4章 新たな街へ 13
エウロンまでは徒歩2日なので、来たときと同じ村で一泊をするつもりでマネジの町を出た。
日が傾いてそろそろ村が見えるか、というところまで来たとき、フレイニルが急に辺りをキョロキョロと見回し始めた。
「どうした?」
「少しおかしな気配を感じたような気がして……あちらの方です」
フレイニルの指がさす方向に、なにやら黒い霧がぼんやりと立ちこめている場所があるのが見えた。街道からかなり外れた場所だが、平原なので行くのは問題なさそうだ。
「確かに何か妙な雰囲気の場所があるな。見に行ってみるか」
「はい、その方がいい気がします」
フレイニルの言葉にはなにか確信めいたものが感じられる。彼女の勘にひっかかるものがあるのだろう。
近くまで歩いて行くと、朽ちた柵に囲まれた野球場くらいの広さの場所があり、そこには石や木でできた置物……墓標が乱雑に並んでいるのが見えた。
忘れ去られた墓地、という感じの場所である。
しかし墓場でおかしな気配となれば、この世界ではアンデッドモンスターが出るということだろうか。本来ならこのまま立ち去りたいが、冒険者としては無視もできないだろう。
「行ってみるか。モンスターが出るかもしれない。『聖光』を使うつもりでいてくれ」
「はい。アンデッドモンスターかもしれないということですね?」
「違うならいいんだけどな」
ゲーム的にはアンデッドというと面倒なイメージしかない。
ともあれ『気配感知』を使いながらゆっくりと墓地に近づいていく。
墓地の敷地内に入るが、特に動きはない。朽ちた墓標に刻まれた墓碑を見る限り、どうやら昔の戦死者を
「むっ?」
『気配感知』に感、見ると離れたところの地面がボコボコと盛り上がり何かが出てくる。
見る間にボロボロの剣と盾を装備した骸骨……『スケルトン』が3体地上に現れた。
「フレイニル、魔法の用意を」
「はい、ソウシさま」
俺が突っ込んでいってもいいが、昨日の件もありフレイニルと距離を取るのはためらわれた。俺が待ち構えているとスケルトンはカタカタいいながら迫ってくる。
「魔法いけます!」
「やってくれ」
フレイニルが俺の横に来て『聖光』を放つ。横薙ぎにされた光線は、3体のスケルトンをすべて両断し一瞬で蒸発させた。スケルトンの強さは分からないが、確かに『聖光』はアンデッドに強い効果があるようだ。
スケルトン本体は消えたが、魔石と武器などはその場に残った。魔石だけを拾っていると、周囲の地面がまたボコボコと盛り上がる。現れたのは8体のスケルトン。
「囲まれるとまずい。後について来てくれ」
「はい!」
俺は一番近くの2体に向かって突っ込んでいき、メイスで盾ごと叩き潰す。
そのまま包囲の外に抜けると、フレイニルを後ろにかばいつつ振り返る。
残り6体のスケルトンがカタカタと迫ってくるが、叩きつけられるメイスに耐えられるものはいない。
スケルトンの振るう剣先がかすることはあったが、防具と『鋼体』スキルが軽い切り傷以上のダメージを許さなかった。
「これで終わりか……?」
周囲を警戒するが、地面にはそれ以上の変化はないようだった。しかしまだ黒い霧がうっすらと立ちこめている。嫌な感じだ、まだ何か出てくる気がする。
「フレイニル、『聖光』の用意を」
「は、はい!」
俺が指示を出すと同時に、黒い霧が空中の1か所に集まりはじめた。その霧が次第にはっきりとした形をなし始める。
現れたのは黒いフード付きマントを着たスケルトンだ。両手に長い杖を持ち、明らかに魔法を使ってくるモンスターの雰囲気だった。宙に浮いているところからするとかなり高位のアンデッドモンスターなのかもしれない。
フレイニルはまだ精神集中の最中だ。宙に浮いている以上俺の攻撃は届かない。
俺が構えて睨んでいると、そいつは長い杖を天に掲げた。杖の先端の周囲に石の槍が3本生成される。
その3本の槍が順番に射出された。後ろにはフレイニルがいる。避ける選択肢はない。ならばできる対応は一つだけだ。
俺はメイスを振るって石の槍を迎撃する。『動体視力』『反射神経』『瞬発力』そして『冷静』『思考加速』のスキルを総動員して、飛来する槍を叩き落とす。
