4章 新たな街へ  10

 翌日も二人でダンジョンに潜った。


 4階までは昨日と同じようにフレイニルがメイン、俺が補助という形で進んでいく。さすがにモンスターが3体以上同時に出現するとフレイニルにはまださばききれない。そんなときは俺が間引いたり、盾役になって引き付けたりする。生前やっていたゲームのパーティみたいな役割が自然とできてくるのが面白い。


 5階も特に問題はなく、ほどなくボス部屋前の扉までたどりついた。


「ここがダンジョンのボスの部屋……なんですね」


「そうだ。ボアウルフの上位種がボスとして出てくる。戦い方は同じだ。俺が頭をおさえるからフレイニルは横から攻撃、やれるな?」


「はい、いけます」


「よし、いくぞ」


 フレイニルの目に不安の影はみられない。これなら問題ないだろう。


 俺たちがボス部屋に入るといつもの通り黒い霧が発生してボスのベアウルフが現れる。


「これがボス……強そうです」


「そうだな、普通のモンスターよりは強い。だけどまあ俺は素手でも倒せるからな」


「えっ!? 素手でですか!?」


「そうじゃなければフレイニルの補助はできないさ。さ、来るぞ」


 ベアウルフはいつもの通り突進をしてくる。俺は同時に前にダッシュをして、ベアウルフがトップスピードになる前に正面からぶち当たる。


 『筋力』『剛力』『安定』スキルにものをいわせてその頭をガッチリとおさえこむ。ベアウルフが噛みついてくるが、『鋼体』スキルが牙の貫通を許さない。


「やれ、フレイニル!」


「はい!」


 フレイニルが横に回り込み、ベアウルフの脇腹に槍を突き刺す。無論一度では倒せない。


「やっ! はぁっ!」


 叫びながら、長い金髪を振り乱して、フレイニルは何度も槍を打ち込んでいく。ベアウルフが苦悶の声を上げ暴れるが、俺の腕が首から外れることはない。


 十数回は刺しただろうか、最後の一突きがベアウルフの心臓に届いたのだろう。ベアウルフは「ゴフッ!」と声を上げると、その力を失って床に倒れ伏した。


 その死骸が消えていくと、いつもの魔石と肉が後に残される。


「はぁ、はぁ……。やりました……倒しました……」


「ああ、よくやったな。これでフレイニルはきちんとした冒険者だ」


「ありがとうございます。でも、ソウシさまの助けがなかったら倒せませんでした」


「それはそうさ。冒険者は仲間と共に戦うのが普通なんだ。俺がいなければ誰かが代わりをやっていた。フレイニルがパーティの一人として倒したのには変わりない」


「ソウシさま……はい、そう思うようにいたします」


「仲間と戦う」なんてソロでやっていた俺が言うのもどうかとは思ったが、フレイニルは納得してくれたようだ。


 さて問題はどんなスキルを得られるかだが……フレイニルがビクッとしたので、何か身についたのだろう。


「これが特殊スキルを手に入れる感覚なのですね。本当に頭の中に使い方が浮かんできます……これは……『聖属性魔法』……?」


 どうやら俺の勘通り魔法スキルが身についたようだ。『聖属性』というのはガイドには載っていただろうか。戻って調べてみる必要がありそうだな。


「おめでとう、やっぱり魔法スキルが身についたみたいだな」


「はい、ソウシさまのおっしゃる通りでした。どうしてお分かりになったのですか?」


「それは完全に勘だよ。理由は本当にないんだ」


 さすがにキャラ的に魔法系だと思ったからとは言えない。しかし金髪碧眼のはかなげな少女であるフレイニルに『聖属性魔法』というのはあまりにもイメージ通りで笑ってしまいそうになるな。




 ダンジョンを出た後は、いつもの通り町に帰る前に訓練を行った。


 フレイニルが身につけた『聖属性魔法』を試しに使ってもらったのだが、今のところ使えるのは『一条の聖光』という魔法だけらしい。


 その魔法は名前の通り一本の光線が手の先から放たれるというものであった。


 岩に向けて放つと焼けたような感じで少し穴が開いており、はっきり言うと前世のレーザー光線みたいな感じの魔法のようだ。


 ただ『聖属性』というからには、いわゆる『アンデッド系』のモンスターには特別な力を発揮するのかもしれない。


 なんにせよフレイニルが物理攻撃担当にならないでよかった。ただまあ、この先も魔法系スキルを引き続けられるとは限らないのだが……。


 ギルドに戻ってガイドを確認すると『聖属性』というのは少しだけ記述があった。どうやら珍しい属性ではあるようで、長ずれば対アンデッド専門の冒険者として貴重な存在になるらしい。


 宿の食堂で夕飯を食べながらそのことを伝えると、フレイニルは少し複雑そうな顔をした。


「アーシュラム教の教会にいた冒険者さんの中に、アンデッドモンスターを倒すのが得意という方がいらっしゃいました。それと同じということでしょうか?」


「さあ、その辺りは俺にはわからない。ただ、騎士として貴族様に仕える冒険者は見たことがあるから、聖属性魔法を使える冒険者がアンデッド対策の専門家として教会に所属するということはあるかもしれないな」


「そんなことが……」


「冒険者として根無し草でいるよりも、教会のような組織に所属するというのも生き方としてはいいんじゃないか。ゆくゆくはそういったことも考えないとな」


「そうだとしても、私は教会には所属はしたくありません。貴族様に仕えるのも……。ソウシさまはどうお考えなのですか?」


「まだEランクでしかないし、まだ考える事でもないとは思うが、今のところはどこに属する気もないな」


 組織に属するメリットもデメリットもある程度は知っているし、メリットが勝るなら属するのもいい。ただ前世がサラリーマンだった身としては、フリーランスで生きられるならそれはそれで魅力的ではある。


「そうなのですね。私もそれにならおうと思います」


「今は冒険者として能力を上げるのが先だからな。難しいことは後で考えよう」


「はい、そうします」


 フレイニルは少し安心したような表情になって、再び食事を始めた。


 教会にも貴族にもつくことを拒絶するところからして、どうも彼女にも色々事情がありそうだ。ま、その内彼女の口から話されることもあるだろう。それまで彼女が俺のようなおじさんとパーティを組むのを嫌がらなければの話だが。

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