13章 オーズへ  02

 翌朝は予定通りトレーニングをして、まずはFクラスダンジョンに入った。


 とりあえずシズナ嬢の力はボス戦で見せてもらうことにして、最速で5階に向かう。


「まったく休みなしで一気に最下層まで来るとはのう……」


 『ソールの導き』体験初心者のシズナ嬢は、ボス部屋の扉を前にしてちょっと呆け気味である。


「ウチは低クラスのダンジョンはこれが基本だからねっ」


「Bランクパーティにとってはこれが普通ということかの。高ランク冒険者とは恐ろしいものなのじゃな」


 ラーニとシズナ嬢がそんなやりとりをしているそばで俺はマリアネに確認を取る。


「本来なら6人だとこの扉は開かないはずなんだな?」


「はい、なぜか6人以上で入ろうとするとそれを察知して開かないのです」


「なるほど、ダンジョンの不思議の一つか……」


 そう言いつつ、俺は扉に手をかける。


「それじゃ入るぞ。ボスはシズナさんが攻撃してくれ」


「了解じゃ」


 さて問題は開くかだが……。


 力を込めると、石の扉はなんの抵抗もなくあっさりと開いた。


 フレイニルが隣に来て、目を輝かせて俺を見る。


「開きましたね。さすがソウシさまです」


「ああ、ありがとう。いやまあスキルのおかげってだけなんだけどな」


「ですがソウシさまだから得られたスキルです。ソウシさまが立派なことに変わりはありません」


「……フレイがそう言うならそう思うことにしよう」


 受け入れないと無限に褒めてくる気がするのでそう答えていると、マリアネがすっと寄ってきた。


「ソウシさん、これはギルドとしても重大な事例です。さすがにグランドマスターには報告が必要かもしれません」


「黙ってはおけないレベルか。それはそうなんだろうな」


 5人までしか入れないボス部屋に6人以上で入れるというのは、今まで絶対だと思われていた法則が破れるということに等しいわけで、確かに重大な案件ではあるのだろう。マリアネの真剣な顔を見ればさすがにそれは分かる。


 しかし冒険者歴もこの世界歴も浅い俺にはどうもピンと来ない。いや、理屈で考えれば大変なスキルであることは分かるのだが。


「どうかしたのかえ? 中に入ろうではないか」


 どうやらシズナ嬢も理解していないようだ。その後ろにいるラーニもあまりよく分かっていないふうだが、スフェーニアは神妙な顔つきなので重大性を理解しているようだ。


「よし、入ってみよう」


 6人で入っていくと扉が閉まり、黒いもやの中から『ベアウルフ』が現れる。


 俺は『誘引』で引き付けて、突っ込んできたところを受け止める。正直もう子どものタックルを受け止めるより楽である。


「ではシズナさんどうぞ」


「お? おお、承った!」


 ボスを簡単に抑え込んでいる俺に驚いていたシズナ嬢だが、祝詞のりとのようなものを詠唱しはじめた。


 その詠唱が終わると床が持ち上がり、身長1メートルほどの岩の人形が2体現れる。一見するとゴーレムだが、シズナ嬢によるとそれは『精霊』なる超自然的存在が依代よりしろを得て顕現けんげんしている姿らしい。


「攻撃するのじゃ!」


 シズナ嬢の命令とともに岩人形が横から『ベアウルフ』を殴り始める。岩人形の大きさの割に意外と威力があるようで、合わせて10発ほど殴ると『ベアウルフ』は力尽きて消滅した。


「む……スキルは『炎耐性』を得たようじゃ」


 どうやらスキルも問題なく得られたようだ。もちろん俺たちはすでに踏破済みのダンジョンなのでなにもなしである。


 しかしシズナ嬢の戦闘スタイルはかなり面白い。『精霊』はそれなりに戦闘力が高いようだし、単純に人数が増えるというだけで戦闘はグッと有利になる。『精霊召喚』とでもいうべき能力なのだろうが、これは彼女の特異スキルのようだし、長ずれば非常に強力な冒険者になるのではないだろうか。




