6章 護衛依頼とアンデッド討伐  02

 15分ほど歩くと『気配感知』に反応があった。森の先に7体いてすでにこちらに向かってきているようだ。出現数としてはかなり多いが、これもラーニのスキルの効果だろうか。


「数が多い、フレイニル『後光』の用意」


「はい」


 フレイニルが精神集中に入る。ホーフェナ女史はその隣にいてもらい、合わせて俺が守る位置につく。ラーニは遊撃だ。


 ガサガサという音が木々の間を抜けてくる。次第に大きくなっているのはもちろん接近しているからだ。


「魔法いけます」


「まだだ……まだ……やれ!」


 森が光に包まれ、ギュウウ……といううめき声があちこちから上がった。ユニコーンラビットが己の弱体化に気付いたのだろう。しかしそれでも彼らが攻撃をやめることはない。中型犬くらいの大きさの、額に長いツノのついたウサギが次々と草むらから飛び出してくる。


「これ入れ食いって奴じゃない!」


 ラーニが『疾駆』を使いながら的確にラビットたちの首を落としていく。『急所撃ち』スキルの効果もあるのだろう、すべて一撃で片をつけている。


 俺のもとにも2匹が突っ込んできた。メイスで殴ると角ごと粉砕してしまうので、飛んできたところを両手でそれぞれ捕まえる。掴んでいるのは角だが、『掌握』スキルのおかげでどんなに暴れても角が手から抜けることはない。そのまま木の幹に胴体を叩きつけて息の根を止める。


「すごいです、一度に7本も角が取れるなんて!」


 と、ホーフェナ女史は小躍りしている。結構危ないシチュエーションだったんだがそこは気にしないらしい。


「んんっ? ソウシ、まだいるみたいよ」


 ラーニがまた鼻をヒクヒクさせている。ホーフェナ女史の話だとそんなに出現しないはずなんだがな……と思っていると『気配感知』に反応。


 今度は6匹だが、うち1匹の反応が強い。ボスか、それともレア個体か。


「フレイニル、もう一発『後光』いけるか?」


「いけます、お任せください」


 ガサガサ音が近づいてくる。5匹が前、特別な1匹は一番後ろだ。


「ラーニ、最後尾に一匹違うのがいる。強い個体かもしれない。注意してくれ」


「わかったわ。ソウシに任せていい?」


「ああ、俺がやろう」


「魔法いけます」


 フレイニルが言うのと、一匹目が飛び出してくるのは同時だった。


「いけ!」


 周囲が光に包まれる。飛び出してきた一匹はすでにラーニが首を飛ばしている。


 残り四匹が飛び出してくるが弱体化で動きが遅い。すべて片づけると、ラーニは俺の後ろに回ってホーフェナ女史の守りにつく。このあたりの動きは大したものだ。


 特別な一匹が木の間から姿を現した。デカいウサギだ。大型犬くらいあるだろうか。額には二本のツノ。


「バイコーンラビット! 希少種です、角を確保してください!」


 ホーフェナ女史が嬉しそうに叫ぶ。この薬師さんは肝が据わっているのか、それとも薬の材料に目がないのか。


 バイコーンラビットは赤い目を俺に向けると、凄い勢いで突進してきた。弱体化してこれなら元はかなりの強敵だろう。


 俺は正面から二本の角を両手でガッチリと掴んだ。勢いに押されて角が刺さりかけたが『鋼体』スキルがそれを防ぐ。


「ふんっ!」


 俺はその角を横に回転させるようにひねる。バイコーンラビットもそれなりに力はありそうだったが、俺の怪力には抗うすべはなく身体ごと横転する。


 その瞬間ツノを反対側にひねってやると、ゴキッと音がしてバイコーンラビットの首の骨が折れた。ビクッと一瞬だけその体が跳ね、二度と動かなくなる。


「やったやった、ソウシさんすごいですね! これでお薬がいっぱい作れます。しかもバイコーンのものまで……こんなことってあるんですね!」


 ホーフェナ女史はフレイニルの手を取って完全に踊り始めてしまった。フレイニルが「えっ!? えっ!?」と言って目をぱちくりさせている。その踊りはラーニが苦笑いをしながら止めるまで続いたのであった。





