6章 護衛依頼とアンデッド討伐  03

 それから2日間は、やはりEクラスダンジョンでパーティ戦力の強化を行った。新たなスキルを得るためにエウロンの外の町に行くことも考えたが、どうやら例の大討伐任務が近いとのことだったので金を稼いで装備を新調することにした。


 俺は盾役になるのを念頭に、試しに盾を大型のものに替えてみた。今までは攻撃は最大の防御のようなスタイルだったが、攻撃役のラーニが『急所撃ち』や『剛力』スキルで一気に強化されたので、パーティのバランスを考えた結果である。むろんフレイニルを守りやすくするという目的もある。


 フレイニルは杖がすでにいい物なので防具をランクアップした。彼女が攻撃を受ける状況になること自体がマズいのだが、そうはいっても備えは必要である。


 俺たちのパーティに入って一気にスキルが身についたラーニは、使っていた長剣が物足りなくなってしまったようだ。刃の太さが倍くらいもある剣を新たに手に入れて、それに身体を慣らすことに余念がない。


 そして3日目の朝ギルドに顔を出すと、ついに例のアンデッドの城攻略の大討伐任務の知らせが掲示板に貼り出されていた。


 受付嬢のマリアネに声をかけると「ようやく任務が発令されました。参加をお願いします」と言われる。


「そういえば追加で情報を聞かれることもあるという話だったと思うのですが、事前に偵察などを行ったということでしょうか」


「そうですね、別のパーティに依頼して偵察を行ったようです。情報通りにアンデッドの城が確認されたということで、今回の大討伐任務の発令となりました」


「分かりました。しかしアンデッドの城で確定なんですね」


「ええ、アンデッドが拠点を作って活動するというのは稀にあることなんです。ただそれが城となると相当に高ランクのアンデッドがいるということになりますね」


「それはまた……。当然高ランクの冒険者が参加するんですよね」


「『紅のアナトリア』、それと本ギルドトップの『フォーチュナー』が参加します。戦力的には問題ないでしょう」


 どこかで聞いたメンツだな。まあ、このバリウス子爵領では彼らが最高戦力ということなんだろう。


「わかりました、案内を見て準備します」


「よろしくお願いいたします」


 カウンターを離れると、ラーニが耳をピクピクさせながら話しかけてきた。


「前から思ってたけど、ソウシってマリアネさんと仲いいよね。あの人対応が塩だっていわれてて敬遠してるパーティが多いんだけど」


「きちんと話をすれば普通に対応してくれてるって分かるんだけどな。話し方とかで勘違いはされるのかもな」


「そうなのかな。フレイニルはどう思う?」


「えっ? マリアネさんはいい方だと思いますけど。私にも最初から優しかったと思います」


 そういえばマリアネはフレイニルには最初から態度が違っていた気もするな。なにか知っている風だった感じもあった。


「そうなんだ。私は話したことないからよく知らなかっただけかもしれないわね。ところで今日はどうするの?」


「大討伐任務の日程の確認をして、必要なものを揃えておこう。もちろん時間があればダンジョンには行く」


「だよね。アンデッドの拠点に乗り込むなら少しでも強くなっておかないとね」


「フレイニルの魔法が重要になるかもしれない。そのつもりでいてくれ」


「はいソウシさま。魔法の発動が少しでも早くなるように精進します」


 掲示板の告知を見ると出発は3日後早朝だ。このあたりも前と同じか。それまでせいぜいスキルレベルを一つでも上げておこう。どうせ起こるだろうイレギュラーのために。





 大討伐任務当日、エウロンの街の城門前にはハンターと領軍の兵が集まっていた。数はゴブリンの時と同じくらい、冒険者が約100人、兵士が約200人だ。


 ただし兵士は糧食の運搬と魔石や素材回収役が主な任務だ。戦力はほぼ冒険者が担うことになる。


「あれが『紅のアナトリア』なのね。見た目の歳はあまり変わらなそうだけど、いかにもAランクって感じ」


 離れたところで指示を出している真紅の鎧姿のエルフ女騎士をラーニが興味深そうに眺めている。フレイニルもちらちらと見ているが、なぜか俺の影に隠れながらだ。


「冒険者パーティの中で、聖属性魔法が使える者が所属するパーティがあったらこちらへ来てほしい」


 アナトリアがよく通る声で叫ぶ。アンデッドに特効のある魔法を使える者を把握しておきたいのだろう。ここは名乗り出ない訳にはいかないのだが、フレイニルが俺の袖を掴んで不安そうな目を向けてきた。


「ソウシさま、やはり行かないといけませんか?」


「そうだな。彼女はこの場のリーダーだ。命令を聞かないわけにはいかない」


「そうですか……。わかりました」


 アナトリアになにか含むところがあるのだろうか。まあしかしここはいかんともしがたい。


 俺はフレイニルとラーニを連れてアナトリアのところへ向かった。


 集まったパーティは3組だけだった。聖属性魔法はやはりレアなスキルらしい。前の2つのパーティに指示を与えたアナトリアは最後に俺たちのところに来た。


「む、貴殿は見覚えがあるな」


 俺の顔を見て、アナトリアが整った眉をピクッと動かした。


「以前トルソンの街でゴブリンの討伐の時にお世話になりました」


「あの時の、確かソウシ殿といったか。今回もよろしく頼む。そうか、パーティを組んだのだな。ところで魔法を使えるのは誰か」


「こちらのフレイニルになります。ランクはEですので使える聖属性魔法は2つですが」


 実はフレイニルは、直前になって2つ目の聖属性魔法を覚えていた。『浄化』という魔法で、その名の通り対象のけがれをはらう魔法らしい。いかにもアンデッドを成仏させる的な感じの魔法だが、実際には消毒のような物理的な効果もあるようだ。


 俺が紹介すると、アナトリアはフレイニルへ目を向けた。「ふむ」と声を発し、その目がすうっと細まる。しかしフレイニルがいづらそうに下を向くと、すぐに目を離して俺の方に向き直った。


「『聖光』と『浄化』が使えるなら戦力としては十分だ。霊体系のアンデッドは物理攻撃が効きづらいのでな。よし、貴殿らのパーティは私と行動を共にしてもらおう。行軍時から私に随行するようにしてくれ」


「承知いたしました」


「うむ、ではよろしく頼む。出発まではそこにいて欲しい」


 俺は一礼して、アナトリアが指示した場所まで下がる。


 しかしまさか総隊長の随行を命じられるとは思わなかったな。フレイニルを見た時に反応していたところから考えて、この人事はフレイニルの正体に原因がありそうだ。フレイニル本人も申し訳なさそうな顔をして「すみません……」とつぶやいているので間違いないだろう。


 まあラーニは「アナトリアの戦いが近くで見られるなんてラッキーね」とか言っているし、後ろ向きに考えることもないだろう。元AランクやCランクパーティと行動を共にできるのはEランクパーティにとっては格別の扱いのはずだしな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る