4章 新たな街へ  01

-----------------------

 冒険者レベル8


 武器系

  メイス Lv.12  長剣 Lv.5(new)

  短剣 Lv.4  格闘 Lv.6


 防具系

  バックラー Lv.9


 身体能力系

  体力 Lv.11  筋力 Lv.13

  走力 Lv.11  瞬発力 Lv.12

  反射神経 Lv.10


 感覚系

  視覚 Lv.7  聴覚 Lv.5

  嗅覚 Lv.4  触覚 Lv.5  

  動体視力 Lv.9  気配感知 Lv.7


 精神系

  冷静 Lv.6  思考加速 Lv.5

  興奮 Lv.2


 特殊

  再生 Lv.1  安定 Lv.2

  鋼体 Lv.2

-----------------------

 

 翌朝まだ暗いうちに、俺はトルソンの町を出た。


 それなりに仲良くなった奴はいたが、さすがに見送りはいない。というか万一見送りとかされても恥ずかしいから早く出たというのもある。


 さて、次に向かうエウロンの町はトルソンの町から徒歩で3日のところにあるらしい。


 もっともそれは普通の人間の話で、体力も脚力も人間の比ではない冒険者なら早ければ1日で着くようだ。


 自分としては急ぎたい気持ちもあるが、初めての長距離移動なので2日を見込んでいる。


 なにしろモンスターや野盗も出る世界なのだ。この世界に来てからの自分の運の悪さ(良さ?)を考えると、絶対になにか厄介事イベントがあると思われた。


 歩いているのは街道だ。土の道だが、馬車などでそれなりに踏み固められているので歩きづらくはない。


 うっすらと夜が明ける時間帯なので他に人はいない。トルソンの町自体が田舎なのでもともとそこまでの交通量はないようだ。


 ちなみに今俺は武器や防具を身につけ、食料や水ダークメタル棒などを運んでいる身である。


 その総重量は400キロに近いはずで、もちろん靴を保護するために裸足で歩いている。人に見られたらかなり恥ずかしい気もするが、こればかりは仕方ない。


 もちろんこの荷物をもって早足で歩くだけで相当な鍛錬になるのは間違いない。


 日が昇り、中天にさしかかるころに一端休憩をした。ここまで見た景色としては、時々畑や農村が見えるほかは、林や草原や山や小川があるだけだ。


 非常にのどかで、前世日本の都市部の灰色さを思うと心が洗われるような気がするほどである。


 昼飯として買っておいた肉串をすべて食いつくすと、俺は再び歩き始めた。


 しばらく行くと、街道の脇で止まっている荷車と、そのそばに立つ2人の人間が見えた。


 荷車にはロバのような動物がつながれているので馬車ということなのだろうが、その荷台が大きく傾いている。


 近づいて見ると、荷車の片側の車輪が半分ほど砕けて地面に転がっているのが見えた。


 どうやら荷車が破損して途方に暮れているところのようだ。


 困った顔で思案している二人の人間の頭には犬みたいな耳が突き出ている。獣人族といわれる種族だが、身体能力が多少すぐれているほかは基本普通の人間である。


 若い男女であるところを見ると夫婦なのかもしれない。


「どうされましたか?」


 さすがに素通りできずに聞くと、男性の方が俺を見て首をすくめた。


「御覧の通りでさ。荷車の車輪が壊れちまって立往生してるところです。エウロンまでまだ距離があるんですがねえ」


 荷車には荷物が満載である。恐らく行商人か何かなんだろう。それとも引っ越しだろうか。


「ああ、これはひどいですね。何か助けられることはありますか?」


 と言うと、男性はちょっと驚いたような顔をしたが、俺の格好を見て何かピンと来たようだ。


「もしかしてお兄さんは冒険者かい?」


「ええそうです」


「だったら済まねえが雇われてはくれねえか。エウロンの町まで行って商人ギルドに俺っちの事情を話して欲しいんだ。そうすりゃ迎えの馬車をよこしてくれるからよ」


 彼は今「雇われる」と言ったが、確かに冒険者が依頼を受けたり雇われたりするという習慣はあるらしい。


「なるほど。しかしそれだと迎えが来るまでかなり時間がかかりませんか?」


「そりゃ仕方ねえ。荷物から離れるわけにもいかねえしな」