魔法であっても石の槍という物質になってしまえば、圧倒的な物理力で相殺できるらしい。
「魔法いきます!」
フレイニルが『聖光』を放つ。光線に斜めに斬られた高位スケルトンは、切断こそされなかったものの多少はダメージを受けたのか地上に落下した。
「フレイニル、神属性魔法を!」
「は、はいっ!」
聖属性で不十分なら別の魔法、神属性を使ってみるしかない。
俺は指示を出して、地上に落ちた高位スケルトンの元に走った。攻撃が届くうちに打撃を与えなくてはいけない。
俺がスケルトンを射程にとらえるのと、スケルトンが体勢を立て直すのは同時だった。
俺はメイスを横薙ぎに振り切る。
「くそ、ダメか!」
当たった時の手応えが弱い。どうやらバラバラになることで衝撃を逃がすことができるようだ。それでも当たったところの骨は砕け散ったが……吹き飛んだ骨は離れたところで再びスケルトンの形をとる。
俺はそちらへ再度走る。スケルトンが杖を天に。射出されたのは直径1メートルほどの火球。
さすがに火球をメイスでは相殺できないだろう。避けてもフレイニルには当たらないことを確認し、命中する直前に『翻身』を使ってかわす。
俺の動きを見てスケルトンが少し動揺したような動きを見せた。こいつには知性があるらしい。いや、そうでなくては魔法は使えないか。
「魔法行きます!」
フレイニルが叫ぶ。すると俺とスケルトンの周辺がまばゆい光に包まれた。
神属性魔法『神の後光』。範囲内のモンスターを弱体化させる魔法だ。雰囲気的にアンデッドに特別な効果がありそうだとは思ったが、目の前のスケルトンは確かに全身の力が抜けたように地面に崩れ落ちていた。
「しぃっ!」
俺は気合を入れ直してダッシュ、スケルトンの頭骸骨にメイスを大上段から振り下ろす。
グシャッ! という感触と共に頭骸骨が砕け散り、ついでに背骨その他も粉々になった。弱体化のせいでバラバラになって力を逃がすこともできなかったようだ。
高位スケルトンが粉々になると、周囲の黒い霧がすうっと晴れた。どうやらアンデッドモンスターの出現はこれで終わりのようだ。
地面には砕かれた骨と、いびつな形をした手のひら大の魔石、そして高位スケルトンが使っていた杖が残された。
魔石と杖を回収し、フレイニルの元に向かう。
「フレイニルの魔法がなかったら危なかったな。お手柄だ」
「はぁ、ふぅ……はい、ソウシさまのお役に立てて嬉しく思います」
そう答えるフレイニルは少し肩で息をしていた。『神属性』魔法はかなり体力を消耗するらしいのだが、その分効果は大きいようだ。
「しかし急にアンデッドが現れることがあるんだな。フレイニルはもともとそういうのを感知する力が強いのか?」
「いえ、そういうことはなかったと思いますが……。でも先ほどははっきりと異変を感じました」
「だとすると、フレイニルには特別な感知の力が備わったのかもしれないな」
「そうなのでしょうか? それならいいのですが」
もしかしたらアンデッドを特別に感知しやすい体質とか、そういうのがあるのかもしれない。俺が脳筋一直線になっているように。
「ところでこの杖は結構いい物みたいだが、フレイニルが使ってみるか?」
「ええと、アンデッドが使っていたものを、ですか?」
フレイニルが形のいい眉をひそめる。そりゃそうか、普通は触るのも嫌だよな。
「ああすまん、ただ思いついて言っただけだ。よく考えたらこいつには変な呪いとかかかってるかもしれないな。ギルドに売ってしまったほうがいいな」
「そうですね……。でももし本当にいいものなら使ってみたい気もします」
「そうか。どちらにしろギルドでどういうものか聞いてからにしよう」
「はい」
いきなりアンデッドが出現したことも報告は必要だろう。これが普通に起きることとは思えないしな。
しかしまあ、またこんなレアケースっぽいものに遭遇するとは。どうやら『悪運』スキルの存在はほぼ確定のようだ。
もしこれが非常にレアなスキルなのだとしたら……。俺がこの世界に来たこととなにか関係があるのかもしれない、と考えるのは少し穿ちすぎだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます