13章 オーズへ  03

 翌日はDクラスダンジョンへと向かった。


 シズナ嬢も特に疲れたふうもなくついて来る。彼女はEランクなので格上のダンジョンになってしまうが、俺たちがフォローすれば特に問題はないだろう。


 バルバドザのDクラスダンジョンは草原の古墳タイプで、地下一階で出てきたのは『オーク』である。


 シズナ嬢が戦いたいというので前に出てもらう。召喚した『精霊』の岩人形は心なしか昨日のものより一回り大きくなっている気がする。


 昨日得た『剛力』と『鋼体』スキルの効果もあり、2体の岩人形は『オーク』相手でも一歩も引かず格闘戦を行っている。シズナ嬢の火属性魔法『ファイアボルト』や水属性魔法『ウォータースピア』も十分な威力で、一撃で『オーク』を屠っていく。


「どうやらDクラスダンジョンでも十分通用するようじゃのう」


 と上機嫌のシズナ嬢に経験を積ませつつ、5階までは4時間程で到着する。


 やはり問題なくボス部屋に6人で入ると、出てきたのはレア種の『鎧ミノタウロス』だった。


「俺が攻撃を受け止めるので、シズナさんは魔法で攻撃してください」


「わかったのじゃ」


 ちょうどいい機会なので、『不動不倒の城壁』を試させてもらおう。俺は『アイテムボックス』から盾を取り出すと、構えながら『誘引』スキルを発動、ミノタウロスの注意を引き付ける。


 ミノタウロスが巨大な斧を振り下ろしてくる。盾で受け止めると、なんと一撃で斧の刃が潰れてしまった。ミノタウロスは何度も斧を振り下ろして来るが、『不動不倒の城壁』はびくともしない。俺の強さももちろんあるが、とんでもない盾である。


 そうしてる間にシズナ嬢の魔法が何度かミノタウロスに直撃する。だがまだとどめを刺すには不十分なようだった。俺はミノタウロスが突っ込んで来たところをカウンターのメイスで一撃、上半身を爆散させてやった。


「ソウシ殿の一撃はすさまじいの」


「まあBランクですからね」


 と言いながら盾を見てみる。驚くことに傷一つない。どれだけ硬いのだろうかオリハルコンは。


「ソウシのその盾すごいわね。持てるだけでもすごいけど、あの攻撃を受けても全然動かないんだもの」


「全オリハルコン製というのは本当のようですね。国宝になってもおかしくない盾だと思いますが、ソウシさんに使われることでその価値がさらに上がりそうです」


 ラーニとスフェーニアがそんなことを言う横で、フレイニルもうんうんと嬉しそうに頷く。


 さてそれはともかく宝箱だ。レアボスだったので当然のようにレアの銀箱である。


「開けてみてもいいかのう?」


「どうぞ」


 シズナ嬢が箱を開くと、出てきたのは短い杖だった。杖と言うよりは金属の棍棒にしか見えない。


 マリアネが『鑑定』をすると『剛力の杖』と出た。『剛力+2』の効果がある、もちろん魔法の威力も高める力もある魔導師向けの杖だ。


『ソールの導き』で短杖を使うのはスフェーニアだけだが、彼女の杖はCランク用のもので、純粋な杖としての力は『剛力の杖』よりは上らしい。ということで結果としては、


「その杖はシズナさんがお使いください」


 ということになった。


「わらわがもらってもいいのかの?」


「ええ、有効に使える人が持つべきです。『剛力+2』の効果があれば『精霊』も強くなるでしょうし、むしろシズナさん向けの武器でしょう」


「う~む、色々と世話になっている上にこのようなものまでもらってしまうとは。いつかお返しをせんといかんのう」


 シズナ嬢が言うと、ラーニがそれを聞いて何かを言いたくてウズウズしている。また雑なスカウトを始めるとちょっと困るので、先を急ぐことにする。


「よし、じゃあこのまま10階まで行くぞ。気は抜かないようにな」


 俺たちはボス部屋を抜け、セーフティゾーンを素通りして地下6階へと下りて行った。




 ザコは『オーク』『アサルトタイガー』『ハンタークロウ』の上位種が出てくるのみで、特に目新しさはなかった。ちょっと気になったのは『ハンタークロウ』が毒持ちになったことだが、攻撃される前に魔法と矢とひょうで全滅してしまうので問題はない。


 シズナ嬢についても、『剛力+2』の効果が加わった『精霊』の岩人形がかなりパワーアップしていて、自分より体の大きな『オーク』を次々と殴り倒していた。俺の『将の器』による能力上昇もあるだろうが、彼女もすでにDランク程度の能力はありそうだ。


 4時間程でボス部屋に到着する。もはや当たり前のように扉が開いて6人で部屋に入る。


「ん~、これはレアボスかなっ?」


 出てくるのは『グランドタイガー』という巨大トラのはずだが、黒いもやから現れたのは黒地に赤い縞の毛皮というなかなかにカッコいい巨大トラだった。体長は頭部と胴体だけで5メートルくらいありそうだ。ラーニの言う通りレアボスだろう。


「俺が抑えるのでシズナさんは魔法で攻撃を。『精霊』にも頑張ってもらいましょう」


「承知した」


 見た目強そうなボスではあるが、正直『ソールの導き』のメンバーがその気になれば瞬殺だろう。俺が前に出て『誘引』を発動すると、『ブラックタイガー(仮)』は飛び掛かってきて噛みつきにきた。


 ガウッ!?


