11章 彷徨する迷宮(ワンダリングダンジョン) 05

「マリアネ、新たなダンジョンを見つけた場合、冒険者としてはどう対応するべきなんだ? ギルドで規定のようなものはあるのか?」


「それが少なくともここ30年ほどは新しいダンジョンは見つかっていないのです。ですので規定そのものがすでに古いのですが、本人たちが権利を放棄しないかぎりダンジョンは発見した冒険者が最初に入る権利を有するとなっています。昔は最初にダンジョンを踏破すると特別な宝を得られると信じられていたようで、その名残ですね」


「ギルドへの報告義務などは?」


「もちろん報告義務はあります。しかしそのタイミングはなるべく早くとなっているのみで、厳密には規定されていません」


「つまりダンジョンを踏破してから報告をしてもいいというわけだな?」


「そうなりますね」


 30年ぶりのレアケースというのはいかにも俺たち『ソールの導き』らしい話だ。アンデッド大量出現の原因がこのダンジョンなのは間違いないだろうし、当然このダンジョンを調べる必要はあるだろう。


 慎重に行くなら一旦戻ってギルドに報告してから再調査するべきだろう。しかし俺の勘が……というか『悪運』スキルへの信頼が、今入っておくべきだと主張する。


「このダンジョンが新しく出現したものであること、そしてアンデッド出現の原因であるのもほぼ間違いはない。出てきているのが低ランクモンスターであることを考えると、とりあえず入ってモンスターを間引いておくべきだと考えるが、皆の考えを聞かせて欲しい」


「ソウシさまのおっしゃる通りだと思います。アンデッドなら私の力がお役に立てますし」


「賛成! 新しいダンジョンに最初に入るのを逃す手はないよねっ」


「私たちなら遅れを取ることはないでしょう。どちらにしろ放置しておいたらすぐにモンスターがあふれ出しますから、入っておくべきかと思います」


「安全のためには一度戻って報告をするという選択肢もあります。ですがリーダーであるソウシさんが問題ないと判断されたのなら従います」


「よし。ならばこれから新しいダンジョンの調査に入る。目的は2つ。大量に発生しているだろうモンスターの討伐と、ダンジョン最下層の確認だ。俺が危険と判断したら撤収するが、皆も少しでも異常があったら知らせてくれ」


「はい」


 考えて見たら完全に事前情報なしのダンジョン探索ははじめてである。とすればここで本当の意味で今までの経験が試されるのだろう。


 これも『悪運』スキルが用意してくれた試験イベントであるなら、せいぜい慎重さを忘れずに乗り切ることにするのみだ。




 警戒しながら入った廃村ダンジョンだが、内部は他のダンジョンとそう変わらないように見えた。石組みの通路にところどころ墓石のようなものが埋め込まれてるのはいかにもアンデッドダンジョンという感じだが、それ以外目を引くものはない。


 少し歩くとさっそくモンスターが出現する。地上にいたものと同じ『スケルトン』だ。見た目と持っている錆びた剣盾からしてFランク相当だろう。


「『昇天』」


 20体ほどの『スケルトン』がフレイニルの真聖魔法一撃で全滅する。魔石もFランク相当のものだ。


 マリアネに頼んで地図を描いてもらいながら進んでいくので進む速度はいつもより遅い。しかしマッピングは安全確保のためにおろそかにはできない。


 大量に現れる『スケルトン』と『ゾンビ』を倒しながら1時間ほど進むと地下2階への階段が現れた。小休止してもちろんそのまま進む。


 地下2階のモンスターも『スケルトン』『ゾンビ』であった。しかしよく見ると体格も一回り大きく、『スケルトン』の武器も錆のない質のいいものになっている。


「モンスターのランクが上がったようだ。注意しよう」


 と言っておくが、結局フレイニルの『昇天』一発で全滅なのは変わらない。


 ただ落ちる魔石がやや大きく、Eランク相当になっているようだ。もしかして一階層ごとにランクが上がる仕様なのか? そういえばモンスターが魔石しか落とさないのも普通のダンジョンと違うな。


