13章 オーズへ 14
翌早朝、俺たちは乗ってきた馬車2台で首都への帰途へとついた。
もちろんセイナと賊2人も一緒である。セイナと国宝の無事を早く知らせた方がいいだろうということで、馬車は来たときと同じように全速力で走っている。
「今回はフレイのお手柄だったな。フレイがいなかったらあの馬車に気付かなかっただろう」
俺が褒めると、隣に座っていたフレイニルは嬉しそうに微笑んだ。
「私のスキルがお役に立てて嬉しく思います。でもあの賊を倒して国宝を取り返したのはソウシさまです。私がここにいるのもソウシさまのおかげですから、すべてはソウシさまのお手柄だと思います」
「それはさすがに強引すぎないか」
「そんなことはありません。私の力がこの先なにか人の役に立つようなことがあっても、それらはすべてソウシさまの導きでなしたことです」
俺を見るフレイニルの目が若干トランス気味な気がする。助けを求めてラーニたちの方を見るが、ニヤついていたり微笑んでいたり無表情だったりでどうも相手にしてくれそうもない。
むしろ俺たちのやりとりをじっと見ていたセイナが、「ソウシ様はすばらしい方なのですね」とフレイニルに同調する始末である。
「そうです。ソウシさまは強く優しく賢く、常に先のことを見通されて行動を怠らない方なのです」
「シズナ姉様を助け、『精霊獣』さまを救い、そしてわたくしも助け『招精の笛』も取り戻してくださった……フレイさんのおっしゃる通りに思います。母上様にもきちんとお伝えしないとなりません」
「すばらしい御心がけだと思います。私もお手伝いできることがあったら言ってください」
「はいフレイさん。その時はよろしくお願いします」
2人のやりとりが暴走気味でちょっと怖い。
「そんな誇張して伝える必要はありませんから。あったことだけお伝えください」
と釘を刺しておくが、シズナまで「しかしセイナを救ったことと『招精の笛』を取り戻したのは本当のことじゃしのう」と言うので諦めることにした。
しばらく車上で過ごしていると馬車の速度が急に緩やかになった。ラーニが窓から首を伸ばして外の様子をうかがう。
「あ、なんか検問やってるみたい。これってセイナを探してるんだよね?」
「多分そうだな。無事を知らせてしまおう」
馬車が止まったので、全員で馬車を下りる。
目の前には首都を囲む物見櫓の一つが立っていた。街道の1キロほど向こうには首都の外縁が見える。
櫓の周囲には兵士たちが30人ほどいて街道を封鎖していた。俺たちが近づいていくと、セイナとシズナの姿を認めて一斉に兵士たちがざわついた。
シズナが前に出て声を張り上げる。
「皆の者、巫女セイナは我らが無事に助けた。国宝の『招精の笛』も取り戻し、下手人も捕らえたゆえ、その旨を大巫女様に急ぎ知らせるのじゃ」
「承知いたしましたシズナ様!」
隊長らしき兵士が姿勢を正して答え、部下に何かを命じた。部下は物見櫓に登っていくと、櫓の上にある魔道具を操作しはじめた。強力な光を発する道具のようだが、規則的に点滅をさせているので、もしかしたらモールス信号のようなもので通信をしているのかもしれない。
「ところでいったい首都で何が起こったのじゃ?」
シズナが質問をすると、その隊長は一通りのことを話してくれた。
それによると首都の外縁に連続で巨大ゴーレムが現れ、その対応に夜中まで気を取られていたところ、賊が『精霊大社』に忍び込みセイナと『招精の笛』をこっそりと運び出したらしい。気付いたのが明け方近くで、結果として対応が後手に回ってしまったようだ。
「大巫女様は無事なのじゃな?」
「そのようにうかがっています」
「ならばよい。我らはこのまま『精霊大社』まで向かうゆえ、そなたらは直近の指示に従って行動をせよ。皆もご苦労であったのう」
「ははっ、ありがとうございます」
隊長に合わせて兵士たちが一斉に頭をさげる。
そのやりとりを見ていると、シズナもしっかりと上に立つ者として育てられたのだと改めて感じる。
「では大巫女様のところに向かおうかのう」
シズナがこちらに戻ってくる。ちょっと恥ずかしそうな顔をしているのは、似合わないことをしたなどと思っているのだろうか。
俺たちが馬車に戻ろうとしたとき、スフェーニアが首都の南、遠くに山々が見える方を指差した。
「あちらに煙が見えますが、あれは狼煙ではないでしょうか?」
「狼煙?」
見ると確かに、数キロ先に赤い色の煙が3本、真っすぐに天にのぼっているのが見えた。
シズナがそちらを見て眉を寄せる。
