14章 魔の巣窟 15
ギルドに寄って銀の杖を鑑定に出すと、『聖女の祈り』という名前付きの武器であることが分かった。複数の魔法効果がついていて、鑑定したギルド職員も非常に興奮していたのでかなりいい武器のようだ。名前からしてフレイニル専用武器確定である。
侯爵邸に戻るころには昼をかなり過ぎていた。
見ると玄関前にいかにも高級そうな馬車が止まっていた。これ見よがしに紋章のついた旗を立てているのでメカリナンの王家の使いだろう。
このタイミングで来るということは、宣戦布告まがいの脅しでもかけにきたのだろうか。玄関が開いたので俺は庭の立ち木に身を寄せて様子を見ることにする。
出てきたのは30過ぎくらいの貴族の男だった。
彼は見送りに現れたラーガンツ侯爵に「国王陛下の広きお心を無下になさるとは、きっと後悔なされますぞ」と吐き捨てるように言うと、馬車に乗り込んでそのまま去っていった。
玄関に近づいていくと、侯爵が俺を見つけて声をかけてきた。
「ソウシ殿、いよいよ始まることになる。明日からは我らと行動を共にしてほしい」
「分かりました。こちらも一通り準備はできています」
「よろしく頼む。ところでリューシャ様が貴殿に指輪をもらったとおっしゃっていたのだがそれは真か」
「先日『毒耐性』のついたものを手に入れたので、持っておかれたほうがよいと思ってお渡ししました。直接お渡しするのは問題がありましたか?」
「そうだな、一応献上品ということになるので私を通してもらいたいところだが、今言いたいのはそうではなく、あれは相当高ランクのものだろう」
「『毒耐性+3』と聞きました。売れば高値がつくとは言われましたが、そこまでのものではないのでは?」
そう言うと、侯爵は眉を潜めて妙な顔つきをした。
その顔には覚えがある。俺が変なことを言った時にパーティメンバーたちが見せる顔だ。
しかしここのところ魔法効果付きのアイテムは結構手に入れているところであるし、今日手に入れた『聖女の祈り』や、『不動不倒の城壁』に比べれば微々たる効果だとは思うのだが。
「魔法効果というのは『+1』がほとんどで、『+2』以上はそれだけで珍しいのだ。『毒耐性+3』の指輪など大陸中探しても10もあるまい」
「は……それは存じませんでした」
正直に答えると、今度は侯爵の目が少し鋭くなった気がする。
「その言い方だと強力なアイテムを複数持っているようだな。他の者には気取られぬようにした方がよいぞ」
「ご忠告感謝します。注意いたします」
「うむ。だがあの指輪はありがたい。『毒耐性+3』ならどれほど強力な致死毒も無効化できよう。そのようなものが必要という時点で悲しむべきことではあるのだが」
「その点は拝察申し上げます。私もあの指輪を差し上げる時には少しためらいました」
「ふふっ、やはり貴殿は面白いな。今回の
そう言うと、口もとに笑みを浮かべながら侯爵は玄関の奥に消えていった。
しかし『+3』の魔法効果付きの装飾品は思ったよりもレア度が高かったらしい。Cランクのボスから『強奪』したものは両方高レベル魔法効果付きだったが、継続的に手に入れられるならそれだけで金には困らなそうだ。もっともその分知られれば面倒も増えるだろうし、単に微妙な案件が増えただけの気もするが。
翌日早速国軍に動きがあったということで、侯爵軍も出陣することになった。
城壁に
ちなみに王都からラーガンツ侯爵領までは平坦地が続くため、地形を利用しての迎撃などもできない。結局は大軍同士が正面からぶつかり合うしかなく、ある意味素人が考える昔の戦争みたいな感じになるようだ。
戦力としては国軍は正規兵が3万ほど、しかし『特務兵』と呼ばれる冒険者崩れの兵が2~300、それに加えてアンデッドの召喚があるので実際の戦力としては正規兵5万程度はあるようだ。
それに対して侯爵軍は正規兵1万5千、元冒険者と現役冒険者を加えて200人前後、数日で他領から増援が来るらしいがその数も合わせて1万5千くらいとか。普通に考えたら戦うのは無謀に近い気もするが、冒険者のランクが高いのと、軍の練度と士気の高さ、合わせて国軍の士気の低さで実際には五分という話であった。
俺は冒険者隊に混じって戦場へと向かうことになった。冒険者隊そのものは一般兵の間に挟まって行軍する形になるが、全員が同じ装備の一般兵に比べて見た目も装備もバラバラな冒険者は明かに異質である。
「まさかアンタがこの戦いに出てくれるとは思わなかった。ラーガンツの出ってわけじゃないんだろ?」
歩いている時に話かけてきたのは精悍な顔の青年冒険者だった。先日の『悪魔』討伐の時に見た顔なのでBランクのはずである。
「ええ、自分はこの大陸の出身ではないんですよ。でもこの国を出るには侯爵に勝っていただかないとならないようなので」
「は? そんな理由で参加してるのかよ。アンタなら検問とか全部ぶっとばして逃げられるだろ……ってそういう訳にもいかないか」
「冒険者カードに記録されますからね。違法行為はさすがにちょっと」
「だからって戦争に参加するってのもすごいな。だがアンタがいれば楽に勝てそうな気がするぜ」
「そうそう、この間もすごかったもんね。あの魔法の嵐を平然と受けきるし、あんな化物一撃で粉々にするし」
青年のパーティメンバーらしき魔導師風の女性が声をかけてくる。
「あの『悪魔』とは戦い慣れてますからね。しかしこの国も大変ですね。自分はヴァーミリアンとオーズを旅してましたけど、どこもメカリナン王の工作員がいて何かやってましたから」
「あの陰険国王とそれに媚びてる貴族どもがすべての元凶なのよね。自分らで好き勝手贅沢しといて、下々からは搾り取るだけ搾り取って。オーズを取れば生活が楽になるとかいって、結局余計なこと始めたせいでこっちはよけい苦しくなってさ。正直私らが王都まで行けば王都の人たちは両手を上げて喜ぶんじゃないかな」
「自分も王都には一度行きましたが酷い様子でした。しかし王都に行くためにはこの戦いで勝たないといけませんね」
俺がそう言うと青年は苦い顔をした。
「同じ国の人間同士で戦うなんてバカの極みさ。多分兵士もやる気はないから、アンデッドと冒険者くずれどもを一掃できれば総崩れになるはずだ」
「それでいいなら気は楽ですね。正直一般人を相手にするのは気が進みませんし」
「アンタの力を見たら全員武器を放り出して逃げてくさ。できれば派手にやってもらえると助かる」
そんな話をしながら行軍していくと、侯爵軍は見るからに戦いにうってつけといった大平原へと入っていった。
指示が入り、兵士たちが陣を築き始める。冒険者隊のテントも用意はしてもらえるようだ。
さて、話では一晩明けたら国軍も目の前まで来るらしい。現代日本に生まれた俺がこんな形の戦争に、しかも先陣を切る形で参加することになるとは思わなかったが、ここまで来たら覚悟を決めるしかない。なんらかの流れに乗せられているとは常に感じているところなので、もうやることをやるだけだ。
しかし本来なら恐怖や不安でたまらないという状態でないとおかしいはずだ。にもかかわらずまったくの平常心、それどころか早く戦いたいような気分になってきているのは本当に不思議で仕方がない。あの戦争への忌避感はなんだったのか。これがスキルのせいであるならまだ救いがあるのだが、俺自身が戦闘狂に近づきつつあったりしたら由々しき事態かもしれない。
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