13章 オーズへ 04
翌々日は予定通りバートランへと向けて出発した。徒歩4日間の旅だが、トレーニングを兼ねた軽いランニングを交えながら進んだ結果3日間で着くことができた。
シズナ嬢も驚いてはいたが、鍛錬だと言うと別に文句を言うこともなく従ってくれた。彼女は便宜上まだ王家の客人という扱いなのだが、オーズ国に着くまでに強くなっておきたいそうなのでむしろ望むところ……のはずである。
バートラン到着後、代官のロドニク氏に到着の報告をし2泊していくことを告げた。もちろん1日はダンジョン攻略に充てることになる。
バートランはDクラスとCクラスのダンジョンがあり、今回入るのはDクラスになる。バルバドザでもそうだったが、さすがにシズナ嬢を入れてCクラスには入れない。ラーニは入りたがっているのだが、マリアネに「どのような理由があってもEランク冒険者をCクラス以上のダンジョンには入れることは許可できません」とのことであった。
どちらにしろシズナ嬢を送り届けたらまた王都には行くことになるので、その時に踏破することになるだろう。
バートランのDクラスダンジョンは10階層だが、シズナ嬢に経験を積んでもらいつつ、特に問題なく1日で踏破した。5階層は通常ボスで宝箱は3等級ポーションであった。レア度がガックリ落ちたのは基本的に一度撃破済みのボスだったからだろう。とはいえ同じ条件のバルバドザのDクラスダンジョンではレア武器が出た。ということは撃破済みのボスでもレアボスならば初回同様のレア度が維持されるのかもしれない。これが本当ならばかなりの朗報である。
なお10階も通常ボスで、シズナ嬢は『風属性魔法』のスキルを得ていた。
ダンジョン踏破の翌日は休息と食料買い出しに当てた。
それはいいのだが、俺が町を歩いているとあちこちから『英雄』と声をかけられて居心地が悪いことこの上ない。買い物でもおまけをしてくれたりするのだが、そういう扱いに慣れていない身としては申し訳なさが先にたってしまう。
「ソウシ殿はこの町では随分人気者じゃのう」
そんなわけで6人で通りを歩いているとシズナ嬢に不思議がられてしまった。
それに嬉しそうに答えたのはフレイニルだ。
「ソウシさまはこの町で『黄昏の眷族』を討伐なさったのです。ですから町の英雄という扱いなんです」
「『黄昏の眷族』? 精霊も恐れる奴らかえ? そういえばマルガロッテ姫がそんなことを言っていたのう。まさか討伐したのがソウシ殿とは思わんかったぞ」
「とてもすばらしい戦いでした。この町の人の多くがそれを見ているのです」
「なるほど、それならこの扱いも納得じゃ。前に別れてからそれほども経っておらんのに、『ソールの導き』は大したものじゃの」
そこは確かにシズナ嬢の言う通りではある。この状況の変化についていくのは相当にキツい。これ以上面倒な立場にならないことを祈りたいのだが、『悪運』スキル氏がこんなおっさんになにを期待しているのか本当に謎である。
翌日バートランを出た俺たちは、やはりマラソンをしながらエウロンを目指した。シズナ嬢の体力がここのところ急激に伸びてきたので、徒歩で4日のところを2日で移動した。
珍しく道中なにもないことも大きいのだが、その分後でまとめてなにかありそうで怖い。
さて久しぶりのエウロンである。到着したのは日暮れだったのでまず宿を取って一泊し、翌日朝にバリウス子爵の所へと報告に向かった。
アポなしでの訪問だったが、俺たち6人はすぐに応接室へと通された。そこで子爵と家宰のローダン氏、そして『紅のアナトリア』と対面する。
「随分と活躍しているそうだな、ソウシ殿、そして『ソールの導き』は」
全員が席に着くと、バリウス子爵はそう言って口の端で笑った。相変わらず貴族というよりは戦士という雰囲気である。
「はい。色々と奇妙なめぐり合わせもありまして」
「それだけで『黄昏の眷族』は倒せんよ。ランクはどこまでいったのだ?」
「私はBランクに、他の者はCランクですがすぐに上がるでしょう」
「それは結構。力ある者は相応の地位と肩書を持ってもらわないと困るからな。しかししばらく見ないうちにソウシ殿は若くなったか?」
「ええ、どうも見た目だけ変わったようです。冒険者の特性でしょうか」
実は王都の宿に鏡があってそこで確認をしたのだが、確かに顔が10年分くらい若返っていたようであった。まあ嬉しいと言えば嬉しい話ではあるが、正直なところ冒険者として人間離れしてきているほうが衝撃が大きくてそこまでの感動はなかった。
「ふむ、そういうこともあるのかも知れんな。しかしシズナ殿も壮健でなによりですな。疑いが晴れたことを嬉しく思います」
「子爵にも世話になりもうしたの。王都まで送ってくれた『フォーチュナー』も素晴らしいパーティでありましたぞ」
「ありがとうございます。彼らは私も信頼している冒険者たちですので」
聞いている俺としても、知り合いが褒められるのは嬉しいものだ。ジールたちが人間的にも冒険者的にも優秀であるのはその通りであるし。
「ところでソウシ殿、貴殿たちはこの後南の国境を越えてオーズ国に入るのだな?」
「はい、トルソンを経由して向かう予定です」
「うむ。実は最近またこのあたりにアンデッドが増えてきていてな。出るたびに対処はしているのだが、どうやらまたどこぞの連中が動き出したようだ」
「それは……わかりました。我々も注意します」
子爵の言う「どこぞ」とはもちろんメカリナン国のことであろう。
バリウス子爵領では以前からアンデッド騒ぎが度々起きているのだが、どうもメカリナン国のスパイによる工作であるようなのだ。
目的はアンデッド騒ぎを起こすことによって、ここヴァーミリアン国のオーズ国に対する印象を悪化させること。なぜならオーズ国は『呪術国家』と呼ばれるように、アンデッドを使役していると考えられているからだ。無論それはシズナ嬢も扱っている『精霊』に対する誤解である。
「もっともモンスター相手なら貴殿たちにはなんの問題もなかろうがな。こちらも民の感情が特定の国へと流れないように注意はしているので、そのあたりも汲んでもらえると助かる」
「分かりました。オーズ国側からはなんの動きもないのでしょうか」
聞いてから少しでしゃばったと思ったが、子爵は特になんの反応もなく応じた。
「オーズ国は対外的な声明を発することがほとんどないのだ。もし可能なら、オーズ国の大巫女様にオーズ国はアンデッドと何の関係もないと正式に言ってもらえると助かるのだが」
子爵がちらとシズナ嬢を見る。
しかしシズナ嬢は静かに首を横に振るばかりであった。
「申し訳ないことじゃが、大巫女様も大神官たちも外部との接触を極端に恐れておるので難しいかと思われますのう」
「ふうむ……分かりました。こちらは一子爵に過ぎませんし、他国に直接ものを言える立場ではありません。そもそも文句を言う相手は本来別なのですからな」
子爵はそう言って頷いて見せた。
アンデッドの件については、悪いのは明らかにちょっかいを出してくるメカリナン国である。本来なら下手人を突きだしてメカリナン国を非難するのが筋なのだ。しかし国家間の話になるとことはそう簡単ではない。特にこのヴァーミリアン国は北の帝国の圧力を無言のうちに受けている。南の他国と簡単にことを構えられる状況にはないはずである。
なんとも面倒なことだが、そのような微妙な関係の中でオーズ国に向かうのだということは、俺たちも心しておかないといけないだろう。
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