9章 再会と悪魔の足音 07
先ほどのモンスターが近くにいないことを確認し、横穴から外に出た。俺たち4人はモンスターの方に向かい、カイムたちはトルソン方面へと向かう。彼らはトルソンに着いたら応援を要請することになっているが、恐らくその必要はないだろう。
俺たちの動きを察したのかモンスターが動き出した。ガサガサと大きな音を立ててこちらへ向かってくる。
「フレイ『後光』、スフェーニアも初弾は魔法で頼む。ラーニは腕を一本でも多く落としてくれ。フレイとスフェーニアを狙う魔法は俺が防ぐが、タイミングを見て岩に隠れて援護に徹してくれ」
「はいソウシさま」
「了解っ」
「分かりました。折を見て白鷺の弓も使います」
気配が近づく、足音が大きくなる。そして異形のモンスターが前方の岩陰からその姿を現した。
「なにあれ、気持ちわるっ!」
ラーニが叫ぶ。同時にフレイニルが小さく「やっぱり悪魔……」とつぶやくのが聞こえた。
「どんな相手だろうが殴れば痛いはずだ。行くぞ」
俺たちは隊形を変えずに歩いて接近する。向こうもこちらを値踏みするような雰囲気で、ゆっくりと近づいて来る。彼我の距離約50メートル。
グ・ギ・ガッ!
モンスターがあの金属音のような声を上げる。三つの無表情な顔がこちらを向くや、一斉に口を開いた。
「フレイ!」
「はい! 『後光』いきます」
辺りが光に包まれる。モンスターはその光に一瞬
「効かない!? いえ、『後光』の効果が消された気がします!」
フレイが珍しく叫ぶ。『神の後光』が効かないのは確かに初めてだ。
「耐性持ちか。スフェーニア!」
「はい、『フレイムボルト』!」
スフェーニアの短杖から
後衛2人を岩陰に……と思った時、モンスターが再び口を開いた。三つの口から吐き出されるように石の槍が射出される。
俺はメイスでその石の槍を迎撃する。カウンターに特化したスキル群によって魔法の連射にも十分に対応できる。
「『二重聖光』!」
「『ウインドカッター』!」
二条の光線が一つの頭部に突き刺さり、不可視の刃が顔面を叩く。表面上はわずかな傷が残っただけに見えるが、それでも一瞬魔法が止んだので効いているはずだ。
スフェーニアが風属性魔法に変えたのは、向こうが地属性魔法らしき攻撃をしてきたからだろう。
「行くねっ!」
魔法射撃が止まったのを見てラーニが一気に接近、手前の腕を斬りつける。ガキィンッというおよそモンスターを斬ったとは思えない金属音が響き、ラーニはすぐに腕から離れた。
「皮膚も骨も硬っ!」
見ると一応腕の半分ほどは切り裂いたようだが、腕を斬り落とすまでには至っていない。太さはせいぜい電柱くらいのものだが、『切断』持ちのラーニが一撃で斬り落とせないのは相当な防御力だ。
「2人とも岩陰に隠れてくれ。俺が直接叩かないとダメなようだ」
「お気を付けて」
「機を見て援護します」
フレイニルとスフェーニアが近くの岩陰に身を隠したのを確認して、俺はモンスターの方に走りだした。
ラーニは上から振り下ろされる腕を回避しつつ、何度かその腕に攻撃を仕掛けている。しかしやはり斬り落とすまでには至らない。
モンスターは俺が接近してくるのを見て口から石槍を連続で射出してくる。
俺はそれをメイスで叩き落としたり盾で防いだりしながら進んでいくが、なかなか距離が詰められない。しかし一瞬、その魔法の連射が止まった。見るとモンスターの頭部に矢が刺さっている。『白鷺の矢』の『行動停止』効果か。そちらは効くらしい。
俺は一気にダッシュし、手前の腕にメイスを横殴りに叩きこんだ。硬い金属の棒を叩くような感触も一瞬、モンスターの腕は肘から先がひしゃげてちぎれ飛んだ。
グ・ギャッ!