「ああ、まあそうですよね」


 俺は納得しつつも、荷台を眺めていて、別の解決手段を考えついた。


「雇われるのは構いませんが、私がこの荷台の片側を持ち上げて進んでいくというのはどうでしょう?」


「へっ? いやアンタ、さすがに冒険者でも無理だろうよ。かなり重いぞ?」


「ちょっと試してみますね」


 俺は荷台の破損した車輪の軸受けあたりに手をかけ持ち上げてみた。


 確かに重いが、片側を持ち上げるだけなら片手でもいけそうだ。俺が車輪の代わりになることは問題なくできるだろう。


「大丈夫だと思います。ちょっと進んでみませんか?」


「あ、ああ、分かった。冒険者ってのはやっぱすげえな」


 男性は目を丸くしながらロバを引いて歩き出した。女性は俺の反対側で荷物の様子を見ている。


 どうやら俺が同じスピードで歩けば何の問題もなさそうだ。到着が多少遅れてしまうが、まあ仕方ないだろう。


 俺たちはそのまま、日が暮れるまで街道を進んでいった。




「いや助かる。しかしソウシさん力強すぎだな。トルソンの町の冒険者ならDランクかい?」


 獣人族の男性(ガシという名らしい)がそう言って、携帯していた水筒からちょっとばかりの酒を俺のコップに注いでくれる。


 今俺たちがいるのは、とある農村の空き小屋の中である。


 街道沿いの農村は旅人の中継地点に使われることがあるため、多くの村には小屋のようなものが用意されているらしい。


 雰囲気としては日本の山にあった登山小屋みたいな感じで、野宿するよりは数千倍マシなのでありがたい。


「いえ実はまだEランクでして。ただ腕力だけは多少ありますので、あれくらいの重さなら問題ありません」


「いやいや、あんなダークメタルの棒を3本も運びながらってのは聞いた事ねえよ。それに俺っちの荷物も軽くねえからな。すげえ力だって」


 としきりに感心するガシ。その隣では女性の獣人族(ナリという名前とか)が「ほんとにねえ」と頷いている。ちなみに二人はやはり夫婦で商人、というか商人ギルドの下請けの運び人らしい。


「そういえばガシさんたちはこの仕事はどのくらいやってらっしゃるんですか?」


「あ~、10年以上かな。俺はガキの頃からやってるからな」


「もうベテランですね。仕事はエウロンを中心に?」


「そうだなあ、子爵様の領地じゃエウロンが一番デカい町だからな。そこを中心にトルソンみたいなダンジョン町を回ってる感じだな」


 実はこれから向かうエウロンは、このあたり一帯を治めるバリウス子爵領一番の都、つまり領都であるらしい。


 実はトルソンはそこそこ中央に近い町だったということになる。その割には人が少なかった気がするが。


「そのダンジョン町っていうのは何なんですか?」


「あれ、知らねえのかい? ダンジョンの側に作られた町をそう呼ぶんさ。俺たちはそこで取れた素材を主に運ぶのが仕事だわな」


「素材? 魔石とかですか?」


「いんや、魔石は冒険者ギルドしか扱えねえんだ。俺たちはそれ以外のものを扱ってる」


「ああ、なるほど」


 ダンジョン産の素材の扱いは気にも留めていなかったが、なるほどそうやって扱う先がわかれているのか。勉強になるな。


 俺がコップの酒を飲み干していると、不意に小屋の扉がノックされた。


 誰かが近づいてきているのは『気配感知』で分かっていたが、特に変な動きもなかったので村人だろう。


「どうぞ」


 というと扉が開いて中年の男性が顔を出した。確か村長だったはずだ。


「ああ、すまんね。アンタら、今夜は外に出ない方がいいかんな。さっき吠え声が聞こえたでな」


「吠え声?」


 俺が聞き返すと、村長は頷いて言った。


「モンスターの吠え声さ。最近近くに一匹住みついちまってな。ナイトウルフって奴さ」


「それは……討伐依頼は出したんでしょうか?」


「ああ、出しに行くことは決まってんだが、今ちょっと畑の方が忙しくてなあ」


いやいやそれは優先順位が違うんじゃ……と思ったが、そこに住んでいる人間にしか分からないこともあるか。


 しかし『ナイトウルフ』か。確かEランクのモンスターのはずだ。夜行性なので夜出歩かなければ比較的安全と言われているが、このあたりの木造の家だと結構危険な気がするな。


