5章 出会いの連鎖 05
翌日はギルドでマリアネに行く先を告げ、エウロンにあるEクラスダンジョンに向かった。
ラーニもたまたま河原のEクラスダンジョンは踏破済みで、もう一つの方は未踏破だった。こういう小さな運のよさはありがたい。
さて、そのもう一つのEクラスダンジョンは岩山のふもとにあった。見た目は崖に開いた洞窟である。
俺、フレイニル、ラーニの並びで突入する。今回からマップ係はフレイニルに任せることにした。低クラスダンジョンではモンスターに奇襲されることは少ないが、分業できるのはパーティの利点の一つだろう。
まさに岩の洞窟そのままといった通路を進んでいくと『気配感知』に反応がある。数は7匹、一階なのにいきなり多いな。
現れたのはロックリザードの上位種『ハードロックリザード』だ。単に表皮がさらに固くなっただけのオオトカゲだが、攻撃力がないパーティには脅威となる、らしい。
「魔法いきます」
用意していたフレイニルの『聖光』が一匹を貫いて倒す。
「ラーニ、二匹頼めるか?」
「任せて!」
前に出る俺をラーニが『疾駆』で追い越し、二匹に一撃づつ与えて引き付ける。
俺は残り4匹に突っ込んでいき、一匹づつメイスで頭を叩き潰す。『筋力』『安定』『剛力』『重爆』スキルによる暴力は、硬い岩の表皮ごと頭部を爆散させる。オーバーキルもいいところだ。
ラーニはと見ると、一匹が口を開けたところに炎属性の魔法剣を突き刺して倒すところだった。もう一匹はその後ろに健在だ。
「魔法いけます!」
「ラーニ、下がれ!」
俺が叫ぶとラーニがバックステップで距離をとった。『聖光』が残った一匹を貫いて討伐完了だ。なかなか悪くない連携だな。
ラーニが戻ってきて舌を出す。
「やっぱり硬い奴は苦手。ソウシはまあアレとして、フレイニルの魔法も強力よね。あれの皮を貫通する魔法なんてあるんだ」
「『聖属性魔法』です。ソウシさまと初めての共同作業で身につけたスキルなんです」
フレイニルの言葉が妙にひっかかる気がするが……深い意味はないんだろう、多分。
「互いの不得手を補い合うのも大切だ。素早いモンスターはラーニに任せることになるだろうな」
「うん、そういうのは得意。リーダーが分かってくれてるとありがたいわ」
ラーニが尻尾を振りながら俺の肩を叩く。フレイニルはそれを見て自分も俺の身体に触れようとしたようだが、はっと気付いたように頬を赤らめてやめてしまった。
もしかしてスキンシップに飢えているのだろうか。といっても、さすがに俺から触るわけにもいかないんだが。
その後ハードロックリザードには数回遭遇したが、いずれも数が多めだった。どうやらそれがラーニの『疫病神』たるゆえんのようだ。正直素材は増えるし連携のいい練習にもなるし悪いことはないんだが、それは俺たちがEランクとしては強いからだろう。普通のパーティならハードロックリザードが7匹も現れたら大変なことになる。
地下2階に下りるとさらに数が増え最大10匹出てくるようになったが、そこは俺が少し頑張って叩き潰した。物理が効く相手なら敵なしに近い。フレイニルは「さすがソウシさま」を連発し、ラーニの俺を見る目も輝きを増してきている気がする。まあリーダーとしていいところを見せるのは大切なことだ。
「そういえばフレイニルの『神の後光』はモンスターを弱体化するんだよな? リッチには効いたけど普通のモンスターには効くんだろうか」
ロックリザードが残した魔石と金属塊を回収しながら俺はふと気づいたことを口にした。『神属性魔法』は現時点ではかなり体力を消耗するようなので、実はあまり使わせていなかったりする。
「次にモンスターが出てきたら試してみましょう」
「体力は大丈夫か?」
「はい、あの時より強くなっていると思いますし、『消費軽減』スキルもあります。それにこの杖もありますので」