モンスターが上げたのは悲鳴か。その顔面に再び二本の光線が浴びせられ、複数の矢が突き刺さる。
俺はその隙に二本目の腕を吹き飛ばす。5メートル上にあるモンスターの本体がグラリと傾く。見るとその背にラーニが飛び乗って背中に剣を突き刺している。と言ってもなかなか刺さらず連続で剣を振り下ろしているのだが。
そのラーニの方にモンスターの頭の一つが顔を向けた。至近距離の魔法はヤバい。
「ラーニっ!」
叫びに気付いてラーニが背中から飛び退いて宙に身を躍らせる。石槍が一瞬前にラーニがいた場所を貫いて飛んで行く。ラーニはそのまま『空間蹴り』でさらに距離を取って着地した。
6本腕になったモンスターが体勢を立て直し、俺めがけて一本の腕を振り下ろしてきた。俺はそれを盾で逸らし、カウンター気味にメイスを叩きこむ。さらに一本の腕がちぎれて吹き飛び、モンスターは再度体勢を崩した。
決めるならここか。俺は頭上にあるモンスターの頭めがけて『衝撃波』を最大威力で放つ。異形のメイスから放たれた不可視の暴力はモンスターの下あごを砕き、その意識を刈り取った。
モンスターの本体部分が力を失ったようにドンと地に落ちる。近くで見るとその頭部は一抱えするほどの大きさがある。俺はその顔の前でメイスを大上段に振り上げた。
モンスターが目を開く。彫像のような顔が引きつったのは恐怖のためか。俺は一切の遠慮なく、その脳天にメイスを振り下ろした。
3つの頭をすべて爆散させるとモンスターは動きを止めた。不思議なことに直後からモンスターの死骸は末端から順に黒い粒子に変化していき、大気中に拡散するように消えてしまった。残されたのは大玉スイカくらいの大きさの禍々しい魔石一つだけである。
「ソウシさま大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない」
駆け寄ってきたフレイニルの頭をなでてやると、フレイニルは安心したように抱き着いてきた。その身体が少し震えているのはやはり今のモンスターを『悪魔』だと感じたからだろうか。
「とんでもないモンスターだったわね。骨が硬すぎて私の剣じゃ腕一本落とせなかった」
「ラーニはよくやってたと思うぞ。ただあのモンスターがおかしかっただけだ」
「『切断』があっても通じないなんてよほど上位のモンスターよね。フレイの『後光』も効かなかったみたいだし」
そう言いつつ、ラーニは残された魔石をしげしげと見つめている。
スフェーニアもその魔石を見ていたが、軽く頭を振って俺の方を見た。
「私の魔法も弓もあまり効果がなかったように見受けられました。あれほどのモンスターはCランクでも見たことがありません」
「ということはBランク以上ということか? そこまで強いとは思えなかったが……」
と俺が判断したのは、以前アンデッドの城で見たBランクの『ヘッドレスアデプト』を思い出したからだ。あの動きはまだ対応できるとは思えない。その点さっきのモンスターは硬いだけで、そこまでの脅威には思えなかった。
しかしその言葉に、スフェーニアが微妙に呆れ顔をしたように見えた。
「いえ、あの『ストーンジャベリン』の連射はそれだけで脅威です。しかも『切断』『貫通』の効果が低く、魔法でも有効なダメージにならないとなると、下手をすると一方的に攻撃されるだけになりますよ。ソウシさんのメイスがなかったら、このあたりの冒険者では対応できなかったでしょう」
「そうそう。あんな硬い奴ですら一撃なんだからソウシは自分がおかしいって自覚してね」
「ああ、まあ……確かにそうかもしれないな」
でも『紅のアナトリア』あたりならスパスパ腕を斬り落として終わりな気がするんだよな。だからモンスターとしてのランクはCの上位からBの下位くらいが妥当なところではないだろうか。
「ソウシさま、帰って休みませんか? この場には長くいたくありません」
「そうだな、戻ろう」
ともあれこれで任務は終了だ。俺たちは魔石を回収し、フレイニルの言葉に従ってトルソンの町へと帰還した。
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