4章 新たな街へ  11

 翌朝になり、ちょっと困ったことが発生した。


 今いるマネジの町にはFクラスとEクラスのダンジョンが一つづつあるのだが、当然俺としてはEクラスの方も踏破したい。


 むろんEクラスダンジョンに冒険者歴一週間足らずのフレイニルを連れていくわけにはいかない。いかないのだが……


「そんな……ソウシさま、どうか私を置いていかないでください」


 と、薄幸の美少女感満点のフレイニルが両手を胸の前に組んでお願いしてきたのだ。


「必ず戻ってくるから宿で待っててくれ。さすがにEクラスはフレイニルには危険だ」


「それでも、ソウシさまと離れるのは不安なのです」


 フレイニルの捨てられた子犬みたいな表情を見ていると、どうもこの数日で彼女は俺に依存するようになってしまったのではないかという疑念がよぎる。


 もしそうだとして、正直こういう時の対処法は全く分からない。前世では結局子どもができなかった身の上である。


「……分かった、じゃあ少し一緒に入ってみて様子を見ようか。しかしダメなようならまた考えるぞ」


 結局様子見というもっとも愚かな選択をしてしまったが、まあEクラスダンジョンのザコは正直相手にならないのでそこまで問題にはならないだろう。もしかしたら物理攻撃と相性の悪いモンスターも出てくるかもしれないしな。


「はい! ソウシさまについていきます、どこまでも」


 しかしパアッと嬉しそうな顔になるのはともかく、フレイニルの言葉にちょっと重いものを感じるな。一応冒険者としてやっていけるまでは育てて、後は若者パーティにでも移ってもらおうとか考えていたのだが……大丈夫だろうか?




 マネジのEクラスダンジョンは湖のほとりにあった。


 地面に穴が開いており、湖の下に下りていくような感じで階段状の通路が奥へと続いている。


 他のパーティもちらほらと見かけたが、俺たち二人を見て少し眉をひそめている者もいた。おっさんと少女の二人パーティでEクラスダンジョンに入るというのは、おっさんソロで入る以上に妙に見えるのだろう。


 地下1階で最初に出現したのはフィッシュマン2匹だった。俺が戦えば瞬殺ではあるのだが、フレイニルの魔法を実戦で試す必要もある。


「俺が前衛でおさえるから、フレイニルは魔法を用意してくれ。合図してくれたら俺がモンスターを突き飛ばす。そこを魔法で攻撃、できるな?」


「はい、やります!」


 フレイニルが精神集中を始めるとフィッシュマンが向かってきた。俺はその前に立ちはだかり、突いてきた槍を2本とも掴む。フィッシュマンは慌てて槍を引こうとするが、筋力だけはCランク相当の俺が相手ではビクともしない。


 2対1の綱引きを10秒ほど続けていると、背後から「魔法いけます!」の声。


 俺はフィッシュマンの槍を引っ張り、つんのめったフィッシュマン2匹を突き飛ばす。


 同時に俺の横に来たフレイニルが『一条の聖光』を発動する。手の先から放たれたレーザー光が横に一閃すると、フィッシュマン2匹とも上下に両断されて息絶えた。


「ソウシさま、やりました。魔法でモンスターを倒しました」


「あ、ああ、強力な魔法だな。Eランクモンスターを一撃で倒せるとは大した威力だ」


 モンスターを爆散させている俺が言うのもなんだがなかなかにエグい魔法だ。しかしモンスターを真っ二つにしても平然としているどころかどこか嬉しそうなフレイニルの姿に俺は少し驚いてしまった。


「これでソウシさまについていけますね?」


「そう……だな。大丈夫だろう」


 フレイニルの瞳に言い知れぬ圧力を感じつつ、俺は頷いたのであった。





 1・2階はフィッシュマンだけなので問題なく進んでいった。フレイニルには積極的に魔法を使わせていったので、3階を前にして魔法スキルのレベルが上がったようだ。


「フレイニル、魔法をかなり使ったと思うがまだ使えるか?」


「はい? 問題なく使えますが、なにか気になることがあるのでしょうか?」


 俺が確認したかったのはゲームで言えばマジックポイント的なものが残ってるかどうかということだったのだが、フレイニルは首をかしげて不思議そうな顔をした。


「ああ、そうではなくて、魔法を使うと体力を消耗したりするとかはないか?」


「あ、はい、そういう感覚はあります。でもすぐに回復するから大丈夫です」


「魔法は体力が続けばずっと放てるのか?」


「はい、精神集中に時間を使いますが疲れさえなければ使えます」


 ふむ、どうやらマジックポイントとか魔力とかそういう制限はないらしい。その代わり精神集中が必要ということなのかもしれないな。体力を使うようだから、強力な魔法は体力が切れて連続では使えないということもありそうだ。


「わかった。ただ魔法を使っている時に限界のようなものを感じたら言ってくれ」


「はい、心配してくださってありがとうございます」


「よし、じゃあ3階に行こう」


 3階にはやはりストーントータスが出現した。


 俺が引き付けている間にフレイニルの魔法で首を切断させたが、なるほどこれが本来の倒し方なのだろう。


 試しにフレイニルの魔法を集中的に照射させたら甲羅に穴をあけることはできた。ただそれでは致命傷にはならず、かえってストーントータスが暴れ始めてしまった。


 仕方なく俺が甲羅ごと叩き潰すと、それを見てフレイニルが目を見開いた。


「ソウシさまはすごいお力をお持ちなのですね」


「力だけはCランクくらいはあるそうだ」


「これほどのお力があれば、私の魔法など必要ないのでは……」


 急にまた捨てられた子犬のような目をするフレイニル。


「いや、力だけで倒せないモンスターも必ずでてくるだろう。その時にフレイニルの力が必要なんだ」


「はい! その時にお力になれるよう、頑張って魔法スキルのレベルを上げます!」


 ついフォローをしてしまったが、嬉しそうな顔をするフレイニルを見るとどうも良くない方向に進んでいるような気がしないでもない。しかしこの年頃の娘さんにとって、自分が必要とされているかどうかというのは大切な問題だし仕方ないだろう。


 そんな感じで地下4階まで進んだが、スライムの核を『一条の聖光』で貫くと楽に倒せることが分かり、魔法の有用性を再認識した。


 これならボスのラージスライムも楽勝かもしれないと思いつつ、今日のところは撤収した。

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