5章 出会いの連鎖 02
その日はフレイニルにスキルを取らせる目的でFクラスダンジョンを踏破した。
ボスは通常のベアウルフで、『聖光』一発でケリがついた。
というか『
フレイニルが新しく身につけたのは『消費軽減』というスキルで、魔法を発動した時の体力の消耗を抑えるものとのことだった。彼女は彼女で順調に魔導師の道を歩んでいるようだ。
翌日、翌々日は俺がすでに踏破している河原のEクラスダンジョンに潜った。
すでにフィッシュマンは敵ではない。ストーントータスは俺の『重爆』スキルを上乗せすると甲羅ごと爆散するようになってしまった。
スライムはフレイニルの魔法のいい訓練相手になってもらった。ボスのラージスライムも『聖光』の狙撃で一発である。
どうも俺たちはEランクのパーティとしては相当に強い気がする。レアスキル持ちだからということだろうか。
フレイニルの新たなスキルは『充填』。精神集中の時間を長く取ることで魔法の威力を上げるスキルだそうだ。もしかしたらパーティの切り札になる能力かもしれない。
その日は二人とも冒険者レベルも上がり、気分よく町に入ってギルドに向かっていた。
「ソウシさま、私かなりお役に立てるようになってきた気がします」
「そうだな。魔法も完全に実戦で活躍できるレベルだし、立ち回りも慣れてきた感じがする。俺も一人でいたときより断然戦いやすくなったよ」
「本当ですか? それならすごく嬉しく思います。もっともっとソウシさまのお役に立てるよう頑張りますね」
杖を胸にあてながらニッコリと笑って俺を見上げる金髪碧眼の美少女。その目には相変わらずちょっと重めの光が宿っている。
そんな感じに話をしながらギルドに入ろうとすると、ふと妙な視線を感じた。
見るとギルドの入り口に一人の少女が立っている。紫がかったロングヘアの、フレイニルよりちょっと上くらいの年齢の少女だ。犬のような耳が付いているので獣人族なのだろう。美少女といっていい顔立ちだが、その気の強そうな目がじっと俺たちに向けられている。
「ソウシさま、あの方が気になるのですか?」
「あ、いや、なんかこっちを見てるなと思ってね」
「何か御用がおありなのでしょうか?」
「さあな。用があれば向こうから声をかけてくるだろう」
おっさんが女の子を連れてれば良くも悪くも興味を持つ者はいるだろうが、それが少女となるとどんな興味を持たれてるのか知りようもない。とりあえず放っておいてカウンターのマリアネのところへ行く。
「お疲れ様ですソウシさん。買取りですね」
「ええ、お願いします」
俺が魔石や素材を出すと、マリアネはそれに目を通してから、フレイニルを見て言った。
「おめでとうございます、フレイニルさんはこれでEランク昇格の条件を満たしました」
「えっ? あっ、ありがとうございます」
いきなりの通告にフレイニルは目を丸くする。
「随分と早くないですか?」
「Fランクでありながら複数のEクラスダンジョン踏破、レアボス討伐、リッチ討伐、十分すぎる実績です。むしろFランクにはしておけません」
俺の質問にマリアネは涼しい顔で答えるが、つまり力のある者は大討伐任務を強制できるようにしたいということだろう。
フレイニルの冒険者カードを更新しつつ、マリアネはさらに一冊の冊子をカウンターまで持ってきた。開いた中身を見るとどうやら討伐任務の台帳のようだった。
「ところでソウシさんにおすすめの討伐任務があります。お聞きになりますか?」
「ああ、この間の話ですね。教えていただけますか」
「はい、こちらの『テラーナイト』の討伐になります」
「テラーナイトというのは確かアンデッドの一種ではありませんでしたか?」
確か中身のない歩く鎧みたいなモンスターのはずだ。
「そうなりますね。ただ基本的に完全な物理属性なので問題ないと思います。北の農村付近を徘徊しているようで、怪我人も出ています」
「数は?」
「依頼では2体となっていますが、現地にて確認してください」
「分かりました。受けようと思うが、フレイニルは何か意見はあるか?」
確認を取ると、フレイニルは首を横に振り「ソウシさまのお考えのままに」と手を胸にあてて答えた。その姿を見てマリアネもさすがに眉をひそめる。変な風に勘違いされなければいいんだが。
「では受諾します。手続きは冒険者カードで?」
「はい、お渡しください」
言われるままに冒険者カードを出そうとすると、後ろから近づいて来る気配があった。
「ねえ、あなたたちもし討伐任務を受けるならわたしをパーティに加えない?」
そう声をかけて来たのは、先ほど入り口で俺たちに視線を送っていた獣人族の少女だった。
その場で答えられるような話でもなかったので討伐依頼については保留をして、一度きちんと話を聞くことにした。声をかけてきた獣人少女・ラーニの案内で、近くの飯屋に入る。
テーブルに3人で座り注文をしたあと、俺はラーニに声をかけた。
「さて、どういういきさつで俺たちに声をかけたのか教えてくれないか?」
「いきさつって言われても……簡単に言えば、前のパーティから外れたところにあなたたちが現れたって感じ? わたしもEランクだし、話を聞いてたらあなたたちもEランクみたいだったから、ちょうどいいかなと思って」
ラーニの言動には気負った所がないので言っていることはその通りなのだろう。しかしこちらとしては知りたい情報が一切入っていない。
「質問が二点ある。一つは前のパーティを外れた理由、もう一つは俺たちのパーティに入っていいと判断した理由だ」
「むぅ、言いづらいことを聞くわね。前のパーティは追い出されたの、私が疫病神だからって」
「疫病神?」
「そ。私がいると、なぜかモンスターがいっぱい出てくるんだって。言いがかりだと思ったけど、実はその前も同じ理由でパーティを追いだされてるのよね」
確かに言いづらいことだが、そのあたりを隠さず話すのは悪くないな。もちろん処世術としてはバクチに近いが。
「それとあなたたちを選んだのは、さっきも言ったようにランクが同じだから。それとおじさんと女の子って組み合わせが変だったから」
「変な組み合わせだとパーティに入りたくなるのか?」
「どういう関係なのかちょっと興味がわいちゃって。あ、おじさんが悪い人じゃないってのは匂いで分かってるから」
「匂いで分かるものなのか?」
「ええ、わたし狼獣人だから鼻は利くの。フレイニルからおじさんの匂いがしないから大丈夫だと思って」
「私からソウシさまの匂いがしないのと、ソウシさまの人間性にどんな関係があるのですか?」
フレイニルが首をかしげて、ラーニと俺を交互に見る。
この狼獣人少女、なんてことを公衆の面前で言うのだろうか。俺は手でこめかみをおさえつつフレイニルに優しく諭した。
「フレイニル、その話は後で分かる時がくるから、それまでは忘れていてくれ」
「はい? 分かりました、ソウシさまがそうおっしゃるなら」
フレイニルが聞き分けのいい娘で助かった。いや、聞き分けがよすぎるのもそれはそれで怖い気もするが。
「なんかそういうところも面白いね。別に強制してるって訳でもなさそうだし。フレイニルにとってこのおじさんはどういう人なの?」
「おじさんではなくソウシさまです。私を助けてくださった方です」
「ふ~ん、そんな関係なのね。まあいいや、それでわたしを入れてくれる? 討伐任務だとわたしの鼻は役に立つと思うわ」
「ラーニが得意なのはモンスターを探すことだけなのか?」
「あ、戦闘スタイルは見てわかるでしょ?」
ラーニは腰に長剣を下げていて、防具は鎧ともいえないプロテクターみたいな防具だけだ。髪色と同じ紫系の服を来ているが、どちらかというと露出は多めだ。スカートが短すぎる気がするが……下に下着以外のなにかをつけているのだと信じよう。
「長剣で戦うというのしか分からないな。スピードで相手を
「それもあるけど、わたしが得意なのは魔法剣なの。だから物理が効きにくいモンスター相手なら強いわ。もちろん普通に戦っても強いけど」
魔法剣、そういうのもあるのか。ゲーム的に考えれば属性を付与した剣で戦うということだろうが、確かにこの先属性攻撃しか効かない敵が出た時などは助かりそうだ。
「ふうむ……」
さてどうするか。『疫病神』というのは気になるが、モンスターが増える程度なら俺の『悪運(仮)』スキルと同じようなものだし、気にしなくていいような気もする。
そもそも俺とパーティを組むという人間自体がレアだからな。戦力アップを考えたら入れるべき人材だろう。フレイニルも女一人だと色々と心細いだろうしな。
それにラーニには獣人らしく尻尾があるのだが、ずっと垂れさがったままなのだ。獣人の尻尾の意味が動物のそれと同じかどうかは分からないが、もし同じなら彼女は言動に反して落ち込んでいるはずだ。そう思うと無下にするのがためらわれるのも事実ではある。
「入れてもいいが、リーダーは俺でいいんだな?」
「それはもちろん」
「ウチのパーティは基本毎日ダンジョンに入るぞ。空き時間はすべて鍛錬だ。それでいいなら入ってくれ」
ラーニはそれを聞いて耳をピクピクさせた。これで退くなら縁がなかったと思ってもらうしかないが……。
「それ本当? 実は今までのパーティは文句ばっかで全然ダンジョン行かなくて、正直うんざりしてたのよね。わたし強くなりたいって思ってるから、むしろ断然入りたくなったわ。というわけでよろしくね!」
ラーニの尻尾が激しく揺れているところを見るとどうやら本気のようだ。
まあなんにせよ、目的を
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