「あれはモンスター出現の知らせじゃの。しかも3本立っているということは、よほど強力なものが現れたか大群が現れたかのどちらかじゃ」
「さすがにスフェーニアでもなにが現れたかは見えないか?」
スフェーニアは弓使いらしく『遠見』というスキルを持っている。彼女がなにかを見つけることが多いのはそのせいだ。
スフェーニアはじっと目を凝らし、そして少し厳しい表情を見せながら言った。
「見えました。どうやら例の『悪魔』のようです。私たちが戦った8本足のものが少なくとも3体はいるようですね」
さらなるイレギュラーな事態が現れたが、とりあえず俺たちはいったん『精霊大社』へ向かうことにした。
まずはセイナと国宝『招精の笛』、そしてマゼロら賊の身柄を引き渡すためである。
『悪魔』の討伐に向かうにしても、さすがにそれらを手元に置いたままというわけにはいかない。
首都の中は比較的落ち着いているように見えた。昨夜のフレッシュゴーレムの襲撃に続いての緊急事態のはずだが、住人たちは各自の家か避難所に向かうように訓練されているらしく不用意に出歩く者はいないようだ。
馬車はほぼノンストップで首都中央の『精霊大社』にたどりつく。
馬車をおり、シズナとセイナに続いて『精霊大社』に入ると、すぐに大巫女ミオナ様が神官数人を従えて現れた。
「おおセイナ、無事であったか!」
ミオナ様は母の顔になってセイナを抱きしめると、「『精霊女王』様の導きに感謝せねば……」と言いながら涙を流した。セイナの誘拐が分かってからずっと心配をしていたはずで、その心情は察するに余りある。
「大巫女様、『招精の笛』も無事に戻りましてございます」
シズナが笛を
「間違いなくこれは『招精の笛』である。セイナともどもよくぞ取り戻してくれた」
「そしてこちらがこの度の騒ぎの下手人たちでございます。どちらも冒険者くずれのようですのでご注意くだされ」
「あい分かった。衛士を呼びひっとらえさせよ」
ミオナ様が神官に指示をすると、すぐに屈強そうな衛士が3人現れた。雰囲気的にもと冒険者の強者だろう。
「そいつらを捕らえ牢に入れておくように。冒険者くずれとのこと、ゆめゆめ逃がすことのないようにせよ」
「かしこまりました大巫女様」
衛士たちがマゼロら2人を連れていく。去り際にマゼロが俺の方を睨んでいた気がするがそれはまあ仕方ないだろう。逆恨みもいいところだが、この手の話は理屈ではないからな。
「大巫女様、あの男はゴーレムを使役いたします。もう一人もアンデッドを使役するようです。くれぐれもご注意ください。
俺が一応そう伝えると、ミオナ様は目元を緩めて頷いた。
「ご助言感謝いたします。『精霊』の力に守られた牢に入れますゆえ、アンデッドはもとよりゴーレムのような疑似生命の類は生み出せぬはずです。ご安心くだされ」
「それならば安心いたしました」
「ところで今回の件、やはりソウシ殿の尽力の賜物とお見受けいたすがいかがでありましょうや?」
「こちらのフレイニルが闇夜を走る馬車に気付きまして、それにより偶然セイナ様をお助けできた次第です」
「うむ、詳しく話をお聞きしたいところではあるのですが、先ほどまたモンスターが現れましてのう」
「我らもそちらの対応に向かいたいと思いますので、詳しいお話はその後でよろしいでしょうか」
「おお、ソウシ殿たちもお出でになってくれるならありがたく存じますぞ。どうかよろしくお願いいたします」
と言われたものの、
俺たちが行った頃には終わっているか……と考えながらメンバーの方を振り返った時、入り口から男性神官が急ぎ足で入ってくるのが見えた。
その神官は大巫女様の前に行くと小さな声で話を始めた。
恐らく俺たちには聞こえないようにしたのだろうが、残念ながら俺の耳にはその言葉が入ってきてしまう。
「大巫女様、大事にございます。先ほど現れたのとは別の新たなモンスターが出現いたしました。非常に強力な個体で、冒険者たちの間を抜け、街を破壊しながら『精霊大社』に一直線に向かってきている由にございます」
「なんと!? 急ぎ衛士を集め迎え撃つ準備をせよ」
「ははっ」
どうやら俺たちが対応しないとならない件のようだ。
以前なら上位ランクの冒険者に任せて……みたいに考えるところだが、すでに自分がAランク以上であるという自覚を持ってしまった以上、俺がやるしかないだろう。その『悪魔』がどの程度のものかは分からないが、物理属性であることを祈るのみだ。
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