 やはり1時間ほどで地下3階へ。


 モンスターのランクがさらに上がり、『スケルトン』は軽鎧を装備するようになり、『ゾンビ』は腐乱した死体ではなく、青い肌の人間のような見た目になった。スフェーニアによると『食人鬼グール』らしい。


 生前やったゲームでは『グール』はアンデッド扱いだった気がするが、この世界は違うらしくフレイの『昇天』が効かなかった。とはいえ、ラーニがミスリルソードでスパスパ首を落として回ればそれでおしまいである。魔石はDランク相当だ。


「やはり階が進むにつれてモンスターのランクが上がるようだな」


「そうすると何階まであるかが問題だねっ。5階で終わりならボスはBランクになるのかな?」


 ラーニの言うとおりだとすれば、さすがにボス部屋に入るのはためらわれるかもしれない。が、まだそれを考える時ではないな。


 地下4階では、なんと懐かしの(?)『リッチ』が出現した。その相方はマッチョな『グール』の上位種だ。無論ラーニの『疫病神』のおかげで合わせて10体以上出現する。


 さすがに『リッチ』はフレイニルの『昇天』でも一撃とはいかないが、ほぼ行動不能になるのでメイスとミスリルソードの餌食にしかならなかった。『グール』上位種は攻撃自体はかなり威力がありそうだったが、近づく前にスフェーニアの魔法と矢の洗礼を浴びて全滅する。


 いよいよ問題の地下5階。通路を形作る石が大理石のような光沢のある石材に変わり、いかにも最下層といった趣だ。


「4階のモンスターがCランク相当だったからやはりBランクモンスターが出てくる可能性が高そうだ。一当たりしてみて手に負えなさそうなら退こう」


「はいソウシさま」


「正直私たちなら大丈夫だと思うけどね~」


「私もそう思います。4階のCランクがまるで相手になっていませんから」


「そうですね。『ソールの導き』は、すでに実力的にはBランク上位を超えて、Aランクに近いのではないかと思います」


 確かにBランク上位の『ダークフレアドラゴン』を倒している以上、パーティとしての力はすでに最低でもBランク上位にはいるだろう。油断をしなければいけるはずだ。


「よし、進んでみよう」


 大理石様の通路を進んでいくと、『気配察知』に感。出現したのは兜を脇に抱えた首無しの鎧剣士、『ヘッドレスソーディアー』だった。Cランク相当のモンスターだがそれは単体での話で、出現数が3体となるとCランクではないだろう。


「フレイ、『後光』。2体は俺が抑える。ラーニとスフェーニア、マリアネで右一体を頼む」


「はい」「りょーかいっ」


 とりあえず俺が前に出て攻撃を受け止める。『翻身ほんしん』だけでなく『切断』スキルも持っているようだが、『鉄壁』スキル持ちの俺の盾は一切の斬撃を通さない。


 攻撃を受けている間に、1体が滑るようにして俺の後ろに回り込もうとする。しかしスフェーニアの魔法とラーニの一撃を受けて吹き飛んだ。いい援護だ。


「『後光』行きます」


 通路が光り、『ソーディアー』の動きが鈍る。俺は斬りつけてきた一体を盾で吹き飛ばし、もう一体にメイスを叩きこむ。そいつの上半身がクシャッと紙細工のように潰れて消えた。盾で吹き飛んだ一体も鎧が歪んで満足に動けていない。『衝撃波』をくれてやるとバラバラになって消えていった。


 もう一体もラーニとマリアネが左右から切り裂いてとどめを刺したようだ。スピード派同士の連携は見ていてかなり派手である。


「『ヘッドレスソーディアー』3体となるとやはりBクラスダンジョンということになりそうですね」


「う~ん、でも私の『疫病神』のせいもありそうだから分かりづらいね」


 マリアネの言葉にラーニがそう付け足すが、まあBクラスと見ておいて間違いない気はする。


「十分戦えそうだな。奥に進んでみよう」


 今は少し様子を見たが、どうも『ヘッドレスソーディアー』3体ならその気になれば俺一人で瞬殺できそうだ。慢心は禁物だが、ここは『悪運』スキルを信じて先に進んでいい気がする。




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