13章 オーズへ 18
『精霊大社』へは俺一人で行くことにして3人は宿へ戻した。
『精霊大社』の門番に声をかけると、ほぼ顔パスで『精霊大社』の本殿に案内される。
『大社』内は多くの神官たちがせわしなく動いていて、一昨日から立て続けに起こった事件への対応に追われていることが見て取れた。
これでは大巫女様には会えないか……と思ったのだが、取次の神官に話をするとすぐに大巫女様の執務室に通された。
執務室には大巫女ミオナ様とシズナ、そしてセイナと神官が数名いた。
俺が入ると、ミオナ様は椅子から立ち上がり、両手を広げて迎えてくれた。
「おおソウシ殿! ソウシ殿のおかげで多くの民が救われました! 皆ソウシ殿たちがやはり『精霊女王』さまの使いであると口々に言っておりまするぞ」
「ありがとうございます。しかし私としてはあの場で冒険者としてなすべきことをなしただけと思っております」
「うむ、さすが『精霊獣』さまが見込まれた御仁ですのう。しかしセイナや国宝を取り返していただいたこと、あの悪魔の討伐、そして多くの民を助けていただいたことなど、オーズ国はソウシ殿たちに返しきれぬ恩を受けております。きっと相応の褒賞をお渡しいたしますゆえ、それについてはしばらくお待ちくださいますようお願いもうしあげまする」
「承知いたしました。今は都の大事をおさめるのが最優先と思います。こちらのことはお気になさいませんよう」
「済みませぬがその言葉に甘えさせていただきます。さて、此度はなにか急ぎの話があるとお聞きしましたがどのようなことでございましょうか?」
すすめられた椅子に座りながら、俺は単刀直入に話をした。
「実は冒険者ギルドから依頼があり、私たち『ソールの導き』の方で今回の『悪魔』の痕跡を調査することになりました。つきましては『悪魔』が出現したらしき山を調査することをお許しいただきたいのです」
「大恩人であるソウシ殿の願いであればもちろん許可はいたします。もし調査するとなればシズナも同行するのでしょうか?」
「もちろんです。彼女は『ソールの導き』の一員ですので」
俺がそう答えると、ミオナ様は頷いて近くの神官と二言三言言葉を交わした。どうやら思ったとおりの展開になりそうだ。
「それであれば、その調査にわれらも関わらせてもらっていいでしょうかのう? 国からも『ソールの導き』に調査の依頼を出しますゆえ、結果をシズナ経由でこちらにも知らせていただきたいのです」
「国からの依頼となれば我々の実績にもなりますので、喜んでお引き受けいたします。可能ならば明日朝から調査に参りたいと思っております」
「承知しました。シズナは明日から冒険者に戻らせましょう。依頼はこの後すぐにギルドへ届けさせますのでよしなにお願いいたしまする」
「ありがとうございます。では私は準備がありますのでこれにて失礼いたします」
俺が立ち上がると、ミオナ様がそっと近づいてきた。
「ところでソウシ殿、シズナは少々
「は……」
ミオナ様の言う「側に置く」は、どう考えても「妻に
いきなりとんでもないことを小声で耳打ちされ、俺は言葉を失ってしまった。
シズナを見ると普通の表情でこちらを見ているので、今のは彼女も聞かされていない話のようだ。というかいくらなんでもこのタイミングは……もしかしてそれが褒賞の一つとか、さすがにないと思いたい。
「そういったことは各人の情の絡むところでございますので……」
俺はそう言いながら、その場を逃げ出すので精いっぱいだった。
翌朝一番にギルドで『悪魔』の調査依頼を受けた俺たち『ソールの導き』は、ミオナ様が用意してくれた馬車に乗って西の山へと向かった。
馬車に揺られること30分で山の
見上げる山は高さは500メートルもないだろうが、南北に尾根が長く連なっており、山地としての規模は大きいようだ。この分だと奥側にも山が連なっていそうである。
こちらがわの斜面は比較的緩やかで、杉に似た木が隙間なく並んでいるので伐採場として適した山なのだと分かる。よく見ると植林もされているようで、オーズ国の環境に対する先進性がうかがえた。
問題はその斜面に、一本の『道』ができていることである。
『道』と言っても木々が薙ぎ倒された跡が山頂の方まで続いているだけなのであるが、それがあの暴走悪魔が通った跡なのは明らかであった。
「この跡を辿っていくのですねソウシさま」
山を見上げるフレイニルの目は少し楽しそうに見える。以前なら不安そうな顔をしていたはずで、彼女も冒険者として成長したのだろう。
「そうだな。思ったより調査は楽かもしれないな。ただ目的地になにがあるかにもよるが」
「もしかしたら新しい『悪魔』が現れるかもしれないということですか?」
「それもある。『悪魔』の棲み処があったりするかもしれないし、この跡がどこまで続いているかも分からない。とにかく気を付けていこう」
「はいソウシさま」
一応食料は10日分買い込んだ。片道5日までは行けるはずだが、この跡がそこまで続いていいないことを祈るばかりである。
「よし、とりあえず行けるところまではいく。フレイは常に気配の感知を忘れないようにしてくれ。ラーニとスフェーニアの感覚も頼りだ。よろしく頼む」
「オッケー。ニオイなら任せてっ」
「見る方はお任せください」
マリアネとシズナの様子も確認し、俺は山へと足を踏み入れた。
「なんていうか、ソウシといると色々常識が崩れるよね」
「そうですね、先日の瓦礫の撤去もそうでしたが、『アイテムボックス』をこのように使える冒険者はまずいないでしょうね」
ラーニとスフェーニアが後ろでそんなことを言っている。
理由は俺が踏み倒された木を片っ端から『アイテムボックス』に放り込みながら進んでいるからである。
あの暴走悪魔が道を作ってくれたのはいいのだが、それは結局木々が薙ぎ倒されてできた道なので、人間が歩けるものではなかった。なにしろ倒れた木が邪魔すぎるのだ。そこで考えたのが、目の前の木をすべて『アイテムボックス』に入れながら進むというものであった。
「回収した木は木材としても使えますし、さすがソウシさまです」
「ああそういえば……使えるかもしれないな」
俺を褒めることに余念のないフレイニルに答えながら、俺はひたすら斜面を登っていく。
特にモンスターが現れるようなこともなく、2時間かからずに山頂までたどりつく。
「うえぇ、こんなに山が続いてるんだ」
山頂からの景色を見てラーニがうめいた。
目の前に広がるのは、ひたすらに山が広がる一大山地であった。そのほとんどが緑に覆われていて、一見すると起伏の激しい樹海にも見える。
とにかく見渡す限りの緑だが、その中にくっきりと一本のラインが伸びているのが分かる。
それは今俺たちが立っているところからつながる道であり、暴走悪魔の通り道でもある。
「スフェーニア、この道がどこまで続いているか見えるか?」
「はい……あの尾根までは続いているようですが、その先にはないようです」
スフェーニアが指差すのは、一度山を下りて再び300メートほど登ったところにある尾根である。直線距離だと10キロくらいだろうか。
「ということは、あの尾根の向こうに『悪魔』が発生した場所があるということか」
「その可能性が高いと思います」
「思ったより近そうで助かるな。よし、ちょっと休んだら出発しよう」
飲み物と行動食を食べつつ小休止をしたあと、俺たちは次の尾根に向けて山を下りはじめた。
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