ということで、3階への階段前で現れたハードロックリザード8匹相手に『神の後光』を使ってもらった。
ダンジョン内が一瞬光で満たされると、リザードたちの動きが目に見えて遅くなった。
試しに一匹を叩いてみると、不思議なことに岩で包まれた皮が柔らかくなっている気がする。どういう原理だろうか……というのは考えるだけ野暮か。
「多分ラーニの攻撃も通じるぞ」
「本当に?」
ラーニがリザードを斬ると、赤熱した刃はあっさりと皮を切り裂いて首を落としてしまった。
「えっ!? なにこれ凄い!」
嬉しそうに飛び跳ねたラーニは、そのまま『疾駆』で駆け回って全部の首を落としてしまった。
「フレイニルの魔法はどちらも相当に強力だな。皆に知られたらスカウトが殺到するかもな」
そう褒めるつもりで言ったのだが、フレイニルはまたあの子犬のような目になって俺にしがみついてきた。
「私はソウシさまとずっと一緒にいます。他のパーティになんて行きません」
「え? ああ、もちろん俺としてもその方がありがたいよ。大丈夫、フレイニルが嫌と言うまで一緒にいるから」
「嫌なんて一生言いません。だからずっと一緒です」
フレイニルはそう言ってから、しばらく俺の腕にしがみついたままだった。
ラーニがその姿を見て俺に含みのある視線を向けてきたのだが、俺はそれに対して首を横に振ることしかできなかった。
3階に降りると、新たに土でできた身長2メートルほどの人型モンスター『マッドゴーレム』が出現するようになった。
とはいえ完全に物理属性なので、俺にとっては何の脅威にもならない。殴ってくる腕をメイスで爆散させて胴体に一撃食らわせば粉々である。
防御力が比較的低く動きもそこまで速くないため、ラーニにとっても得意な敵のようだ。身軽な動きで
一方で『聖光』だとダメージが効果的に与えられないようで、フレイニルには数が多い場合のみ『神の後光』を使ってもらった。
ちなみに『マッドゴーレム』は魔石以外に稀に宝石を落とすらしいのだが、ラーニのおかげで出現数が多く、幸運なことに一つ拾うことができた。
「これはラーニのお手柄だな」と言うと、ラーニは尻尾をパタパタと振っていたのでかなり嬉しかったようだ。自分の欠点と思われていた部分が役に立つのは嬉しいことに違いない。
4階でもマッドゴーレムを倒しまくって先に進む。スキルレベルや冒険者レベルも上がっていい感じだが、さすがに一度に5体以上出てくるとちょっと面倒だ。まあフレイニルの魔法があれば苦戦するということはないのだが。
5階では『アイアンイーター』という鼠の化物が現れた。数が多く、武器や防具を食べるという話だったが、その前に倒せばいいだけなので問題はなかった。相手の防御力が低ければラーニの手数の多さは非常に心強い。
そんなわけで、俺たちは苦もなくボス部屋前までたどり着いてしまった。
「こんなに簡単にボスまでたどり着くのって初めてよ。このパーティすごくない?」
ラーニが尻尾をピクピクさせてボス部屋の扉を見つめている。
「一回目でボスまで来てしまうのは俺も初めてかもしれないな。ラーニが入ったのも大きいし、フレイニルの魔法が強力なのも大きいな」
「ソウシさまの指示が的確だったというのもあると思います。それにソウシさま自身お強いですし」
「そうね。殴り合いだとちょっとモンスターが可哀想なレベルかも。リーダーとしては頼もしいけど」
うん、リーダーをやる気にさせてくれるいいメンバーに恵まれたな。
「よし、ボスとご対面といこうか。準備は大丈夫か?」
「大丈夫」「大丈夫です」
扉を開いて中に入る。いつもの通り黒い霧が発生するが量が多い。
「もしかしたらボスが2体出るかもしれない。気を付けろ」
「えっ、そんなことあるの?」
「ああ、一度あった」
ラーニに答えているうちに、黒い霧がボスの形をなす。
