7章 フレイニルの過去 04
翌日もDクラスダンジョン攻略である。
3階までは特に問題もなく(と言っても完全に無傷というわけでもないが)、4階へと下りる。
ガイドによるとアサルトタイガーの数が増えるとあったのだが、もともとラーニの『疫病神』のおかげで上限近く出現しているのか、同時に8匹以上現れることはなかった。
ちょっとした問題は、5階に下りる階段の前で明らかになった。
「ねえ、これ以上素材持てなくない?」
ラーニがパンパンに膨れた背負い袋を下ろしながら言う。
「確かにな」
俺の背負い袋もフレイニルの背負い袋も同じくらい膨れている。
ラーニの『疫病神』スキルのおかげでモンスターがほぼ常時上限数で出現するための弊害(?)である。
「この後は魔石以外は諦めるしかないだろうな。高そうな素材がドロップしたらそっち優先で回収しよう」
「私がもう少し持てればよかったのですが……」
「いや、フレイは体格的に無理だから仕方ない」
俺はともかくラーニもフレイニルも体格としては平均的な少女のそれしかない。背負える袋の大きさは限度がある。背負子のようなものがあればいいのだが……今度道具屋で探してみるか。
「とりあえず今日はこのダンジョンの踏破が目標だ。先に進もう」
「はい、ソウシさま」
「オーケー、頑張りましょ」
今攻略中のDクラスダンジョンは今までと同じく5階が最下層だ。実はもう一つあるDクラスは15階層あるそうで、そうなるとウチのパーティには以前聞いた『アイテムボックス』スキルが必須になるだろう。
実はその『アイテムボックス』のスキルはDクラスダンジョン以上で身につくらしい。こういうところで俺の『悪運』スキルが仕事をしてくれるといいのだが。
5階層はそれまでの迷宮状の通路と違い、幅、高さともに10メートル以上ある通路が奥まで続いているだけの特殊な形状をしていた。
そのような特殊なロケーションになっている理由は、ここで出現するモンスターにある。新たに出現する『ハンタークロウ』というモンスターは、見た目が大型のカラスのような飛行型のモンスターなのだ。
「やっと私の『跳躍』スキルが役に立つ時がきたわね!」
とラーニが意気込んでいるが、確かにダンジョンだと『跳躍』はあまり活躍の場がない。ここは是非とも活躍させてやりたいものだ。
通路を進むとさっそく10羽の『ハンタークロウ』が接近してくる。
カラス型なのだが、ある程度接近すると上空でホバリングを始めるのがいかにもダンジョンモンスターらしい。
「聖光いきます!」
フレイニルの先制魔法で2羽が落ちる。
ハンタークロウはフレイニルに向けて一斉に羽状の飛び道具を放ってくる。『飛行+飛び道具』という面倒なモンスターだ。
「フレイは俺の後ろに隠れろ。ラーニ頼んだ」
「はい」
「任せてっ!」
俺が盾で羽攻撃を防いでいる間にラーニが『疾駆』『跳躍』で一気に上空に跳びあがり、2羽を瞬時に斬り捨てた。
『ハンタークロウ』は散開して羽攻撃を仕掛けてくるが、俺の盾とメイスと『鋼体』の鉄壁の守りは崩せない。
高速跳躍を繰り返すラーニが確実に一羽づつ落していくと、最後に残った二羽がやけくそで俺に突っ込んできた。もちろんカウンターメイスの前に爆散して終わりである。
「ラーニ、いい動きだった」
「ありがと、練習の甲斐があったわ。『跳躍』があれば飛行型も楽に対応できそう。さすがレアスキルね」
やはりラーニと『跳躍』スキルの相性はいいようだ。彼女に使わせて正解だったな。
その後数回ハンタークロウと遭遇したが、俺が何発か羽攻撃を食らった以外は特に問題なく進めた。
そして最奥部まで進むと、いつもの通りボス部屋の扉が目の前に現れる。
「ボスはミノタウロスだったな」
「はいソウシさま。ガイドにはそう書かれていました。大きな斧を持った牛頭の巨人だそうです」
前の世界の神話でも有名だったモンスターである。体格的には2メートル半ということなのでそこまで巨大と言うわけでもないが、普通に斧の一撃をマトモに受けたらあの世行きだろう。
それに俺たちの場合、別に注意しておかなければならないことがある。
「上位種になる場合、それと複数出現する場合も考えておこう。どちらにしろフレイはすぐに『後光』を用意してくれ。『充填』もたのむ」
「はい。準備します」
ボス部屋では他のパーティに見られる心配もないので『神属性』は最大限使わせてもらう。弱体化したボスと戦うのは経験を積むという観点では褒められない行為だが、そんなものは慣れてから積めばいい。
「よし行こう」
扉をくぐると、いつもの通りのボス部屋である。湧いてくる黒い霧の量が多い気がするな。
「これ2体出てくるパターンじゃない? ラッキーねっ!」
ラーニの前向き発言は頼もしい。たしかにDクラスダンジョンでいきなりスキルをふたつ得られるのはありがたいのだが……
「ソウシさま、あのミノタウロスは、ガイドにあった絵とは少し違う気がするのですが……」
フレイニルの言う通り、出現したミノタウロスの内一体は上半身裸のいかにもな姿なのだが、もう一体は赤黒い鎧を着た明らかに上位種だった。
まさか両方のパターンが一度に来るとはさすがに予測していなかった。
二体のミノタウロスは耳をつんざくような咆哮を上げると、斧を片手にこちらに向かってきた。
「フレイ『後光』! ラーニ、通常種を引き付けてくれ。無理せず逃げ重視で」
「はいっ、魔法行きます!」
「了解、任せてっ!」
『神の後光』が閃き、ラーニが『疾駆』でミノタウロスに一撃加えて注意を引き付ける。
ここまでは問題ない。あとはあの上位種『鎧ミノタウロス』がどの程度かだ。
フレイニルに近づかせるわけにはいかないので、俺は『鎧ミノタウロス』の前にでる。問題は弱体化したとはいえ上位種ミノタウロスの攻撃を受け止められるかだ。
ブモッ!
