5章 出会いの連鎖 04
魔石とテラーナイトの武器や鎧などを回収して、俺たち3人はさらに先に進んだ。
嫌な感じは残ったままであったし、フレイニルもラーニもまだ何かあると口をそろえて言うからだ。
テラーナイトが突然現れたあたりに差し掛かると、急に視界がぼやける感じを覚えた。フレイニルとラーニは特に何の反応もしていない。
俺は二三度目をしばたいて森の方を見る。はじめはピントが合わなかったが、だんだんと景色がしっかりと見えてくるようになる。
と言っても見えるのはやはり森だ。それは変わらないのだが――
「なんだあれは……城、なのか?」
森の奥に尖塔をいくつか持った大きな建築物が見えた。上部分しか見えないが、西洋の城のように見える。
「ソウシさま、どういたしました?」
「いや、森の奥に城のようなものがあるだろう?」
「いえ、そのようなものは見えませんが」
「お城なんて見えないわよ」
「なに……?」
俺には確かに見えるのだが、幻覚だとでも言うのだろうか。
……いや、そうか幻覚か。俺は『幻覚耐性』を持っているが2人にはない。
つまり俺に見えて2人に見えないということは、あの城が見えないよう幻覚の術がこの辺一帯にかかっているということになる。
「よし、いったん戻ろう。ここは危険なようだ」
「え、まだ奥になにかありそうなのに?」
「話は後だ。まずは村まで戻る」
森に不気味な城があり、それを隠す幻覚の術が広範囲に施されている。どう考えてもEランクパーティが単独で当たれるような件ではない。
俺はしきりに振り返るラーニを急かしながら、また大討伐任務が入りそうな予感を覚えていた。
村に戻り、村長に一応テラーナイトを討伐したこと、森のそばには絶対に近づかないように伝えた後、俺たちはエウロンの町に戻った。
受付嬢のマリアネに詳細を伝えると、予想通りギルド長に直接報告する案件となってしまった。
案内されたギルド長の執務室で、俺たち3人はギルド長と対面していた。そばにはマリアネもいて、俺たちと同じく応接セットの椅子に座っている。
「ふぅむ、森の中に城が見えた、か。その時点で撤収したのは判断としては正しいだろうな」
目の前にいるギルド長は、金髪を七・三に分けたエリートサラリーマンみたいな雰囲気の男だった。スーツを着こなしているが、その下の身体はかなり鍛えられていそうだ。雰囲気からいってもと冒険者とかそんな感じなのかもしれない。
「報告は分かった。今回の討伐任務については完遂とした上で報酬を上乗せしよう。その代わり後ほど再度情報を聞くことがあるかもしれないが、しばらくはエウロンで活動する予定かな?」
「そのつもりですが、可能なら近隣のE・Fクラスダンジョンがある町などを回りたいと思っています」
「なかなか熱心なようだな。出る前に行き先をマリアネに伝えておいてくれれば構わん」
「わかりました、そのようにします」
ということで報告はつつがなく終わったが、やはりギルド長もフレイニルを見て少し意味ありげな顔を見せていた。フレイニルが訳ありなのはほぼ確定ということで、俺としてはその時が来てもせいぜい驚かないように心積もりだけはしておこう。
あとはギルド長の言う『何か』がある前にできるだけ強くなっておかないとな。どうせキングの時みたいに『悪運』スキルがなにかしでかすに決まっているし。
「ソウシさま、やはりあの件で今後何か起きるのでしょうか?」
宿の食堂で夕食を取っていると、フレイニルが少し心配そうな顔をして聞いてきた。
「そうだな。トルソンの町にいた時ゴブリンの大討伐任務があったが、それと同じようなことになるかもしれないな」
「じゃあ大討伐任務が出るってこと?」
期待顔のラーニに、俺は「だろうな」と答える。
確かに領内に無断で城ができてたなんて、領主のバリウス子爵としては放っておける話ではない。しかもそれがアンデッドの城となればなおさらだ。
それ以前に誰にも知られず城を作るというのも恐ろしい話ではある。もしかしたらなんらかのファンタジー要素で一夜城が可能なのかもしれない。
「もし任務が出たら、私たちも戦うこともするのですよね?」
「全員Eランクになっているし、当然そうなるだろう」
「ということはさらに強くなっておかないといけませんね」
フレイニルの言葉に、ラーニが耳をピクリとさせる。
「そうね、冒険者になったからには強くならないと。生き残るためにも大切なことだし。ソウシはそのために色々考えてるんでしょ?」
「大したことは考えてないさ。鍛錬してダンジョンに潜ってなるべく多くのスキルを身につける、それだけだ。後は討伐任務をこなして経験は積んでおきたいな」
「それが大切なのよ。あ、でも装備も整えないとね」
「ああそうだな。ラーニの剣はそろそろ替えた方がよかったりするのか?」
「う~ん、どうだろ。もう少し使ってみて物足りなくなってからでいいかな」
「フレイニルは杖は大丈夫だろうが……防具は問題はないか?」
「はい、問題ありません。ただポーションは買い足しておいた方がいいかもしれません」
「確かにそうだ。ラーニは戦闘スタイルからいって怪我は多い方だろ?」
「そうね、どうしても無傷というわけにはいかないわ。パーティを追いだされたのもポーション使い過ぎっていうのもあるのよね」
ラーニが少しシュンとした顔になる。上目づかいで俺を見ているのは、また追い出されるかと心配しているのだろうか。
「なら多めに用意しておくか、今回報酬に色もついたしな。小さな怪我も大事故につながる可能性があるから、俺たちのパーティはそこはケチらないようにしよう」
一応フォローっぽいことを言ってやると、ラーニは安心したように「うん」と言った。
「明日はエウロンの近くのEクラスダンジョンに向かおう。その後は近隣のF・Eクラスを全部回る。と言ってもそんなないけどな」
「スキルは取れるだけ取っておくのに賛成です」
「私も。それだけ戦いやすくなるしね」
ウチのパーティメンバー少女2人はやる気があってありがたい。せいぜい彼女らの盾役ができるように、おじさんとしても頑張らなくてはな。
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