13章 オーズへ  11

 3時間ほど馬車に揺られていると、急に走行速度が緩くなった。頭を出して外を見ると、広大な牧草地の中、道から300メートルほど離れたところを5体の巨大なワニ型ゴーレムが歩いているのが見えた。やはりさまざまな死体をつなぎ合わせた感じの表皮を持っており、エルフの里で遭遇したものとほぼ同じフレッシュゴーレムである。こちらには気付いていないようで、尻を向けて国境方向へ進んでいる。


「ゴーレムだ、皆行くぞ」


 声をかけて馬車から降りる。


 後ろの馬車からもカルマたち『酔虎』の4人も降りてくる。ちなみに『酔虎』は男女半々のパーティである。


「ソウシさん、どうするんだい?」


 カルマが遠くのゴーレムを睨みながら俺の隣に来る。


「まず魔法で一番近くの一体を倒しましょう。後は俺が『誘引』で引き付けて正面から攻撃を受け止めますので、動きが止まったところを一体ずつ倒してください。こちらは左から行きます。『酔虎』は右からお願いします」


「1体やったとして残り4体を一人で引き付けるのかい?」


「ええ問題ありません。とりあえず魔法の射程まで近づきましょう」


 カルマは少し呆れたような顔をしたが、ラーニに「ソウシなら大丈夫だからっ」と自信満々に言われて引き下がった。


 俺はメンバー全体に作戦を説明し、後衛組のフレイニル、スフェーニア、シズナに魔法の準備を指示をする。カルマもオーケーのサインを出しているので、俺は先頭に立って、悠然と牧草地を進むゴーレムの方に向かう。


 100メートルほどまで近づくと、もっとも近くの1体がこちらに気付いたようだ。巨体をめぐらせてこちらへと向かって来ようとする。


「魔法撃て」


「いきます」「はい」「いくのじゃ」


 俺の指示で、フレイニルとスフェーニア、そしてシズナが一斉に魔法を放つ。カルマのパーティの魔導師一人も魔法を放ったようだ。


 二条の光線と、合わせて50本近い炎の槍の直撃を受けて、巨大ゴーレムの巨体は半ば千切れて横倒しになった。Bランクパーティの魔法一斉攻撃は強烈である。


 残り4体がその時になって俺たちに気付いたように、一斉にこちらに巨体を動かし始めた。離れたところから見ると緩慢な動きに見えるが、実際には結構なスピードで動いているはずだ。


「来るよソウシさん」


「任せてください」


 カルマに答え、俺は『不動不倒の城壁』を構えながら前に進み出る。


『誘引』を発動すると、4体のゴーレムは唸り声をあげてすべてがこちらに向かってきた。


「行くよっ! 右から脇を狙う!」


 カルマたちが動き出す。同時にラーニとマリアネが左に走っていき、フレイニルとシズナは精神集中を始めた。スフェーニアはその場で矢を連射し始める。『精霊』2体は後衛組の護衛だ。


 先頭の一体が大口を開けて噛みつきにくる。盾で受け止めメイスで顎を粉砕してやると、ビクンと跳ねて後ろに下がった。


 間髪入れずに次の一頭が体当たりにくる。盾をつきだして受けると逆に向こうの鼻先がぐしゃりと潰れた。


「おおッ!」


 叫びつつ力任せに押し込んでやると巨体がよろけながら後ろに下がる。圧倒的な質量差を逆転させるスキルの力には我ながら驚くばかりだ。


 右の一体がさらに体当たりに来るか、というところでカルマの大剣がその前足を綺麗に斬り落とした。さらに『酔虎』の前衛の斧が背中に振り下ろされ、背骨にあたる部分を切断したようだ。そのままカルマが首を落として息の根を止める。さすがBランク、圧倒的な攻撃力である。


 一方で左の一体も、ラーニがミスリルの剣で後ろ足を切断、マリアネが連続で鏢を撃ち込むと麻痺効果が付与されたのか動きを止めた。頭部に二条の光と炎の槍が突き刺さり、ラーニが首を半ばまで切り裂くと、ゴーレムは横倒しになり動きを止めた。


 残りは二体だ。再度体当たりに来るところを俺はメイスを横一閃する。最大出力の『衝撃波』を付与してやると、2体の頭部は一撃で弾けたように消し飛んだ。


 これで全滅だが、やはりこのゴーレムはBランクはない気がするな。せいぜいCランクがいいところだろう。


「ラーニ、スフェーニア、周囲に気配はないか?」


 確認をするが2人とも首を横に振った。『死体使いのマゼロ』は近くにいないということだ。


 俺がちょっとだけ考え事をしていると、カルマが息を弾ませてやってきた。


「いやいやソウシさんすごいもんだね! あのデカブツが全然相手になってないじゃないか」


「ああいう力だけの相手には強いんですよ。それよりカルマさん、妙だと思いませんか?」


「なにがだい?」


「今のゴーレムは、多分メカリナンに雇われたマゼロという奴が召喚したものなんですよ。でもそれにしては何の目的もなく歩いていただけのように見えました」


「マゼロ……聞いたことあるね。しかしゴーレムは国境の方に向かってたんだろ? だったら砦が目的だったんじゃないのかい?」


「どこでも召喚できるならこんな離れたところで召喚する必要はないと思うんです。どっちかというとさっきのゴーレムはわざわざ見つかるようにゆっくり動いていた感じさえしましたし」


「っていうとどういうことだい? アタシは頭を使う方はちょっと苦手でね」


「多分、首都から兵力をこちらに向けさせるためなんじゃないかと」


「陽動作戦って奴かい? でもそれなら向こうの狙いは当てが外れたってことになるんじゃないのかねえ。結局出てきたのはアタシたちだけだったしさ」


 カルマは肩をすくめニヤッと笑った。


 確かにその通りではある。結局動いたのはBランクパーティ二つだけだったわけだから大勢に影響はないはずだ。


「そうですね。考えすぎかもしれませんし、もしなにかあっても他の人たちが出ればいいだけですしね。魔石を回収して帰りましょう」


 そうは言ったが妙に落ち着かない。もしこれが陽動だとして、ここオーズ国でなにかするとしたら首都ガルオーズでということになるはずだ。


 メカリナンがオーズが激発することを狙っているなら、オーズにとって相応のなにかに手をかけるということになるだろう。以前はそれがシズナであったわけだが……どうにも落ち着かない感じになりそうだ。




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