8章 エルフの里へ 13
里の方に走って向かう途中にも、何度か鋭い衝撃音が響いてくる。
間違いなく巨大ワニ型ゴーレムが里の城壁を破ろうとしている音だろう。
恐らく今いる冒険者が迎え撃つためにでてきているとは思うが、フレイニルの『後光』が効いていない状態で相手をするのはかなり危険なモンスターだ。
里の城壁が見えてくる。正門は閉められ、見張り台の上に数名の冒険者がいて矢や魔法を下に向けて撃っている。
ドオンッ、という音の後にバキバキバキッという音が続く。まずい、城壁が破られたか。
一匹のゴーレムが崩れた城壁を乗り越えるのが見える。その後ろをもう一匹がついて行こうとする。
「ラーニ、先行して後ろの奴の注意をこっちに引いてくれ」
「了解っ」
ラーニが『疾駆』で一気に200メートルほどある距離を詰め、後ろの一匹の尻尾に斬りつける。火属性を付与したらしく尻尾に火がついて一瞬だが派手に燃え上がる。
グオォッ!
斬られたゴーレムが後ろを振り返り、俺たちを見つけてこちらに向かってくる。
「俺がおさえる。フレイニルは『後光』、スフェーニアは『ストーンランス』を撃ち込んでくれ」
「はい」
返事を聞きながら俺はゴーレムに正面から突っ込んでいく。さっきの感じなら『神の後光』が効いてなくても相手はできるだろう。
巨大な顎による噛みつき。横に避けてメイスで鼻っ面を殴ると、上顎が爆散して半分ほどが消失する。どうやらもともと防御力は低いようだ。
ゴーレムは噛みつきを諦めて体当たりにくる。体重差が圧倒的な分こっちの方が厄介な攻撃だ。
盾で受けるが『安定』『不動』『鋼幹』スキルがあってもさすがに完全には受けきれず後ろにずるずると押される。逆に言うと2~3トンはあるだろう巨体の体当たりを食らってもそれで済む。
そこで周囲が光に包まれた。同時にゴーレムの背中に石の槍が降り注ぐ。
グギャァ!
悲鳴を上げて動きを止めるゴーレム、その脳天に渾身の一撃を振り下ろす。さっきと同じく頭部が爆散し、これで一体討伐だ。
「ソウシ、こっちヤバい!」
ラーニが叫ぶ。里の中に入ったもう一匹のゴーレムが家を破壊しながら奥へと進もうとしている。住人の悲鳴や冒険者の怒号が聞こえてくる。
「ラーニ、足止めをしてくれ!」
「了解っ!」
ラーニが先行して再び尻尾に斬りつける。しかしそいつは構わず前に進んでいく。目の前の獲物を追うのに夢中なのか。
俺は全力で走る。恐らく100メートル5秒くらいは出ている気がするがそれでも遅く感じる。『疾駆』スキルが欲しいところだ。
「こいつっ!」
ラーニが今度は後ろ足を斬りつける。さすがに前進が鈍ったようだ。
しかしそこでラーニが尻尾の一撃を食らって吹き飛んだ。それを見た時、俺の目の前が赤くなった。全身が沸き立つような、久しぶりの感覚。
「クソがぁッ! 届けッ!」
何かを叫びながら走る。倍のスピードでゴーレムの巨体が一気に近づいてくる。
まずはこのクソ尻尾だ。『
「おおおおッ!」
質量と速度と回転の暴力と化したメイスは、掘削機のようにゴーレムの尻尾を端から爆散させていく。
もちろん尻尾で終わりじゃない。次はケツだ、次は腹、胸あたりまでを粉々にしたところでゴーレムの動きが止まった。そりゃそうだ、もう死んでる。いやもとから生きちゃいないかコイツは。
「ソウシさま、もう大丈夫です!」
遠くでフレイニルの声が聞こえた。そうだもう終わりだ。落ち着け俺。ラーニがどうなったかを確認しなくては。
「……ああ、俺は大丈夫だ。それよりラーニは?」
俺が振り向くと瓦礫の中からラーニがひょっこり現れた。
「あ~痛……。『衝撃吸収』があって助かったわね」
そういえばそんなスキルを得ていたな。このあたりも『悪運』の効果なのだろうか。ともあれラーニの無事な姿を見て俺は胸をなでおろす。
「すまん、負担をかけたな」
「さっきのは私の油断よ。ずっと上手くいってたからちょっといい気になりすぎてた」
「そうか……、いや、それは俺も同じかもな」
「注意しないとね。それより私のこと心配してくれたんだ?」
「当然だろう。大切なメンバーなんだ」
「ふうん……。でもさっきのソウシすごかったね。あれもスキル?」
「ああ、どうもそうらしい」
と話をしていると、フレイニルとスフェーニアがやってきた。
フレイニルは「よかった……」と言ってそのまま抱き着いてきた。頭をなでてからラーニに『命属性魔法』をかけるように頼む。見たところ傷はないように見えるが念のためだ。