雄たけびとともに斧を振り下ろしてくる鎧ミノタウロス。下がりながら軽く盾で受けてみる。これくらいならなんとか受け止められそうだ。
「もう一発来いっ!」
挑発してやると、鎧ミノは横殴りに斧を振ってくる。俺はそれを踏み込みながら盾で受け止める。凄まじい衝撃、盾がひしゃげ、俺も身体ごと吹き飛ばされそうになる。
しかし『安定』『剛力』スキルによって踏みとどまり、お返しにメイスの一撃をくれてやる。狙いは斧を持った腕。
俺のメイスが触れると同時に、ミノタウロスの丸太のような腕が籠手ごと爆ぜる。同時にミノタウロスが口から血を吐きだした。衝撃が全身を巡ったか。我ながら異常な破壊力だ。
ふらつく鎧ミノタウロスの脳天にメイスを叩きつけると、頭部を失った巨体が前のめりに倒れ伏した。
「ソウシっ、こっちもっ!」
見るとラーニがミノタウロスの一撃から身をかわして、こちらに走ってくる。
「ソウシさま、『聖光』行けます!」
フレイニルが叫ぶ。いいタイミングだ。
「ラーニ、横に跳べっ」
「うんっ!」
ラーニが指示通り横に跳び、入れ替わりにフレイニルの『一条の聖光』がミノタウロスの胸板に突き刺さる。
ブモオォォッ!
苦しそうな唸り声を上げる膝をつくミノタウロス。
その隙を逃さずラーニが『疾駆』ですれ違いざまに首筋を切り裂く。頸動脈から血を噴き上げながら、ミノタウロスは地面に崩れ落ちた。
「ソウシさま、大丈夫ですか?」
フレイニルが少し心配そうに近寄ってくる。一撃はもろに盾で受け止めたから、さすがに驚いただろう。
「ああ、問題ない」
「問題ないって、盾が完全に壊れてるじゃない」
ラーニが少し呆れたような顔をする。
「あまり時間がかけられないと思ったから少し強引にいっただけだ。それより2人ともいい動きだったな」
終わってみれば一瞬で勝った感じはあるが、ラーニの囮役もフレイニルの弱体化も、どちらも欠けていたら危険な戦いではあった。そのあたりの分析はしっかりやっておかないといつか痛い目をみるだろう。
「ふふん、まあねっ。ソウシが一匹倒すまでって分かってるから、時間稼ぎするのも気が楽だしね」
「こっちも一体に集中できるからありがたい。フレイの魔法も相変わらず強力だな。聖光も威力が上がってるか?」
「はい、また少し上がったようです。まだまだ強くなりますね」
俺が褒めると、フレイニルは花が咲いたように嬉しそうな顔をする。
「問題はどんなスキルが来るかよね! レアボスもいたんだし……んっ、来た……っ!」
ラーニの言葉と同時に脳内にスキルが流れ込んできた。
一つは念願の『アイテムボックス』だ。どうやら『悪運』がキチンと仕事をしたようだ。
もう一つは『衝撃波』……武器の破壊力を衝撃波に転換して放出するスキルのようだが、これ俺のメイスでやったらとんでもないことにならないだろうか? ちょっと楽しみだ。
「私は『結界魔法』と『二重魔法』です。すごい、魔法が同時に発動できるようになるみたいです」
『二重魔法』がレアスキルの方なんだろうが、確かに聞くからに強力そうなスキルだ。ますますフレイニルの存在感が上がりそうだが、その分人前で使うのは避けないと危険かもしれないな。
「私は『切断』と『空間蹴り』だって。『切断』はすっごく欲しかったんだよね。『空間蹴り』って……なにこれ、面白そう!」
ラーニはそんなことを言うと、いきなりその場で飛び上がった。そのまま着地するのかと思ったら、何もない空中でもう一度跳躍の動作をして飛び上がった。どうやらゲーム的な『二段ジャンプ』を実現するスキルらしい。これも使い方によってはヤバそうなスキルだ。特に『跳躍』との相乗効果は非常に大きい気がする。
「ソウシも『アイテムボックス』持ちになったの!? すごいすごい、これなら深いダンジョンも楽勝ね。私たちのパーティ強くなりすぎっ!」
「さすがソウシさまです。私もお役に立てるようさらに鍛錬に励みます」
俺もそうだが2人のスキルもかなり戦闘スタイルにハマったものが来るな。このあたりも俺の『悪運』が作用しているのか。それとも個人の才能に属するものなのか。
いずれにしてもますます現在のランクに対して強くなってしまった気がする。
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