10章 黄昏の眷族  11

 さて翌日は初のCクラスダンジョン挑戦だ。挑むのはまずは10階層のダンジョンだが、これがCクラスとしてはもっとも難易度の低いダンジョンとなる。もちろん予定は一泊二日である。


 バートランの町から走って30分ほどのところにある丘陵地帯の一角に遺跡のような石組の舞台があり、そこに地下に下りる階段があった。


 装備を確認して下りていく。ガイドの情報もあるし、スフェーニアとマリアネがすでにCクラスダンジョンを経験しているのでパーティとしてはそこまでの不安感はない。


 やはり石でできた通路を進んでいくと、はじめに現れたのは『ポゼッスドゴブリン』。仮面をつけたゴブリンなのだが、獣に憑依されたかのように激しく動き回り強烈な攻撃を繰り出してくる。ラーニの『疫病神』のおかげで出現数も20体近くになる。といってもこちらも機動力に長けたラーニとマリアネがいるので後衛までゴブリンが迫ることはない。もちろん俺に近づいた奴はすべて爆散する。


 ドロップする素材は被っている仮面で、土に埋めておくとモンスター除けになるらしい。


 3階からは『ルナティックウルフ』という大型の狼型モンスターが出てくる。やはり何かに憑かれたような予測不能な動きをするモンスターで、牙と爪には相手の精神を錯乱させる効果があるらしい。ウチのパーティで誰かが錯乱状態になるとかなり危険なのでとにかく飛び道具で先制攻撃を行う。俺の『衝撃波』連射という最終兵器もあるが、さすがにあれは疲れるので乱発はしたくない。


 素材は高級そうな毛皮だ。


 5階は『エレメンタルソウル』という不定形の魔法型モンスターが出現した。物理攻撃が無効レベルに効きにくいので俺はパーティの守りに徹し、攻撃はフレイニルとスフェーニアの魔法とラーニの魔法剣に任せた。パーティのありがたさを再確認する。


 素材は魔道具の材料になる水晶だった。


 5階の中ボスは『ツインヘッドウルフ』。名前の通り双頭の巨大狼のはずだが、


「頭が三つだからレアボスだね。ラッキー」


 というわけで『トライヘッドウルフ』が相手となった。


 象並の巨体でありながら『翻身ほんしん』スキル持ちらしく、隙のないステップからの噛みつき攻撃、そして遠距離からの火炎弾とかなりの難敵だ。


 俺が盾となって攻撃を凌ぎ、4人で少しづつダメージを蓄積させていく戦法を取る。10分ほど攻防を繰り返していると、『トライヘッドウルフ』の動きが目に見えて遅くなった。マリアネの『状態異常攻撃』スキルによる『毒』がようやく効いてきたようだ。


 隙をついてラーニが前足を切断すると3つの頭が地面に顎をつける。俺のメイスが横に一閃し、すべての頭を同時に爆散させて戦闘終了となった。


「全員の能力がかみ合っていい感じに戦えたな。マリアネさんのスキルも相当に強力ですね」


 俺がそう言うとマリアネは目を細めた。


「はい、自分でもそう思います。皆さんには感謝しかありません。今になってこれほどのスキルを得られるとは思いませんでした」


「ふふ~ん、でもまだこんなものじゃないからね」


 ラーニが意味ありげに含み笑いをする。


「ソウシさん、宝箱が……また銀の箱のようです」


 スフェーニアの言葉に全員が宝箱の周りに集まる。マリアネが「レアボスにレア宝箱ですか……」とつぶやくが、そこはセットみたいなものだ。


 ラーニがしきりに開けたがったので開けさせると、出てきたのは青銀に輝く片手剣だった。精緻な装飾が施されているが刀身は太く実用品であることが分かる。


 マリアネが『鑑定』すると『ミスリルソード+2』とのことだった。『+2』というのがいかにもゲーム的だが、要するに同じミスリルソードでも2段階グレードが上のものということらしい。俺としてはファンタジー金属のミスリルが見られて少し感動していたのだが、さすがに口にはしなかった。


