11章 彷徨する迷宮(ワンダリングダンジョン) 07
「この階層を抜けて来たのならこれくらいは問題ないでしょう。では参りますわ」
ライラノーラは
「フレイは『後光』、スフェーニアはライラノーラが動いたら魔法と弓で牽制。ラーニとマリアネはとりあえず2人を守ってくれ。『ソーディアー』は俺がやる」
「はい!」
雰囲気からするとライラノーラは後衛タイプだろう。『ヴァンパイア』というなら肉体的にも優れているだろうから油断は禁物だが……と考えている間に『ソーディアー』が目前に迫る。
先頭の一体がメイスの射程に入る。向こうもすでに剣を振り上げているが、俺のメイスの方が早い。
全力横殴りプラス『衝撃波』が3体の『ソーディアー』を吹き飛ばす。一撃で板金鎧が砕け、ひしゃげ、バラバラになって飛び散った。
残り一体が横から斬りつけてきたが、俺は『
「まあ、一瞬で4体を倒すなんて予想外ですわ」
感嘆の声を上げながらライラノーラが手をこちらに向ける。
魔法か! と思った瞬間俺の背後から火箭が走り、ライラノーラに直撃した。
「強力なスキルを持っている方が多いのですね」
スフェーニアの魔法を受けたライラノーラだが、多少下がっただけでダメージは少ないようだ。続く矢を『疾駆』に似た動きで避けながら、こちらに手を向ける。
手のひらから射出されたのは血のように赤い槍5本。俺は盾ですべて受け止めるが、『鉄壁』スキルがあってなお槍は鉄の盾に突き刺さって穴をあけた。
「わたくしの『
そう言いながら連続で血の槍を射出してくるライラノーラ。俺は飛来する槍をすべて『衝撃波』で撃ち砕く。
目を見開くライラノーラ、その頭上に光球が発生し光を放つ。フレイニルの『神の後光』を受けて、ライラノーラの動きが一瞬止まった。
「ラーニ、マリアネ!」
「オッケー!」
「参ります」
2人が『疾駆』で一気に距離を詰める。
ラーニのミスリルソードを両手で受け止めたライラノーラだが、脇腹にマリアネの
さらにラーニがもう一撃。ライラノーラはそれを受け止め、力ずくでラーニを吹き飛ばした。ライラノーラの手にはいつの間にか血の色の片手剣が握られている。ラーニを追撃、と言うところでマリアネの鏢をふとももに受ける。
「なんという連携、素晴らしいですわ!」
剣を振り回してラーニとマリアネを追い払うライラノーラ。牙をのぞかせて笑っているあたりまだ余裕がありそうだ。どうやら『後光』もあまり効いてない感じだな。
「ソウシさま、『聖光』を『遠隔』『範囲拡大』で撃ちます」
「分かった、ラーニ、マリアネ、下がれ!」
2人が下がり、かわりにスフェーニアの矢がライラノーラを襲う。矢を剣で叩き落としたライラノーラの頭上から、『聖光』の光がシャワーのように降り注いだ。
「こんな魔法までっ、これはたまりませんわねっ!」
『聖光』の範囲から逃れようとライラノーラは『疾駆』で前に出る。そこをラーニが斬りかかり、受けたところをマリアネの鏢が再び刺さる。
「う……っ、先ほどからの攻撃は『状態異常』でしたのね。しかしっ!」
どうやらマリアネの『麻痺』か何かが効き始めたらしく、ライラノーラが体勢を大きく崩した。しかしそれも一瞬、斬りかかったラーニをこともなく弾き返すと、ライラノーラは両腕を広げて凄みのある笑みを浮かべた。
「『
ライラノーラの前に百本を優に越す血の槍が出現した。面による制圧。恐らく彼女の必殺技の一つということだろう。
「全員俺の後ろに!」
4人の気配が俺の後ろに集まる。
同時に恐ろしい数の血の槍が放射状に射出された。ご丁寧に外側の槍は途中で軌道を変え、すべてこちらに向かってくる。圧倒的物量による飽和攻撃、並の冒険者なら絶望的な攻撃だろう。
「うおおッ!」
俺は叫びながら縦横無尽にメイスを振るう。連続で放たれた『衝撃波』は極大エネルギーの壁を作り出し、すべての槍を粉砕した。