全身が岩でできた身長2メートル半程の人型のモンスター『ロックゴーレム』だ。予想通り2体の出現である。
「フレイニル、『神の後光』。ラーニ、一体をひきつけておいてくれ。魔法が効くまでは逃げ重視で」
「はいソウシさま」
「了解っ、任せて!」
ラーニがいつもの通り一撃を与えて離脱し一体をつり出してくれる。ゴーレムの動きは速くはないので攻撃を食らうことはないだろう。
一体が俺の方に向かってくるが、どうも狙いはフレイニルのようだ。だとすると正面で相手をしてやらなくてはいけない。
俺が目の前に立つと、ロックゴーレムはパンチを見舞ってきた。大振りのパンチなので避けるのはたやすい。カウンターで腹にメイスを食らわせるが、さすがに一撃で砕くことはできない。しかしそれでも破片を飛び散らせゴーレムは2、3歩下がる。
ラーニはヒットアンドアウェイでゴーレムを釘付けにしている。ただし有効なダメージはほとんど与えられていないようだ。土属性に有効なのは風属性らしいが、防御力が高すぎると風の刃も簡単には通じないようだ。
俺が相手をしているゴーレムが体勢を立て直して再度迫ってくる。両腕を振り上げ、そのままハンマーのように振り下ろしてくる。下がって避けるが、ゴーレムはその腕を振り上げつつさらに踏み込んできた。
これ以上は下がるとフレイニルに危険が及ぶ。俺はゴーレムが腕を振り上げきる前に踏み込んでメイスを思い切り突き出してゴーレムの胸を打った。腕を振り上げた状態のゴーレムはそのままバランスを崩し尻もちをつく。
「魔法いきます!」
フレイニルの声と共にボス部屋が光につつまれる。ゴーレムの動きが鈍るのを見て、俺は立ち上がろうとしているゴーレムの肩口にメイスを叩きこむ。
さっきまでと違いゴーレムの上半身が半分ほど砕け散った。そのまま倒れて動かなくなる。『神属性』魔法の弱体化はちょっと強すぎる気がするな。
ラーニの方も風の魔法剣が効くようになったらしく、連撃を加えてゴーレムの表面をこそげとるようにしてダメージを与えていく。ゴーレムの両腕が落ち、頭部が消失したところでゴーレムは崩れ落ちた。
「ふぅ~、終わった。私がこんな硬いゴーレムを倒せるなんて、フレイニルの魔法すごすぎね」
「この魔法が使えるのもソウシさまのおかげです」
「もう、フレイニルはそればっかりね。ソウシが好きなのは分かるけど、そういうのはたまに言うから効くのよ」
「すっ、好きとかそういうのではなく、感謝をしているだけですっ」
珍しくフレイニルが赤くなって慌てている。年頃の女の子だからな、そういうイジられかたには弱いだろう。
などとおっさんっぽいことを考えているとスキルが来た。ボス二体なのでやはり二つだ。
『麻痺耐性』と『掌握』だ。『麻痺耐性』はそのままだが、『掌握』はものを掴む時に強力な補正がかかるスキルらしい。きちんと握らなくても掴んで離さないということが可能になるようだ。使いようによっては面白いスキルだろう。武器を離さなくなるというのも大きいかもしれない。
「私は『命属性魔法』と『毒耐性』でした。ボスが二体だとスキルも二つ得られるのですね、ソウシさま」
「ああ、そうらしい。今回も幸運だったな」
フレイニルと話している横で、ラーニがぴょんぴょん飛び跳ねる。
「すごいすごい、一度に二つってラッキーすぎない? こんなことってあるんだ。ちなみに私は『急所撃ち』と『剛力』だって。どっちも欲しかったスキルだし、攻撃力が上がりすぎちゃうかも」
俺の『悪運』とラーニの『疫病神』はいい相乗効果を生むかもしれないな。フレイニルがいれば多少格上のモンスター相手でも戦えそうだし、強くなるにはうってつけのパーティかもしれない。
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