「数は1匹ですか?」


「そうさね。足跡だと1匹みてえだ」


「……分かりました、それなら私が討伐しましょう。一応Eランクの冒険者なので」


 メイスを持ち上げて言うと、村長は少しだけ目を見開いた。


「アンタやっぱり冒険者だったんか。それなら助かる。報酬は依頼と同額出すからやってくれんか?」


うけたまわりました。お任せください」


 さて、やっぱりイベントが起きたか。問題は本当にナイトウルフ一匹で済むかというところだが……まあ覚悟はしておこう。




 外はすっかり夜のとばりが下りていた。とはいえ月の明かりが照らす周囲の様子は、『視力』スキルが高まった俺には行動に問題ないレベルで視認できる。


「すまねえが頼んだぞ」と言って村長が去ると、辺りは静寂に包まれた。日本ではなかなか体験できない静けさだ。


 村の中を足跡が見つかったという方向に向かって歩いていく。村といっても家が5~6軒あるだけだ。すぐに村の外に出てしまう。


 しばらく歩いていると、それほど遠くないところから「ウオォン」という唸り声が聞こえた。


 『気配感知』に反応、急速にモンスターが近づいてくる。数は一体、だ。


 ガサガサを草をかき分けて大きなものが走ってくる音がする。


 そちらに目を向けると、四足歩行のモンスターが疾風のように走ってくるのが見えた。白い毛皮の大型犬のようなモンスター。


 白……? ナイトウルフは暗灰色のはずだが。


 間合に入った瞬間にカウンターでメイスを横薙ぎする。しかしそいつは物理法則を無視したように方向転換すると、その一撃をするりとかわして後ずさった。


 そのナイトウルフ(?)と、月の光の下で対峙する。


 よく見れば確かに狼のような見た目のモンスターだった。その瞳は赤く光り、狂気のようなものをはらんでいる。


「まさかまたレアモンスターか?」


 アルビノという可能性もあるが……まあ油断せずに戦うしかないだろう。


 ナイトウルフは体勢を低くして攻撃の隙をうかがっている。


 俺はバックラーを前に構え、メイスを体側にひきつけて構える。スピードは向こうの方が上だ。狙うならカウンターしかない。


 ナイトウルフが動いた。高速で蛇行しながら俺に迫ってくる。やはり物理法則を無視しているような動きだ。スキル持ちなのだろうか。


 ナイトウルフは俺の正面左側、バックラーの影に隠れるようにして飛び掛かるような動きを見せた。


 俺がそちらにメイスを振ろうとしたとき、ナイトウルフは反対側……俺の右へと跳んだ。まさかフェイントか!


 俺の身体が一瞬だけ流れる。ナイトウルフはその隙を逃さず、口を開けて俺の首を狙う。

 

 さすがに頸動脈への攻撃は避けたが、右肩をガブリとやられた。『鋼体』のおかげで肉を食いちぎられるまではいかなかったが、牙は皮膚を貫通して結構なダメージを食らってしまう。


 俺がメイスを振ろうとすると、ナイトウルフは飛びずさって距離を取った。なるほど徐々に追い詰めて獲物を狩ろうということか。


 俺は再びバックラーを前に構える。右肩の痛みは徐々に引いていく。『再生』スキルのおかげだが……そうか、ナイトウルフも俺が『再生』持ちだとは思ってないだろう。


 俺は右腕をだらりと下げて、徐々に下がる動きをする。フェイントにはフェイクでお返しをしてやろう。


 ここぞとばかりにナイトウルフが突っ込んでくる。今度は一直線だ。


 俺はバックラーを低く構えて待つ。ナイトウルフが直前で爆発的に加速した。奥の手をまだ隠していたか。


 鋭い牙をバックラーで受ける。信じられないことにナイトウルフの牙はバックラーの上半分を一瞬で噛み砕いた。かさにかかって俺の首を狙おうとするナイトウルフ。


 その腹を、俺のメイスが下から突き上げる。『ギャブッ!』と呻いて、ナイトウルフは口から血を吐き出して斜め上に吹き飛んだ。


 着地するもすでに足が動かないナイトウルフ。俺はすかさず近寄ってその頭をメイスで叩き潰した。


「ふう、接近戦ならやっぱり筋力がものをいうな」


 俺は首が吹き飛んだナイトウルフの死骸を担いで、村の方へ歩いていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る