 次のEクラスダンジョンでは、シズナ嬢に実戦経験を積ませるために基本出ずっぱりでザコ戦を戦ってもらった。『精霊召喚』にプラスして彼女自身も火と水の属性魔法が使えるため、数が多くても対応できるのが強みである。


「といってもこれはちと数が多すぎだのう」


 トカゲ型モンスター『ハードロックリザード』が7体現れると、シズナ嬢はぼやきながら精神集中を開始する。


 岩人形が前にでて『リザード』の攻撃を受け止めているが、もちろん7体分は無理なので俺たちが適当に間引いておく。


「『フレイムボルト』じゃ!」


 5本の火箭が『リザード』に命中して一体を焼き殺す。残り一体は岩人形が二体がかりでボコボコに殴って倒していた。


「う~む、やはりソウシ殿たちに比べると全然じゃ。以前より魔法の威力も上がっている気がするのだがのう」


「俺たちもEランクのころはこんなものでしたよ。あと俺がパーティメンバーの能力を上げるスキルを持ってるので、魔法の威力はそのせいもあるかもしれません」


「なんと、そのようなスキルまで持っておるのか。『ソールの導き』は羨ましいパーティじゃの」


 そんな感じで5階まで下りていくが、ボス部屋に着くころにはシズナ嬢もレベルが上がったのかかなり成長していた。


「きちんと戦わせてもらってるからかレベルもスキルの上りもいい気がするのう。ありがたいことじゃ」


「前のパーティの時はそうでもなかったのですか?」


「そうじゃの。Eランクになってからは妙に気を使われていてな。今になればわらわに使いみちがあってのことだと分かるのじゃがな」


 彼女が前に組んでいたパーティは、彼女をおとしいれて利用しようとする人間の集まりだった。当然利用するまでは彼女に何かあったら困るわけで、それで戦わせることをしなかったのだろう。


 ボス部屋にはやはりすんなりと入れてしまった。


 出てきたのは『ロックゴーレム』で、以前と同じく2体出現した。


「なんと二体でてくるとは初めてじゃ! ソウシ殿、どうしたらよかろうか?」


「一体はラーニがやりますから、残り一体に集中してください」


「分かったのじゃ」


 一体はラーニが釣りだしてスパスパと切り裂いて倒してしまった。以前は切ることさえ困難であったことを考えると恐ろしいほどの成長である。


もう一体は『精霊』の岩人形が前にでてブロックするが、『ロックゴーレム』の腕の一撃で一体が潰されてしまう。


 その間にシズナ嬢の精神集中が完了し、火の矢が『ロックゴーレム』に命中する。


『ロックゴーレム』は大きなダメージを受けて身体を傾ける。そこを岩人形が体当たりすると、『ロックゴーレム』は仰向けに転倒した。起き上がりに手間取っている隙にもう一撃火の矢が命中すると、『ロックゴーレム』はほぼ動きを止めた。あとは岩人形が頭部をボカボカ殴り続け無事討伐が完了した。


「うむ、やはり魔法の威力がかなり上がっておるの。『精霊』も強くなっているようじゃ」


「一体潰れてしまいましたが大丈夫なんですか?」


「『精霊』自体は不滅じゃから問題ない。ただ一回依代を失うと1刻ほど依代に憑く力を失ってしまうのじゃ」


 要するに一回岩人形を破壊されると再起動までに2時間かかるということか。まあそれでも極めて有用な能力だ。


「スキルは……『鋼体』と『剛力』を得たようじゃ。なんとスキルを二つも得られるとは、こんなことは初めてじゃ」


 と驚いた顔をしているシズナ嬢を他の4人が温かく見守っている。このあたりはすっかり『ソールの導き』のお約束になってきたな。


「今回のスキルはどうやら『精霊』の依代にも適用されるみたいじゃ。これは結構強力かもしれんのう」


「確かにそれが本当ならかなり強力ですね」


 と俺が相づちと打っていると、ラーニのシズナ嬢を見る目が急に怪しくなった。耳をピクピクさせているし、どうやらラーニのスカウトスイッチが入ってしまったようだ。


 とはいえオーズ国に着くまではシズナ嬢もどうしようもないだろう。ラーニにはあまりしつこくしないように釘を刺しておくか。

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