらもものともせぬようだな」
「そのようです」
その後俺とアースリン氏を先頭に、侯爵、リューシャ少年、将軍、その他精鋭兵の一団で隊列を組み謁見の間に向かった。
謁見の間の扉は高さが5メートルはある大きなものだった。とはいえヴァーミリアン王国のそれと比べるとスケール感は一回り以上小さい。
周囲を兵士が囲んでいて、破城槌を構えた兵もいる。指示を待って突入する構えだ。
「ソウシ殿、先頭を任せてもよいか?」
「問題ありません」
侯爵に言われ、俺は扉の前に立つ。『気配感知』で探る限り待ち伏せなどはなさそうだ。
俺が扉をグッと押すと、やはり破砕音が響いて扉は軽く奥へと開いた。
「破城槌いらずどころか軽く押しただけで
侯爵の感心したような声を後頭部に受けつつ、俺は謁見の間へと足を踏み入れた。
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