「今日は本当にありがとうございました。こんなにいい日は初めてです。是非また依頼をさせてください!」


 ギルドで依頼終了の手続きを済ませると、ホーフェナ女史は俺の両手を取ってハイテンションでそんなことを言ってきた。


「はあ。今日は単に偶然が重なっただけだとは思いますが……」


 とは言ったが、今回の件は多分俺の『悪運』とラーニの『疫病神』の合わせ技なんだよな。もし次に依頼があったらその時にはっきりするだろうか。


「フレイニルちゃんもラーニちゃんもありがとう。二人ともすごかった。このパーティは有名になると思う。頑張ってね!」


 そんなことを言って、ホーフェナ女史は戦利品(角12本+レア角2本)を持って去っていった。あのテンションで薬師ギルドまで帰れるのだろうか、ちょっと心配になる。


「ソウシさん、こちらの手続きも済みました。護衛依頼はこれで終了となります」


 背後からマリアネが声をかけてきた。


「ああ、ありがとうございます。いい経験になりました」


「それからスキルオーブの鑑定も終わりました。やはり『跳躍』で間違いありません」


 実はバイコーンラビットからはスキルオーブも手に入った。今回の依頼では角についてはすべてホーフェナ女史が買い取るという契約だったのだが、それ以外のものは俺たちが自由にできることになっている。


「わかりました。こちらで使用します」


「ソウシさんは運が本当にいいようですね。これほど短期間にスキルオーブを二個も手に入れたパーティを私は知りません」


「そうですね。珍しいモンスターに遭遇しやすい気はしてます」


 俺はスキルオーブを受け取ると、フレイニルとラーニに声をかけギルドを後にした。





「さて、このスキルオーブを誰が使うかだが……」


 宿に戻ると、俺は部屋に2人を呼んで会議を始めた。


「『跳躍』って言ってたわよね。どんなスキルなの?」


 俺の手の上にあるスキルオーブを目を輝かせて見つめながらラーニが聞く。


「言葉通り高くジャンプできるようになるスキルらしい。ただ高く飛びすぎるとその分着地した時にダメージを食らう可能性があるとか」


「ふぅん。でもあると確実に便利よね。高い所のモンスターにも攻撃が届くようになるし」


「そうだな。で、戦闘スタイルを考えると、ラーニが使うのが一番いいだろうと思うんだがどうだ?」


「ソウシさまの言う通りだと思います」


 フレイニルは即答だが、ただ俺の言葉を全肯定してるわけじゃないよな……?


 ラーニは耳をピンと立てて俺を見る。


「えっいいの!? ソウシが倒したんだよ?」


「パーティとして一番戦力が上がるようにするのが当然だ。俺の戦闘スタイルには合わないスキルだし、むしろ『疾駆』と組み合わせると効果が大きいと思う。ラーニが使うのが最適だろう」


「それなら私使いたい」


 ラーニは尻尾をピクピクと振って、スキルオーブを俺の手から受け取った。


「どうやって使うの?」


「オーブを握って、スキルを欲しいと願えばいいみたいだ」


 ラーニはスキルオーブを握って目をつぶった。ピクッと身体が震えたので身についたのだろう。


「あっ、スキルが入ってきた。……うん、これならいろんな戦い方ができそう。ありがとうソウシ」


 ラーニの尻尾が激しく左右に動いている。ラーニは力を求めてるようだから、レアスキルを身につけるのはかなり嬉しいはずだ。


「フレイニルにもいいスキルが手に入ったら使ってもらうから、それまでは待っててくれ」


「はい。ありがとうございますソウシさま」


 一応フレイニルにも気を配っておく。彼女は繊細なところがあるようだし、自分が軽視されていると思わせてはいけないだろう。


 フレイニルが少し安心したような顔をしていると、ラーニがちょんちょんとその肩をつついた。


「フレイニルはソウシに聞きたいことがあるんじゃなかったの?」


「えっ? いえ、別にありませんけど……」


「ホントに? ホーフェナさんのこと聞いておきたいんでしょ?」


「……っ!? それは……その……」


 下を向いてもじもじしだすフレイニル。ラーニはそれを見てニヤニヤ笑っている。


「なにか聞きたいことがあるのか? 遠慮せずに言ってくれ」


「……それは……その、ソウシさまは、ホーフェナさんのような方が……」


「ホーフェナさんが?」


「その……お好きなのかなと思いまして……。薬草を取っていた時にじっと見ていらっしゃいましたし……」


「は……?」


 ああ、あの時の視線ってそういうのを疑われてたのか。年頃の女の子はやっぱりそういうのは気になるんだろうか。まあパーティのリーダーが美人エルフにうつつを抜かしてたら不安だというのもあるのかもしれない。


「あの時見てたのは薬草をどう取るのかを観察してただけだ。彼女自身に興味があったわけじゃない」


「そうなの……ですか?」


「確かに彼女は美人だとは思うけど、それだけで好きとかそういうことはないさ」


「だって。よかったわね、フレイニル」


「よかった……です」


 胸をなでおろして心底ホッとしたような表情を見せるフレイニル


「今俺にとって一番大切なのはパーティメンバーの2人だから、それ以外に気持ちが向くことはないよ」


 ここまで言っておけばこれから何があっても悩まないでくれるだろうか。


「一番大切……はい、嬉しいです」


「ふぅん、今のは悪くない……かな?」


 2人の反応だとよく分からないが、パーティの絆が少し強まったと信じよう。

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