9章 再会と悪魔の足音 08
ギルドに入ると、そこはちょっとだけ物々しい雰囲気に包まれていた。しかし俺たちが顔を出し、カイムが「おっさん!」と叫ぶと、その空気が一気に緩んだ。冒険者が集まっていたところから見て、恐らくギルドが俺たちの救援を集めていたのだろう。
「遅くなってすまない。あのモンスターはなんとか討伐できたよ」
「そうか、よかったぜ」
カイムたち4人がホッとしたような顔をする。
それを見て、近くにいたベテラン風の冒険者が俺に話しかけてきた。
「カイムがやたらと騒いでたから集まったんだが、そんなに危険なモンスターが出たのか?」
「ええ、奇妙なモンスターで、相当に防御力の高い奴でしたね。不思議なことに死骸は消えてしまったんですが、魔石だけは残りました」
俺は言いながら『アイテムボックス』から先ほどの魔石を取り出す。極彩色のマーブル模様がいかにも怪しさ満点である。
周囲の冒険者たちも、その魔石を見て眉を潜めたり目を丸くしたりした。
「なんだこれは……こんなのは見たこともないな。確かにこの大きさなら相当ヤバいモンスターだったってのは分かる。しかしそれをアンタらだけで倒したのか?」
「ええ、このメイスがあれば大抵のモンスターは一撃なので」
ちょっとイキがったような言い方をしたが、実力を怪しまれるのはそれはそれでトラブルの元になる。たまには力を誇示することも必要だろう。
「あ、ああ、そのメイスも魔石と同じくらいおかしいな。わかった、疑って悪かったよ」
という感じで、集まってくれた冒険者たちは三々五々散っていった。残ったのはカイムたちと受付嬢のキサラである。
キサラは俺たちの顔を見回して、申し訳なさそうな顔をしながら頭を下げた
「申し訳ありませんができれば報告をお願いしたいのですが……」
というわけでもう少し仕事をしなければならないようだ。ただ皆疲れているので、事情聴取に出頭するのは俺とカイムの2人ということで勘弁してもらった。
翌日はさすがに休息ということにして、俺はカイムたちと旧交(というほど昔ではないが)を温めることにした。
と言っても宿の食堂で飯を食いながら
飯を食いながら互いの近況を話した後は、自然と男3女5に別れて話をする形になった。
「しかしマジでおっさんが助けに来たときは驚いたぜ。しかもあんな可愛い娘を3人も連れてよ」
酒が入って少し赤い顔のカイムが言うと、隣でラベルトがうんうんと頷いた。
「ホントそれっす。正直3人ともこの町じゃ見かけないほど可愛いっすね。なんというか洗練されている感じがするっす」
「それは俺も感じるが……本当に偶然が重なっただけなんだ。俺自身も驚いてる」
「そんなこと言って、ホントは強引に誘ったんじゃねえのか?」
「それ俺がやったら全力で逃げられるだろ」
「けけっ、まあ確かになあ」
「中には年上がいいっていう女の子もいるっすからね。ソウシさんなら安心できる的な感じはあるかもしれないっすね」
「そのあたりはどうだかな。しかしカイムたちも今回は災難だったな。ギルマスすら知らないモンスターと遭遇するなんてな」
そう言うとカイムは酒をあおり、ラベルトは肩をすくめた。
「あんな気持悪い奴がいるなんて聞いたこともなかったっすね。まあこの町に入ってくる情報が少ないだけかもしれないっすけど」
「おっさんが来なかったらヤバかったかもな。結局どのくらいの強さだったんだ?」
「正直よく分からないんだ。ウチのスフェーニアはCランクなんだが、多分Bランクはあったんじゃないかとは言っている。俺はそこまでとは思わなかったが」
「えっスフェーニアさんCランクなんすか。ひええ……」
「マジでヤバいモンスターだったんだな。だがそれを倒しちまうおっさんはなんなんだ?」
「どうもスキルが腕力とか攻撃にかたよっててな。だから多分攻撃だけならBランク以上あるだろうって言われてる」
「あんなメイス振り回せるんすからねえ……。あれは普通の冒険者が持てるレベルのものじゃないっす」
「なんかずいぶん差をつけられちまったなあ……」
カイムが少し悔しそうな顔をする。まあそりゃそうだ、ポッと出のおっさんにランクで抜かれたら男としては感じるところはあるだろう。
「なあカイム、俺は『銀輪』はもっと上を目指せるパーティだと思うんだ。少なくとも一度はこの町を出て、もう少しスキルを得ておいた方がいいと思うんだが」
思い切ってそんなことを言ってみると、カイムもラベルトも目をつぶって考えこんだ。まあ2人とも……というかメリベもラナンもそれは一度と言わず考えていたはずだ。
「おっさんに言われなくてもそれはずっと考えてはいたんだよな。だけど踏ん切りがつかなくてなあ」
「でも本気で考えてもいいかもしれないっすね。あんなモンスターが出るなら、やっぱり強くなることは必要っすよ」
「だな。ちょっとメリベたちとももう一度話し合ってみるか」
「そうっすね」
「もし上を目指すつもりがあるなら、俺たちがやっているスキル上げのトレーニングを教えるぞ。ただ明後日にはエウロンに戻るからやるならこの後すぐだ」
俺がそう言うと、カイムは酒のコップを置いて頭を掻いた。
「こんなに早くこっちがおっさんに教わる方に回るとは思わなかったぜ」
「ソウシさんの方が年上なんすからそれが普通っすよ」
ラベルトの言うことももっともではある。カイムは「だな」と言って、メリベたちの方に話をしに行った。
どうやら休息日なのに結局トレーニングになりそうだが、冒険者なのだからそれもいいだろう。むしろタイミングを逃さずすぐに動けるようでなければ容易に命を失う立場だからな。
結局午後は町の外に移動して、カイムたちにスキルごとのトレーニング方法を伝授した。結局俺たちもトレーニングをしていた気がするがそれはそれだ。
教わったカイムたちはいたく感動して、特にカイムは「おっさん、これはズルいぜ」とか言っていた。そのあとメリベにつねられていたが。
ともあれこれでカイムたち『銀輪』は強くなるだろう。そして近い内にきっと現状のランクに満足ができなくなるはずだ。おっさんとしては若者にはそうあって欲しいと願うのみである。
俺たちはその翌日、もう一度トルソンのDランクダンジョンに潜ってみた。新たなスキルのレベルを上げるのと、ボスを『神属性』の弱体化なしで倒す経験を積むためだ。
あの不気味なモンスターを倒して冒険者レベルが大きく上がったらしく、ザコは完全に相手にならなくなっていた。無論ボスも問題なく倒すことができた。なお5層の宝箱は踏破後も現れるが、中身のランクは大きく下がるようで、出たのは3級品のポーションだった。
一日で一気に10階層を踏破し、転送装置で地上に戻るとすでに夕方だった。カイムたちと飯を食い、その日は特になにごともなく終わった。
翌日朝一で俺たちはトルソンを出た。今回は『銀輪』と受付嬢のキサラが見送りに来てくれた。俺は正直気恥ずかしかったが、女子組はやはり仲良くなっていたらしく再会を約束し合っていた。
俺たちを見送るカイムたちの表情が明るかったので、おそらく決心がついたのだろう。おっさんとしては、若者のそういう表情はなんともまぶしく見えた。
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