7章 フレイニルの過去 05
ギルドに戻ってカウンターにレアボスの魔石と素材(黒光りする立派なツノだった)を並べると、受付嬢のマリアネの目がキラリと光った。
「ソウシさん、またレアボスに遭遇したのですか?」
「ええ。しかも通常ボスと二体同時に出現しましたよ」
と言って通常のボスの素材(こちらは茶色いツノだ)も出すと、マリアネの目がさらにキラリと光った。
「そのお話は奥でお聞かせ願います」
ということでまた事情聴取されることになった。やはり初の案件であったようだ。
「ソウシさんは、もしかしたらなにか特別なスキルをお持ちなのかもしれませんね」
一通り報告が終わると、マリアネは記録簿を閉じながらそんなことを言った。
「それはレアモンスターの遭遇率が上がるようなスキルということですか?」
「ええ、そうとでも考えなければソウシさんの討伐記録の異常さは説明がつきません。通常レアモンスターは、比較的勤勉なパーティが1年間活動してせいぜい2~3体遭遇するくらいのものです。これはギルドでも統計的に明らかになっています」
「なるほど。そう考えると私の遭遇率は確かに異常なほどですね」
「ただ、今までそのようなスキルの存在は確認されていないはずです。モンスターとの遭遇率が上がったり、ダンジョンでの出現数があがるスキルは確認されているのですが」
マリアネはちらりとラーニを見る。なるほど『疫病神』スキルはすでに知られてはいるのか。
「そのスキルはどこに行けば確認できますか?」
「王都のアーシュラム神殿にて確認ができます。ただしその際1000万ロムの寄進が必要になるそうです」
「え、なにそれボッタクリ!?」
反応したのはラーニだが、俺も同じ感想だ。フレイニルははあと息を吐いて目を伏せている。もと聖女候補として教会の強欲さが恥ずかしい、みたいな感じなのだろうか。
「なぜそんなに高いのでしょう?」
「教会が言うには、非常に貴重な魔道具を使うからだそうです。その魔道具も使うのに大量の魔石を必要とするとか」
「ガイドにもスキルについての詳細がないのはそのせいもあるんでしょうか?」
「その通りです。スキルについては一部の上位者が公開してくれた情報と、冒険者の経験によってしか詳細が得られないのが実情です」
なるほど、冒険者がスキルについて中途半端な知識しかもっていないのはそのためだったのか。それでは俺たちがやっている特定のスキルをイメージして鍛錬する、という方法が広まらないのも分からなくはないな。
「分かりました。実は私自身、そんなスキルがあるんじゃないかという気はしています。ただ今後も同じように活動を続けるだけですが」
「ええ、ギルドとしてもその方がありがたく思います。ソウシさんのパーティほど勤勉なパーティを私は知りません。今後もよろしくお願いします」
マリアネはそう言うと立ち上がって一礼した。
まさかそんなふうに評価されていたとは思わなかったが……まあこの歳になっても認められるのは嬉しいものである。
翌日は新たなダンジョンには潜らず、装備の見直しと新たに得たスキルの検証をすることにした。
まず破壊された盾を新調した。俺の腕力が有り余っているので、Bランクの盾役が使うレベルの分厚い大盾を購入する。鉄板を何枚も張り合わせた、およそ通常の人間では絶対に持てないようなもので、あの鎧ミノタウロスの斧もこれなら余裕で防げるだろうと思われるものだ。
ついでにメイスもついにオーダーメイドで頼むことにした。前に世話になったドワーフの店主に依頼をしたのだが「あのメイスがもう物足りねえってのか?」と呆れた顔をされてしまった。こちらは一週間後の納品になる予定である。
フレイニルについては杖も防具も新調する必要はないということで、服などを追加で複数購入した。『アイテムボックス』スキルが手に入ったので多少余計な荷物が増えても問題なくなったというのもある。
ラーニは今使っている幅広の剣がしっくりくるということでそのまま継続使用、防具をランクアップし、軽量でより丈夫なものに替えた。もちろんラーニも服はいくつか新調している。
全体的にはDランクパーティとしてかなりいい装備をしている感じになった。おっさんと美少女二人というだけでも目立つので控えたいところではあるが、装備は命がかかるので仕方がない。
午後はスキル検証のために昨日と同じDクラスの草原ダンジョンに潜った。
まず俺の『アイテムボックス』だが、発動すると目の前の空間に黒い穴が開き、そこに物が出し入れできるという予想通り(?)のスキルだった。
ただ予想外だったのは無制限に入るというわけでもなく、入れたモノの重さ……というか質量によって相応に体力が削られる感覚があるということだ。
もちろん体力消費の量は普通に運ぶよりは格段に少なく、なによりかさばらないというメリットがあまりに大きいので極めて有用なスキルであることに違いはない。
ちなみにダークメタル棒を3本入れたところ体力消費量が跳ね上がるのが確認されたが、逆に『体力』スキルのトレーニングになりそうな気がする。いずれにしろ腕力や体力が有り余っている俺との相性は非常にいい。
次に『衝撃波』だが、これも予想通りメイスを振ると意識した方向に見えない衝撃波が飛ばせるというものだった。スキルレベルが低いうちは大したことがないようで、全力で振っても5メートル離れたオーク2~3体を吹き飛ばして全身骨折させる程度だったが……いや普通に大した威力だな。レベルが上がったらザコ狩りが楽になりそうだ。
フレイニルの『結界魔法』はその名の通り目に見えない結界、すなわち壁を作り出す魔法だ。基本的には自分を中心に半球状のドームのような壁を作るようだ。
強度はまだ俺が叩くだけで消えてしまうレベルだが、レベルが上がれば強固になるのだろう。ゲーム的な考えでは今後現れるだろうモンスターの『ブレス攻撃』などに対して有効な気がする。
面白いのは一度発動すると破壊されるか意識的に消去するまでは残り続けることで、もしかしたら野営などでも活躍するかもしれない。なお残念ながら結界は双方向に有効で、張っている限り内側からも攻撃はできない。
『二重魔法』はその名の通り二つの魔法を同時に発動できるというもので、例えば『一条の聖光』を同時発動すれば二本の光線が出るようになる。精神集中の時間が変わらないので単純に魔法の効果が二倍になるようだが、その分体力の消耗は二倍以上になるようで、『神の後光』などはまだ同時発動できそうもないらしい。
なんにせよ『聖光』を先制で倍撃てるというだけで恐ろしく有用なスキルだ。これも知られたらフレイニル争奪戦が始まりそうで、人前での濫用はできそうもない。
ラーニの『切断』はそのまま武器の切断力を上げるスキルで、剣使いには
もう一つの『空間蹴り』は取得した時に見せてくれた通りで、長ずれば立体的な戦いができるようになるのではないだろうか。『跳躍』と組み合わせると相当高い所まで飛び上がれるので、場面によっては反則級のスキルになるかもしれない。
そんな感じで検証しつつDクラスダンジョンを進み、大量の素材をすべて回収、ボスの通常ミノタウロスも二重聖光で瞬殺……となると、自分達の実力が明らかにおかしいことにいやでも気づく。
やはり『悪運』のせいでレアスキルが得られるのが大きい。今後この力をどう使っていくのかも考えなければならない時がきそうだ。
マリアネに指摘されたということは、冒険者ギルドの方でも俺たちには多少なりとも注目するだろうしな。
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