13章 オーズへ  05

 子爵邸を辞した俺たちは、いったん冒険者ギルドへと向かった。


 俺個人としては『銀輪』の4人がどうなったかも気になるところであるし、もちろん出没するアンデッドなどについての情報収集も必要である。


 まだ午後早くなので冒険者は出払っていてロビーにはほとんどいない。マリアネはギルマスの所にいき、他のメンバーは掲示板を見に行った。俺は訓練場に人の気配が複数あるのが気になってそちらへ足を向けてみた。


 訓練場では10以上の人の男女が鍛錬をしていた。その中には『フォーチュナー』の4人と『銀輪』の4人の姿もあった。


「やっぱり出てきたんだなカイム」


 声をかけると、『銀輪』のリーダー、カイムがダークメタル棒を手にしながら振り返った。


「おうおっさん、久しぶり、ってほどでもねえか。ようやく決心がついて出てきたんだ」


「ソウシさんお久しぶりです」


「ソウシか、噂は聞いているぞ」


「ソウシさん『トワイライトスレイヤー』とかすごすぎっす」


 カイムが返事をすると、他のメリベ、ラナン、ラベルトも続いてあいさつをしてきた。大きな声で『トワイライトスレイヤー』とか言われると他の冒険者の視線が痛い。


「トレーニングは続けているみたいだな。ジールさんたちにも教えたのか?」


「おう、ジールの兄貴たちにも教えたぜ。兄貴がなんで早く教えねえんだって怒ってたからな」


 思った通りカイムと『フォーチュナー』のジールは相性がよかったようだ。「兄貴」呼びされたジールが苦笑いしながら近づいてくる。


「前見たときはちょっと変わったトレーニングしてんなって思って見てただけだったんだがな。カイムに聞いたらキチっとした理屈があったんだな。ソウシが強くなるのも当たり前だったわ」


 ジールが言うと、『フォーチュナー』の他のメンバーも俺を見ながら頷いた。どうやらスキル別トレーニングの重要性は伝わったようだ。


「たまたま知識があってそれを当てはめただけなんですけどね。役に立ったのならよかったですよ」


「これを真面目にやりゃ、多少特殊スキルのが弱くても補える。特に低ランクには必須のトレーニングだろうさ」


「そうですね。トレーニング自体の重要性が分かってくれるとありがたいんですが」


「次はそこだな。トレーニング自体しない奴が多いからな。まあ『銀輪』はじめ真面目にやってる奴らが上に行けば気付く奴は増えるだろうよ」


「『フォーチュナー』も上を目指してるんでしょう?」


 と言うと、ジールは少しばかり恥ずかしそうな顔をした。


「まあそうだな。実は一回諦めかけてたんだが、もう少し頑張ってみようかって話になってるのさ。『銀輪』を見てるとなんかそんな気にもなっちまってな」


「それはなによりです。しかし最近このあたりもキナ臭いとか聞きましたし、あまりあちこちに行けないのでは?」


「それも確かにあるんだが……ま、その辺りは『銀輪』に頑張ってもらうさ。ソウシがいいパーティを紹介してくれて助かったわ」


「ちょっ、兄貴そりゃないぜ。まだ教えてもらうことはあんだからよ」


 カイムが慌ててジールにつめよると、どうも本当の兄弟にも見えてくる。


 やはりいい人間関係ができあがっていくのは好ましいとつくづく思いつつ、俺は訓練場を後にしたのであった。




 ロビーに戻って『ソールの導き』のメンバーと合流する。


「なにか気になる情報はあったか?」


 と聞くと、スフェーニアが首を横に振った。


「特にはありませんでしたね。ランクの低い討伐依頼がいくつか。あとはやはりアンデッドの依頼もいくつかあったようですが、そちらは受注済みになっていました。優先的に対処されているようです」


「子爵の指示もあるのかもしれないな。それなら特に問題もなさそうか。エウロンも3日逗留することにして、2日はシズナさんのダンジョン攻略にあてよう」


「すまんのう」


「ただここはFクラス1、Eクラス2、Dクラスが1、しかもDクラスが15階層になっています。全部回るなら相当な強行軍になりますので覚悟してください」


「望むところじゃ。全部回ってしっかりスキルを手に入れるぞえ」


 そう力を込めるシズナ嬢にマリアネが話しかける。


「それらをすべて回れればシズナさんはDランクに昇格できます。確認をとりましたので頑張ってください」


「まことか? それならなんとか母上にも合わせる顔が持てそうじゃ」


 そんなやりとりをしていると、入り口から3組ほどの冒険者パーティが入ってきた。一仕事終えて戻ってきた感じだが、ラーニが「ゾンビくさっ」と反応した通り、アンデッド退治に行っていた一団だろう。


