13章 オーズへ 12
魔石を集めてゴーレムの死骸を処分していると、すっかり日が暮れてしまった。さすがにそのまま馬車を飛ばして帰るわけにもいかず、近くの農村にお邪魔して一泊をすることにした。
いきなりの訪問で大丈夫か、というのはシズナのおかげで杞憂に終わった。むしろ巫女様がきてくれたと下にも置かない歓迎ぶりで、逆にこちらが面食らってしまうレベルであった。
人数が多いので宿泊は分宿になった。俺は『酔虎』の男性メンバーと同じ場所に寝ていたのだが、夜中にふと人の気配を感じて起きてしまった。
外に誰かいるようだ。不穏な気配ではないので『ソールの導き』の誰かだろう。そっと家を抜け出して外に出る。
月の光に照らされているのは10軒ほどの木造の家と、それを囲む木の柵、そして何本かの果樹である。
遠くには里山や森も見え、100メートルほど向こうには首都へと至る街道がぼんやりと浮かび上がっている。
静謐な景色の中、一人立っていたのはフレイニルだった。
「フレイ、眠れないのか?」
「あ、申し訳ありませんソウシさま。少し妙な気配を感じて起きてしまいました」
「妙な気配? アンデッドか?」
「はい、どうやらそのようです。遠くから近づいてくるような……あちらの方からですね」
フレイニルが指差すのは街道の首都方面だった。
耳を澄ますと、確かに微かな物音が聞こえてくる気がする。どうも蹄と車輪の音のように聞こえる。まさかアンデッドが馬車に乗ってやってきたと言うのだろうか。
「フレイ、念のため他のメンバーを起こしてきてくれ。俺は先に街道のほうに行って様子を見てくる」
「わかりました。お気をつけてソウシさま」
フレイニルと別れて街道の方に歩いていく。目を凝らすと、遠くから馬車のようなものが走ってくるのが見える。幌のない4輪の荷馬車で、荷台には数名の人間が乗っているようだ。
問題なのはその馬車を
「あれは馬のスケルトン……なのか?」
馬車の前を走るのは骨でできた馬2頭であったのだ。なるほどフレイニルのスキルに反応したのはあれだろう。
骨の馬にひかれた馬車が、夜中に首都から国境方向に走ってくる。誰がどう見てもまともな状況ではない。当然車上の人間が普通であるはずもないだろう。
俺は『アイテムボックス』から松明の魔道具を取り出した。ダンジョンでは使うことのないものだが、野営では活躍するアイテムだ。
街道の真ん中に立ち、火のついた松明を大きく振り回して停止のジェスチャーをする。もしかしたらそのまま突っ込んでくるか……と思ったが、馬車はゆっくりと減速をした。
馬車には御者が1人、他に3人の人間が乗っているようだ。停止すると同時に車台の左右から二人の人間が下りてくる。どちらもフード付きのローブを被っているが、体格から見て男だろう。無言のまま俺を左右から挟み込むように近づいてくる。
「悪いですね、この先デカいモンスターが出て今通行禁止なんですよ」
正直スケルトン馬を前にして言うセリフとしてはとぼけ過ぎかと思っていると、右の男がボソッと口を開いた。
「ああ知ってる。仲間が呼んだモンスターだからな」
言った瞬間に、月下に銀光が閃いた。その男が『疾駆』しながら剣を薙いだのだ。
しかしその刃は、俺の腕に弾かれて空を切る。『金剛体』『鉄壁』持ちの俺の身体はすでにミスリル並の防御力を持つ。
「ガ……ッ!」
お返しに男のみぞおちに拳を叩きこんでやる。高レベルの『剛体』持ちのようだが、俺の打撃力の前には布の服ほどの意味もない。
「なにっ!?」
驚愕の声を漏らしつつ、それでももう一人が剣で突いてくる。同じく切っ先を弾いてやり、こめかみにフックを叩きつける。手加減はしたがゴキッと音がして……くそ、いやな感触だ。
二人が瞬時に倒されたのを見てか、御者がスケルトン馬に鞭を入れた。俺は『アイテムボックス』からメイスを出して、馬二頭を粉砕、さらに御者を掴んで地面に叩きつける。
「おごッ!」
御者が白目をむいて気絶する。見ると最後に残った一人はすでに馬車を離れ、来た方向に走っていくところだった。俺が追おうとするとそいつは途中で足を止め、奇妙な動きをしはじめた。なにかアイテムを地面に置き、さらに両手をつけぶつぶつと呪文のようなものをつぶやいているようだ。
「サモン、ゴーレム」
男がそんな言葉を口にすると、地面が盛り上がり、身長5メートルはある巨大な人形……人型のフレッシュゴーレムが出現した。なるほど奴が『死体使いのマゼロ』か。
人型ゴーレムは太い足を前後させて俺のほうに迫ってくる。しかし以前戦ったときの迫力は感じない。俺が強くなってしまったからだろう。
振り下ろしてくる腕をカウンターメイスで爆散させ、本体に全力『衝撃波』を叩きつける。ドンッと音がして、巨大ゴーレムは五体バラバラになって周囲に吹き飛んだ。
「なっ!? 一撃だと!?」
そう叫びつつ、踵を返して逃げようとするマゼロ。
「いっ!?」
その太ももに矢が刺さる。動きが一瞬止まったのは『行動停止』の効果だ。
俺はその隙にマゼロにとびかかり、その筋ばった身体を押さえつけた。
「助かった、スフェーニア」
「どういたしまして」
俺が振り返ると、弓を手にしたスフェーニアを先頭にして、寝間着姿のパーティメンバーと、カルマたち『酔虎』の4人が歩いて来るところだった。
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