8章 エルフの里へ 14
巫女服の少女が連行されてきて以降はとくに騒ぎもなく、里長の指示で破壊された城壁や家の片付けが始まった。
力仕事なら手伝うか……と思っていたのだが里長に「里を救った一番の功労者にそんなことはさせられませぬ」と言われ、受付嬢のミーラン女史に「お疲れのところ申し訳ありませんが事情をお聞かせください」とも言われ、俺たちはとりあえず冒険者ギルドで一連のゴーレム討伐について報告をすることになった。
「今回の件に関しては情報を整理したのち、皆さんには報酬をお支払いします。3体のゴーレムのうち2体はソウシさんのパーティの単独撃破、1体については他パーティとの共同撃破ということにさせていただきますがよろしいですか」
「それが妥当だと思います」
というやり取りをした後、俺たちは宿へと帰ってきた。
「あ~、今日は疲れたね。冒険者になってこんなに疲れたって感じるのは初めてかも」
部屋に入った途端、ラーニがベッドに倒れ込む。フレイニルもふぅと息を吐いてベッドに腰かけた。
「冒険者というのはこのような大変な事態にも対応しなければならないのですね。今回の依頼では色々なことがありすぎて、私は理解が追いつきません」
「でもフレイはよくやってたと思うわよ。特にあのゴーレムはフレイの魔法がなかったらかなり強敵だったし」
「そうでしょうか……。でもそれはソウシさまの指示に従っただけですから」
フレイニルが胸に手をあてて俺の方を見る。その様子を見てスフェーニアが笑った。
「ふふっ、リーダーの指示に的確に応えて行動できるのもとても大切な能力ですよ。フレイの力が優れていることに違いはありません」
確かにそれはその通りである。今回戦ってみて分かったのは、やはりパーティの力は大きいということだ。特にこのパーティはメンバー誰もが傑出した力を持っているし、リーダーとしては責任が重い。
「しかし俺はまだ経験が浅いから分からないんだが、今回のような大型モンスターの襲撃というのはそうあるものなのか」
俺の質問に、スフェーニアが少し思案顔をしてから答えた。
「もちろんないわけではありません。過去には『マウントリザード』の群に襲われた町や、『スカイドラゴン』に破壊された城などもあります。ただそう言ったものは事前に目撃情報などが入るのが常なので、今回のようにいきなり前触れなく3体も現れるというのは珍しいでしょうね」
「なるほど……」
と言いつつ『ドラゴン』という単語に少し心が躍ってしまったのは仕方ない。ファンタジー世界の王者、いつか見てみたいものだ。
「だからこそ、さっき捕まってた人物が怪しいという話になるわけか」
「オーズという国については情報が少ないのですが、ゴーレムやアンデッドを使役して国を運営しているというのは確かなようです。ですので今回のゴーレムを彼女がけしかけたという可能性はあるでしょうね」
「ミーランさんの話だと、あの娘のパーティが来た時期とアンデッドが増え始めた時期が一致するみたいだしね。今頃取り調べられてるんだよね、きっと」
ラーニの言葉には「そうだな」と言うしかない。
言うしかないのだが、どうも俺たちが得た情報をひっくるめるとそんな単純な話でもない気がする。というか、あまりに話がデキすぎているのだ。まるで彼女を犯人に仕立てるために状況が作り上げられている感じすらする。
「ソウシさま、なにか気になることでもあるのですか?」
思案顔になっていたのだろう、フレイニルが心配そうな顔をする。
「いや、あのオーズの冒険者を下手人だと断定するのはどうかと思ったんだ。あまりに状況証拠が揃いすぎてて、逆に彼女が誰かに
「状況が……揃いすぎている、ですか。そういう見方もできるのですね、さすがソウシさまです」
「それって単にあの娘が可愛かったからそう思ってるだけじゃないの?」
ラーニの言葉にフレイニルがハッとした顔で俺を見る。
「そんなんじゃないからな。あの娘のパーティを見た時、ラーニは奴隷狩りの臭いがするって言ってただろう。ということはあのパーティメンバーはメカリナン国の人間の可能性があるわけだ。オーズの人間がメカリナンの人間とパーティを組んでこの国で騒ぎを起こす。しかし捕まったのはオーズの人間だけ。メカリナンの男たちはどこかに消えた。どう考えても怪しい感じがするだろ?」
「ふぅん、言われてみれば確かに怪しいわね」
「ということは、ソウシさんはあのオーズの娘はメカリナンの男たちに陥れられたとお考えなのですね?」
スフェーニアの言葉に俺は頷く。
「その可能性もあるだろうと思ってる。ただそれをする理由は不明だけどな」
「なるほど……。実はさきほどの彼女の言葉遣いを聞いて、もしかしたらオーズの貴族階級なのかもしれないと感じたのです。そう考えると今回の件は重大な話に発展する可能性もあるのですが……」
「それは政治的な話になるということか?」
「そうですね。この国……ヴァーミリアン国とメカリナン国、そしてオーズ国は微妙な関係をたもっていますので」
「ふむ……」
やはり出来過ぎている気もするが、メカリナン国が
などと素人推理をこねていると、ラーニがベッドの上であぐらをかきながら言った。
「まあでもあの娘が実際やったかどうかは調べれば一発だから大丈夫じゃない? 嘘を判別する魔道具とかがあるって話だし」
「そんなものがあるのか?」
その問いにはフレイニルが頷く。
「はい、王都のアーシュラム教会にあります。確か王家にもあるはずです」
なんとそんなものがあるとは、この世界は一部現代日本より進んでいるのかもしれないな。しかしそのような便利道具があるとすると、彼女に罪をなすりつけるという陰謀は成り立たないはずだ。やはり俺の思い過ごしか――
「……いや、そうか……」
その時俺の脳裏に閃いたのは、少しばかり胸糞の悪い予想であった。
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