13章 オーズへ 06
翌日は予定通りF・Eクラスのダンジョンを踏破した。ラーニの『疫病神』レベルが上がったのかザコの出現数が増えた気がするのだが、低クラスのダンジョンならなんの問題もない。
シズナ嬢以外は踏破しているダンジョンなので、スキルを得られたのはシズナ嬢だけになる。『麻痺耐性』『地属性魔法』『安定』を得て本人も『精霊』も順調にパワーアップした。
町に戻ると夕刻であった。
いったん宿へと直行し、俺は子爵邸へ、マリアネはギルドへ向かう。宿で何かあるとも思えないが、居残り組のフレイニルとラーニ、そしてスフェーニアにはシズナ嬢の周囲に気を配っておくように言っておく。
俺とマリアネは例のメカリナン国の冒険者の件をそれぞれ子爵とギルマスに伝えることになっている。まあどちらも認識はしているのだろうが一応確認のためだ。
子爵邸には朝一度行ってアポイントメントは取ってあったので、すぐに執務室に通された。
「ようソウシ殿、なにか情報があるとか?」
執務室で俺とサシになると、砕けた口調になるのは子爵のお約束である。
「ええ、恐らくはご存知とは思うのですが確認まで。昨日ギルドでメカリナン国の冒険者と思われる人間が、アンデッドの件をオーズ国と結びつけて語っておりまして。風説を流布して市民感情を煽ろうとしている風が見えましたのでご報告に上がりました」
「ふむ……まあ座ってくれ。それで状況をもう少し詳しく教えてほしい」
「はい。昨日ギルドに行きますと――」
とりあえず昨日見聞きしたことをそのまま話す。
一通り聞いた、眉を寄せて子爵は「ふぅむ……」と唸った。
「その男がメカリナン国出身だと考えた理由は」
「パーティメンバーのラーニが鼻が利きまして、以前シズナ嬢をはめようとした冒険者と同じ臭いがすると。物的証拠があるわけでもないのですが」
「まあそうだろうな。冒険者の出身地など正式にどこかに記録されているものでもないしな」
「問題なのは、もしこの疑惑が真実であるなら、シズナ嬢の件と合わせてメカリナン国が冒険者を工作員としていることなのです。そういったことは容認されているのでしょうか?」
「まさか。冒険者ギルドとの協約でもその手の行為はかなり厳格に禁止されている。ただメカリナンはな……」
「なにかあるのですか?」
「冒険者ギルドごと巻き込んでるって話があるのさ」
子爵はそう言うと、非常に苦い顔をした。
「もしそれが本当なら冒険者ギルドとしても放置できないのではありませんか?」
「本当なら、な。誰もそれを立証できなければ存在しないのと変わらん。金を横領したとかなら証拠も揃えられるだろうが、冒険者が工作員になってるなんてのは物的証拠が残るものでもない」
「ああ、なるほど……」
また非常に微妙な問題が出てきたものだ。下手をするとギルド内の汚職とかそっちまで話が広がりそうだ。
「しかしメカリナンが冒険者を工作員にしてるってのは当然考えにはあったが、実際にそれらしい行為を目にしたってのは初めての話かもしれん。他の領にも出入りしてる可能性はあるし、貴重な情報なのは間違いない」
「それなら子爵様のお時間をいただいた甲斐がありました」
ということで、子爵はギルドと共同でなんらかの対策は取るとのことだった。しかしメカリナン国がこの国とオーズ国の不仲を煽っているとして、この国にだけちょっかいをかけているはずもない。オーズ国に対してもなんらかの仕掛けをしているのだとすると、オーズに入ってからも注意は必要そうだ。
翌日は15階層あるDクラスダンジョンに潜った。俺たちが『ドラゴンスレイヤー』になったダンジョンである。
最下層までは7時間ほどかかっただろうか。一度の休息を挟んだだけで一気に進んでしまった。5階層と10階層の宝箱だが、5階は通常ボスのミノタウロスで『金のかけら』、10階はレアボスの『メタルギガントトータス』で『エリクサー』が出た。
やはり一回踏破したダンジョンでもレアボスだと宝箱のレア度は維持されるようだ。俺がそれを指摘すると、マリアネに、
「それは一応報告はされている事項です。ただそれを1パーティで検証できる『ソールの導き』は普通ではありませんが」