一方で俺を見るスフェーニアの目が少し潤んでいるのが気になる。白い頬もすこし上気しているように見えるが、『興奮』スキルの様子に驚いてしまったのだろうか。
「ソウシさんは戦いになると別人のように荒々しくなるのですね」
「いや、さっきのはスキルの影響なんだ。能力が上がるかわりに言動が荒くなってしまうらしい」
「そのようなスキルが……。普段のご様子と正反対なので驚いてしまいました」
「正直自分でも驚くレベルだからな。怖がらないでもらえるとありがたい」
「そんな、怖いなどということはありません。先ほどのもラーニが攻撃を受けたのがきっかけだったように見えましたし」
スフェーニアの言葉にフレイニルが頷く。
「ソウシさまは私が攻撃を受けた時もあのように怒っていらっしゃいました。ソウシさまの優しさの裏返しのスキルなんだと思います」
「いや、多分そんないいものじゃないと思うんだが……」
そもそも最初に発動したのは自分が攻撃を受けた時だからな。フレイニルやスフェーニアの言いたいことはわからなくはないが、そんないい感じのスキルではない気がする。もっともいい方に考えることで怖がらないでもらえるならその方がありがたいか。
俺たちがそんなことを話していると、里の人間や他の冒険者たちも集まってきた。ゴーレムの死骸を見たりつついたりしているものもいる。
「何事があったのだ!」
少しして数人の警備兵とともにやってきたのは里長のゴースリット氏だ。
彼は崩れた家や城壁、そしてゴーレムの死骸を見回して非常に驚いた顔をし、俺たちに気付いてまた驚いた顔をした。
「ソウシ殿、そしてスフェーニア様、これはいったい……」
「わかりません。急に巨大なフレッシュゴーレムが現れてこの里を襲ってきたのです。幸いこのように倒すことができましたが、まだ終わりではないかもしれません」
スフェーニアが答えると里長ははっとした顔になって、供の警備兵に周囲を警戒の指示を出した。
それを見てさらにスフェーニアが続けた。
「里長、出現したのがゴーレムであるということは、それを使役する者がいる可能性もあります。これほどのゴーレムが自然発生したというのは聞いたことがありません。調べた方が良いかと思います」
「確かにそうですな。しかしこれほど巨大なゴーレム、しかもフレッシュゴーレムともなると使役できる者は限られてきますな」
里長は警備兵に、怪しいものがいたら確保するよう追加で指示を出す。
しかし今のゴーレムの話はちょっと気になるのでスフェーニアに確認を取る。
「ゴーレムはダンジョンでは普通に現れたと思うんだが、一般的には違うのか?」
「はい。ゴーレムというのは造り出された存在なので、一般的にはそれを造った者、使役する者がいるのです」
「そのゴーレムを造る人間ってのは数は多いのか?」
「そうですね。専門の学問を修めた『錬金術師』がそれにあたりますが、錬金術師自体は王都の学園を出ればなれますので。ただ『錬金科』の卒業生は毎年20人くらいらしいので数はそこまでいないと思います。それ以外だとオーズ国がゴーレムを使役するのがさかんと聞いているのですが、なにぶん国交を持たない国ですので詳細は不明ですね」
おっとここでまた『オーズ』の名が。受付嬢ミーラン女史の話だと『呪術国家』という話であるし、いかにもそれらしさが増してきたな。
話をしていると、ミーラン女史をはじめ冒険者ギルドの職員も集まってきて、ゴーレムを調べたり解体を始めたりしている。作業を見ていると解体専門の職員がバレーボール大の魔石を取り出して台車に載せた。やはり巨大モンスターは魔石も大きいようだ。
と、里の門の方が急に騒がしくなった。
警備兵の一人が里長のところに走ってきて、「怪しい者を確保しました。冒険者のようですが、どうやらアンデッドを召喚する魔道具を持っているようで……」などと言っているのが聞こえる。
程なくして複数の警備兵に囲まれ、一人の人間が連れてこられた。
「わらわはこのようなゴーレムは知らんと言っておる。その道具も見たことなどない。パーティの者に聞いてみよ。さすればわらわの無実がはっきりとするであろう」
槍でつつかれながらも妙な言葉遣いでそう主張するのは、先日冒険者ギルドで見た巫女服の少女……呪術国家オーズ出身だという冒険者であった。
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