12章 王都にて  08

「なるほどなるほど、皆さんが『ソールの導き』なんですね。話は聞いていましたが、実際に見ると面白いメンバーが揃ってますね」


 ギルドマスターの執務室で俺たちを迎えてくれたのは、全体的に細長い体型をした若く見える男だった。癖のある灰色の髪、少し先のとがった耳と青みがかった色の肌を持つ魔人族の優男である。


 冒険者ギルド王都本部のギルドマスターにして元Aランク冒険者のドワイト氏は、その細い目と口元に浮かぶ微笑に曲者感が漂う人物であった。


「しかし『黄昏の眷族』を素手で倒すとはすさまじい話です。ソウシさんがいったいどれほどの力を持っているのか、私としてもとても気になりますね。どうぞおかけになってください」


 ドワイト氏に促されてマリアネも含めて全員で応接セットに座ると、秘書っぽい女性がお茶を出してくれた。


「マリアネからも色々と興味深いお話を伺っていますよ。『ドラゴンスレイヤー』に『トワイライトスレイヤー』、そして『彷徨する迷宮』につい最近は『聖獣』ですか。そう言えば最近出現するようになった奇怪なモンスター……『悪魔』も討伐したとか。冒険者になって半年ほどとは思えない実績ですね」


「ええ、私としてもそこは普通でないめぐり合わせなのだろうと思っています。ただ私自身は比較対象を知らないのでどこまでのものかが実感できないのですが」


「ええ、ええ、そうでしょうね。最初からそういった経験をされているならば、ソウシさんにとってそれが普通となってしまいますからね。だからこそ私もグランドマスターもマリアネの申請を許可したのです」


「お気遣いいただいたようで、それに関しては大変助かっています」


「ははは、もちろんこちらにも利があると思うからしているのです。感謝は必要ありませんよ」


 そう笑うドワイト氏は親しみやすさも感じないではない。まあそのイメージも計算ずくな可能性はあるが。


「ところでソウシさんは出身はどちらなのでしょう。一見するとオーズ出身のようにも見えますが、鬼人族ではないようですし」


「ああ……出身についてはこちらの大陸ではないとだけ。もとは商人をしていました」


「それは失礼。しかし海を渡ってこられたのですね。なるほど……」


 少し考えるそぶりを見せるドワイト氏。


 そう言えば今まで不思議と考えたことはなかったが、この世界に俺と同じような別の世界から転移? 転生?したものはいるのだろうか。


 といってもそんな変なことは誰にも聞けないしな。下手に聞いたら藪蛇になるまである。


 出身についてはあまり突っ込まれても面倒なので俺は別の話題をふることにした。


「ところで今回王家に召喚されたのですが、私たちはどのような扱いになっているのでしょうか?」


「ん……? ああ、それは基本的に『黄昏の眷族』を討伐したパーティという扱いでしょうね。この国ではそうそうないことなのでどういう対応になるのかは分かりませんが、まあ悪い扱いにならないことは確かですよ」


「そうですか。特別になにか依頼されることがあったりもするのでしょうか?」


 という聞き方をしたのは、さすがに召喚状の内容をそのまま話せなかったからだ。


「う~ん……ないとは言えませんが、今王家から来ている依頼でそこまでのものはないしねえ……」


 とドワイト氏は首をかしげる。ということはなにか強力なモンスターを討伐しろとかそういう話ではないということか。


 俺が少し安心していると、ドワイト氏は少し表情を引き締めた。


「ところでソウシさんたち『ソールの導き』は、今後どう活動していく予定なのですか? マリアネによると、とにかく上を目指しているということですが」


「そうですね、冒険者になったからには長生きするためにも強くなっておかなければなりませんし、あちこちのダンジョンを多く踏破してスキルと武器を手に入れて、ということをしばらくは続けると思います」


「すると一通り大陸を回る感じになりそうですね。強い冒険者が生まれることはギルドとしては大歓迎ですよ。ただそうですね……ソウシさんはゆくゆくは王家や貴族様に仕える気はあるのですか?」


 ドワイト氏の細い目が少し開かれているのを見ると、そこがギルドとしては重要なところなのだろう。俺はパーティメンバーを見回してから答えた。


「少なくともダンジョンをめぐる間はそういったことは考えておりません。それに我々は単純に誰かに仕えるということもできない者がおりますので、その後も特定の方の下につくということもないでしょう」


 俺はともかく元公爵令嬢と族長の娘とハイエルフが同居しているパーティなのだ。よく考えたらこのパーティがどこかの勢力下に入るだけで政治色が強く出てしまう。なるほどそれは王家も無視できないはずだ……と思ったら少し腹が痛くなってきた。昔からストレスを感じるとんだよな。


 俺がじわじわと侵攻を開始した腹と戦っていると、ドワイト氏は笑みを漏らして頷いた。


「ははあ、そこを理解されているならこちらも安心できますね。『ソールの導き』自体はまだ噂止まりの状態ですが、王家に呼ばれて褒賞を下賜かしされたとなれば一気に注目されるようになります。色々と接触してくる者も増えるでしょう」


「それはあちこちの貴族様から、ということでしょうか」


「そうですね、貴族に商人に教会に……いくつかあると思いますよ。ただ王家がバックにつけば貴族は黙るでしょう。商人はすでにトロント商会とつながりがあるとか?」


「つながりというほどでは……。単に会頭と話をしただけです」


「ふふふ、それが大きいというのは商人をしていたのならご存知でしょう。問題は教会ですね。『ソールの導き』のを知れば、スキルを調べさせよと言ってくるかもしれません」


 それはかなり困る話だ。俺もそうだがフレイニルの『神属性』も知られるとマズい。


「それは必ず受けなければならないのでしょうか?」


「もちろん義務はありませんよ。都合が悪ければ断ってください」


「ギルドに迷惑がかかったりは……」


 俺がそう言うとドワイト氏は相好そうごうを崩して笑いはじめた。


「あはははは、そんなことを気にする冒険者は初めて見ました。大丈夫、そのためのギルドです。外部の圧力に屈するのは冒険者ギルドの沽券こけんに関わりますからね。というより少しでも屈したらそこにつけこまれます。冒険者は権力者にとっては利用しがいのある存在なので」


「なるほど、分かりました」


「もしソウシさんがその辺りを理解してくれるのであれば、冒険者ギルドのそういう側面に協力いただけるとありがたいのです。ああ、そんな難しい話ではなく、どのような外圧にも屈しない強い冒険者になっていただきたいというだけですよ」


 そう言うドワイト氏は笑顔のままであったが、その目には真摯な光があった。なるほどギルドがギルドとしてあるためには、自身が有能な冒険者を確保していないといけないということか。職員に上位の冒険者が多いのもその一環なのだろう。ということはゆくゆくは俺もギルマスに……というのはさすがに勘弁して欲しいところではあるな。

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