 ただ残念ながら俺の『金剛体』は爪も牙も通さない。逆に頭部をがっちり掴んでやると、それだけでブラックタイガーは身動きが取れなくなった。


 後は岩人形が左右から脇腹を殴りまくり、シズナ嬢が背中に火の矢を落としまくって決着した。


 スフェーニアが「さすがに少し可哀想でしたね」と言うくらいなので、傍目にはちょっとアレだったかもしれない。


「おお、冒険者レベルもスキルレベルも上がった気がするのう」


「レアボスは上がりやすいのかもしれませんね」


 感動しているシズナ嬢に答えつつ、俺たちの強さの秘密はそこにもあったようだと今さらながらに気付く。レアボス遭遇率の高さは相当に強烈なアドバンテージがあるようだ。


 少ししてスキル獲得の感触。これも問題なく6人全員が得られたようだ。


 俺が得たのは『強奪』という不穏な名前のスキルだった。モンスターからお宝を奪う……のではなくて、どうも他人の『アイテムボックス』に干渉してそこから物を取り出せるスキルのようだ。正直使いどころがよく分からないのだが、もしかしたら『アイテムボックス』スキルを持ったモンスターがいるのかもしれない。なお、他人の『アイテムボックス』に干渉するには相当な力の差が必要らしい。微妙に俺向きなスキルである。


 フレイニルは『貫通』で、今のところは『一条の聖光』の貫通力を高めるスキルとなりそうだ。『範囲拡大』の『聖光』はなかなか強力だが、その威力が増すのは恐ろしいかもしれない。


 ラーニが得た『早駆け』はすでにマリアネが持っているもので、走るのが早くなるスキルだ。『疾駆』とは違って長距離走向けのスキルで、これを持っていると伝令役や飛脚みたいなことをやらされたりすることもあるらしい。


 スフェーニアは欲しがっていた『充填』を得た。精神集中時間を伸ばすことで魔法の威力を上げるスキルで、『先制』と合わせると強力この上ないスキルだ。もっともその分体力の消費量と待ち時間が倍以上に増えるようなので使いどころは要注意か。


 マリアネはジャンプ能力を上昇させる『跳躍』を得て、ますます忍者っぽさに磨きがかかった。そのうち『空間蹴り』も手に入れそうだ。


 そしてシズナ嬢だが、ラーニも持っている『付与魔法』を得たようだ。ただ彼女の場合は付与する対象が武器ではなく『精霊』の依代になるらしい。もしかしたら彼女は『精霊』を強化する方向に成長するのかもしれない。


「うう~む、『剛力』『鋼体』そして『付与魔法』かえ。これは『精霊』を強くせよという『精霊の女王』のささやきかもしれんのう」


「『精霊の女王』、ですか?」


 フレイニルが聞き返すと、シズナ嬢は深く頷いた。


「『精霊』を束ねている女王様じゃ。オーズ国の大巫女様だけが交信することを許されておるのだが、自然の災害などを教えてくれるありがたい女王様じゃ」


「実際にお声を聞くことができるのですね。アーシュラム教の神託のようなものでしょうか?」


「そちらのことはよく分からぬが、恐らく似たようなものであろうな。しかしここ2日間で相当に強くなった気がするのう。マリアネ殿、わらわをDランクにしてもいいのではないかえ?」


 いきなり強引なことを言い出すシズナ嬢だが、マリアネは眉一つ動かさずに答えた。


「ギルドに戻って確認をしてみます。条件が揃えば昇格も可能でしょう。ただ今回のダンジョン踏破はあくまでゲスト参加なので、実績がどこまで認められるかはわかりません」


「なるほどのう……。わらわはEランクゆえ、『ソールの導き』の一員というわけにもいかんか」


 それを聞いてラーニが動き出そうとするが、俺は後ろから両肩を掴んで止めた。ラーニが振り返るので、俺は黙って首を横に振る。一瞬不満そうな顔をしたが、ラーニはそのまま引っ込んだ。


 まあともかくバルバドザではここまでだ。明日はさすがに休んで、次はバートランへと向かおう。

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