「なんですのその力は!?」
美しい顔を驚愕の色に染めながら、一瞬立ち尽くすライラノーラ。
その胸にスフェーニアの矢とマリアネの鏢が突き刺さり、『行動停止』が発動した。
「もらいっ!」
「まだですわっ!」
それでもラーニの攻撃は辛うじて剣で受け止めたライラノーラだったが……その時にはもう、俺のメイスは彼女を射程内にとらえていた。
『素晴らしい戦いでした。というよりわたくしの完敗でしたわね』
メイスの一撃を受けると同時に、ライラノーラの肉体はすっと消えてしまった。
主のいなくなったボス部屋に女吸血鬼の声だけが響く。
『この後貴方がたにはスキルが与えられるでしょう。とはいえまだまだ手始めですので、それほどの力ではありません。より強い力を求めるなら、さらに多くのダンジョンに挑んでくださいませ』
「もとよりそのつもりです。ところでこのダンジョンはどうなるのですか?」
『ふふっ、忘れていました。このダンジョンは貴方がたが外に出ると自然に消滅いたします』
「では地上のアンデッドもいなくなるのですね」
『そういうことになりますわね。さて、わたくしはそろそろ次の場所にいかなければなりません。貴方がた……特にソウシ様は強い力をお持ちのようですから、再びお会いすることもあるでしょう。その時を楽しみにしていますわ』
そう言うと、ライラノーラの気配は完全に消え去った。俺からすればこの世界は不思議なことだらけだが、彼女はその中でもひときわ不思議な存在であった気がする。もし次に会うことがあるならもう少し詳細な話を聞きたいものだ。
「ソウシさま、あの方が気になるのですか?」
俺が虚空を見つめていると、フレイニルが俺の手を取ってそう聞いてきた。
「どう考えても普通の人間じゃなかったし興味はあるな。皆も気になるだろ?」
「そうだね。どう見ても普通のダンジョンボスじゃなかったし、変なことも言ってたしね。あっ、スキル来たね」
ラーニが言う通り、スキルが脳内にすべりこんでくる感覚があった。この辺は普通のダンジョンと同じらしい。
俺が新たに得たのは『誘引』というスキルだった。どうも敵の注意を引き付ける効果があるらしい。そういえばゲームでも似たようなスキルがあったのを思い出した。前回の『鉄壁』同様、この世界の誰かが俺に盾になれと言っているのだろう。
フレイニルが得たのは『剛力』で、推定Bクラスダンジョンで得るものとしてはレア度は極端に低い。が、やはり本来なら得られないスキルだったと考えれば納得はいく。非力な彼女にとって弱点を補うスキルなのは間違いない。
ラーニは『鉄壁』を得たようだ。俺が持っているものと同じだが、スピード型前衛の彼女の防御力が上がるのは俺としても安心感が高まるのでありがたい。
スフェーニアは『火属性魔法・上級』で、レベル上限に達していた『火属性魔法』がランクアップした形だ。なんだかんだ言って攻撃魔法として『火属性』は強力なので、ここでその上位魔法が得られたのは大きいだろう。
マリアネが得たのは『貫通』だった。これもレア度は低いが彼女としては重要なスキルだ。マリアネはボス戦だと鏢での攻撃がメインになるので、その威力が増すスキルが有用なのは言うまでもない。
「不思議なダンジョンだったけどスキルももらえたし、依頼としてはラッキーだったね」
ラーニの言う通り、確かに一石二鳥の調査依頼となってしまった感じはある。ただこの話がマリアネ経由でギルドに伝わった時、そして伯爵に報告した時果たしてどんな扱いになるのかは少し気になるところだ。『悪運』スキルの仕事ぶりに、俺は心の中で溜息をついた。
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