「ソウシ、これは……」


「もちろんラーニのものだ。ようやく目的のものが手に入ってよかったな」


 と言うと、ラーニは尻尾をブンブン振って「ありがとう!」と言って飛び上がった。


「これでソウシの私への気持ちが本物だって証明されたねっ」


 と剣を胸に抱いてニコニコ顔のラーニ。その隣でフレイニルが悲しそうな顔をしていたので俺はその頭を優しくなでてやる。


「ミスリルソードはただでさえ希少ですので、その上補正がつくものとなると相当な価値があります。+2であるということは言わない方がいいでしょう」


 マリアネの気遣いは細かいが重要なことだ。この世界の経験が少ない俺がリーダーをしている以上、彼女のギルド職員としての知識は間違いなく重要である。やはり彼女はしっかりとパーティに取り込んだ方がいいのかもしれないな。




 翌日も朝一で6階に下りた。


 まず現れたのは『ポゼッスドオーク』。仮面をつけたオークで、奇声をあげながらデカい斧を滅茶苦茶に振り回してくる。ただその異様さに圧倒されなければ単純物理属性なので問題にはならない。素材はやはり豚肉っぽい肉だった。


 8階からは『ムーンウルフ』が出現する。だいぶ前にフィールドで戦った白い狼だが、なんとCランクだったようだ。『翻身』スキルを使った動きで翻弄してくるが、フレイニルの『後光』で動きが一気に鈍るので相手にはならなかった。素材は白い毛皮だが、フィールドで取れたものよりは質が落ちるようだ。


 10階では『デスポイズン』という巨大コブラ型のモンスターが登場する。毒というより強酸に近い液体を口から吐いてくる難敵で、まともに正面からやりあうと防具があっという間にボロボロになるらしい。無論単純な戦闘力も高く、鱗が硬いためハンパな飛び道具ではロクにダメージが与えられない。が、もちろん『ソールの導き』の後衛の能力なら問題はなく、酸の水鉄砲も『衝撃波』で打ち返せばノーダメージである。素材は高級蛇皮だ。


「最下級とはいえCクラスダンジョンでも進行速度がほとんど変わりませんね」


 スフェーニアの目の前にはボス部屋扉がある。


「ソウシさまが『将の器』というスキルを身につけられてから魔法の威力などが上がった気がします。その効果も大きいんだと思います」


 フレイニルが頷きながら言うと、ラーニが今さら気付いたように「あ、そっか」と反応した。


「そういえばメンバーの能力が上がるって言ってたっけ。言われてみればいい感じで動けるようになってるかも」


「『将の器』……昔英雄的な働きをした冒険者が持っていたと言われているスキルですね。彼が軍を率いるとそれだけで兵士の能力が上がったと言われています」


 マリアネの言葉に俺はぎょっとしてしまう。冒険者が軍を率いるというのも驚きだが、一軍に影響を及ぼせるスキルとは思っていなかった。


「そんな大層なスキルなんですか?」


「あくまで昔の記録ですがそう記されていたはずです。昔は未発見のダンジョンが多く、モンスターが地上にあふれてくることが多かったのですが、そのモンスターの大群を何度も退けた冒険者がいたのです。彼が軍を率いると一般の兵すらかなりの力を持ったとか」


「それは……本当なら少し危険なスキルですね」


「あくまで伝承に近い記録なので信憑性は高くはないと思います。ただ皆さんがそう感じるのであれば、少なくともパーティメンバーには効果があるのでしょう。言われてみれば私もブランクがあった割に身体が動くのが不思議だったのですが、今ので納得いたしました」


 ボスを前にしてモンスターがダンジョンからあふれるとか、伝説の冒険者とか、重要そうな情報がいきなり出てきたな。しかし『将の器』にもしそんな効果があったとしたら、権力者が放っておかないのではなかろうか。


「どちらにしろ俺の『将の器』は秘密にしておこう。下手に知られたら面倒なことになりそうだ」


「そうですね。私も今の話は聞かなかったことにしておきます」


 ギルド職員がそれでいいのかという気もするが……マリアネにもなにか思う所があるのかもしれない。もっともウチのパーティはすでに秘密が多いので、今さら増えたところで大したことがないような気もする。


「よし、準備ができたらボスに挑もうか」


 とりあえず今はスキルの詮索をしている場面でもない。


 皆が準備できたのを確認して、俺はボス部屋の扉を開いた。

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