 彼らはカウンターで手続きをしながら、処理の待ち時間に駄弁だべり始めた。


「やっぱちょっと前からアンデッド増えてるよな。あの噂は本当なんかね」


「噂? 誰かがアンデッドを仕掛けてるって話か?」


「そうそれ。前の大討伐の時もそうだったが怪しい奴らがいるって話だぜ」


「ああそれな……実はオーズの連中って話があるんだよな」


「オーズ? そういやちょっと前にそんなことを言ってた奴がいたな」


「オーズはアンデッドを使役して働かせてるって噂があるからな。エルフの町でデカいアンデッドのゴーレムが出たって話もある。こっちを狙ってるのかもしれんぞ」


 どうも聞き捨てならない話をしているようだ。シズナ嬢も冒険者たちの方をなにか言いたそうに見ている。


 ただその時、俺はちょっと引っかかるものを感じた。それは先ほどの会話の中で「オーズ」の名を出した冒険者の身なりが、どこか見覚えのあるものだったからだ。


「ラーニちょっと」


「どうしたの?」


「あの男、メカリナンの臭いがしたりしないか?」


「ええ? う~ん、ゾンビ臭がキツくて……あ、でも言われてみれば確かにするかも」


「やはりか」


「なにか分かったの?」


「後で宿で話す」


 放っておくとシズナ嬢がその男に文句を言いに行きそうだったので、俺は皆に声をかけて宿へと行くように促した。


 しかし俺の思った通りなら、もう一度バリウス子爵には会っておいた方がいいかもしれないな。こんなことは一介の冒険者が関わることじゃない気もするんだが、気付いてしまった以上は無視はできないだろう。




 宿に戻って部屋で一息ついていると、ラーニを先頭にして4人が部屋に入ってきた。エウロンでも上位の宿を取ったがさすがに一人部屋に5人はかなり手狭である。


 皆がベッドや椅子に腰をかけると、待ちきれないようにラーニが聞いてきた。


「ねえソウシ、さっきのは何が分かったの?」


「さっき冒険者のうち何人かが、アンデッド騒ぎはオーズ国のせいじゃないかって噂してただろう?」


「え、してたの?」


「してたのじゃ。事実無根なんじゃがのう。やはり一言文句を言ってやったほうがよかったかの」


 シズナ嬢が憤慨したように腕を組む。


「王家からの依頼で護衛しているところなので、シズナさんが目立つのは困りますから」


「まあそうなんじゃがのう……」


「それで、さっきはその噂をしてた男がメカリナンの出身だって確認したってこと?」


 ラーニが話を戻す。


「そうだ。もしアンデッド騒ぎがメカリナンの仕掛けたものだとして、同時にアンデッドがオーズのせいだとわざと噂を流せば効果は大きいだろう?」


「さっきの冒険者がその噂を流してたってこと? あ~そういうことか」


 ラーニが納得いったように耳をぴくぴくさせていると、スフェーニア言葉を継いだ。


「つまりソウシさんは、先ほどの冒険者がメカリナンの工作員ではないかと疑っているのですね?」


「シズナ嬢を利用しようとした冒険者の件もあるからな、メカリナンが冒険者を自国の工作員として使っているのはほぼ確定だろう」


「なるほど。そうなると思ったよりも大勢の冒険者を囲って活動させているということになりそうですね」


「かもしれないな。しかしよく考えたら冒険者をそんな風に使うのをギルド側が容認しているとも思えないが」


「マリアネさんに聞いてみる必要がありそうですね。もっともギルドが認めずとも勝手にやる人間はいくらでもいるでしょう」


 もしこの考えが当たっているなら、バリウス子爵領だけでなくほかの領にもメカリナン国の人間が入り込んでいる可能性まででてくる。当然子爵レベルはとっくに気付いてはいるだろうが、冒険者ギルドとの協定かなにかで簡単に対策ができないのかもしれないな。逆に言えば随分とエゲツない手を使ってくる国ということになるな、メカリナンは。

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