と言われてしまった。ちなみにガイドにも小さく書いてはあったらしい。
「それよりDランクダンジョンで2回も『エリクサー』が手に入ることの方が驚きです。前回もこのダンジョンで得たということなら、このダンジョンが特殊な可能性もあります」
「『エリクサー』が出やすいダンジョンなんてことになったら大変なことになりそうだな」
「そうですね。しかし検証しようにも入手アイテムについては報告義務もありませんから記録をあたることもできませんし……」
「俺たちが何度か入ってみるか。そんな時間があればになるが」
「可能なら是非お願いしたいところです」
と言われたが、安請け合いをしていると全ダンジョンのレア宝箱調査とかやらされそうだ。
さて最下層15階は通常ボスの『スモールドラゴン』だったが、もはや俺一人でも楽勝なザコ……というわけにもいかないので、フレイニルとスフェーニアに魔法で翼を奪ってもらって、俺がブレスを相殺しつつシズナ嬢にとどめをさしてもらった。
「どうも自分が倒したという実感がないのう」
「そこは仕方ないでしょう。私たちとの実力差が埋まればシズナさんも協力して倒す形になりますよ」
と慰めると、「それはわらわをパーティに誘ってくれているのかえ?」と聞かれてしまった。
「いえ、そういう意味では……」
と言いかけたところでラーニがサムズアップをしているのが目に入る。いや本当にそういう意味じゃなかったんだが。
「……そういう意味もなくもありませんが、まあ今のはものの例えということで」
と誤魔化しておいた。
なおシズナ嬢は『
翌日は買い出し兼休息日とした。買い物中に寄ったギルドではシズナ嬢がDランクに昇格したので、昼の食事を少し豪華にしてお祝いをした。
そしてその翌日、俺たちはトルソンへと出発した。2日かかる距離だがマラソンしてその日の夕方にはトルソンへ到着する。
トルソンでも3日間逗留し、Fクラスダンジョン2つとDランクダンジョン1つを踏破した。シズナ嬢が得たスキルは『幻覚耐性』『冷気耐性』『衝撃吸収』であったが、特に『衝撃吸収』は『精霊』の防御力アップに貢献するだろう。
ちなみにギルドに顔を出して受付嬢のキサラに挨拶をすると、『あれ? ソウシさんなんか別人みたいに若くなりましたね』と言われたので、どうも若返ったのはここ最近のようだ。やはり上位のモンスターを倒すことが肉体年齢へ影響するのだろうか。
さて1日休んだ後はいよいよ国境へ向かってトルソンを発った。
国境までは3日ほどかかるとのことなのだが、基本的に国交のない国なので道もまともに整備はされていない。それどころか国境には砦などもなく、ただ山脈が国と国を隔てているだけらしい。
「俺はそういったことにあまり詳しくないんだが、国境に砦もなにもないというのは普通ではないよな?」
辛うじて土が露出して道のようになっている街道を歩きながら、俺はマリアネに聞いてみた。
「普通はありえませんね。ヴァーミリアンとオーズは互いに不干渉を貫いていることと、間に山脈を挟んでいるのでそうなっているということもあります」
「山にモンスターがでるということもあるか。軍勢で乗り越えようとしてもそれだけで被害に遭うだろうしな」
「そうですね。オーズ国自体小さな国なので、ヴァーミリアンとしてはそこまで警戒していないというのもあります」
「オーズは外征なんぞ一切考えたこともないからのう。軍は決して弱くはないはずじゃが、メカリナンの圧力を押し返すので手一杯じゃしな」
シズナ嬢が溜息まじりにそう言うと、ラーニが反応した。
「メカリナンってオーズにも手を出してるの?」
「国境沿いでの示威行動が主じゃがな。時々こちらの領内に入ってきて領民をさらったりもしおるし、まっこと山賊みたいなやつらじゃ」
「え~……、よく我慢してるねそれで」
「向こうの方が兵力は上じゃからのう。オーズとしても全面的に対決するのは避けたいのじゃ」
話を聞くと思った以上にメカリナンは面倒な国のようだ。ヴァーミリアンとオーズが条約でもきちっと結べばいい牽制になりそうなんだが、そう上手くいかないのが国同士というところか。
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