2章 新人冒険者として 06
翌日も大木ダンジョンに潜った。
4階まで上ると、昨日はお目にかからなかったザコモンスター『キラーワーム』に遭遇した。
全長3メートル、太さが30センチほどのミミズ型モンスターである。その先端には歯が円周に並んだ口が開いていて、人によっては見た目だけで卒倒するようなグロさである。
そいつはゆっくりにじり寄ってきたかと思うと、一瞬身を半分くらいまで縮め、そして一気に伸ばす形で飛び掛かってきた。
もちろんその程度の動きは俺の『動体視力』『反射神経』で余裕で対応できる。
ギュウゥッ!
キラーワームが鳴き声を上げる。その頭部が俺の方を向き直る前に口ごとメイスで叩き潰すと、キラーワームは力を失いダンジョンの床に吸い込まれていった。
俺は残った魔石と拳大の金属の塊を回収した。なぜミミズから金属がドロップするのだろうか? などと考えたら負けなんだろうなきっと。
5階に上るとキラーワームが2匹同時に出るようになったが、上手く立ち回って1対1になるようにすれば問題はない。死角に回り込んで胴体を潰せば露骨に弱体化するのでパーティなら楽勝なモンスターだろう。
さて、そんなこんなで木製の大きな扉の前までやってきた。言うまでもなくその先はボス部屋である。
「まさかまたレアボスとか……」
「ないよな」と言いかけて、妙なフラグが立ちそうなのでやめた。さすがにそこまでの運の良さ(悪さ)はないだろうと思うが、戦いにゲン担ぎは大切である。
装備を確認し、扉を開く。大岩ダンジョンのそれと同じで、バスケットコートほどの広さのボス部屋だ。
背後で扉が締まり、奥で黒い
前回の倍はある靄の中から現れたのは、胴体だけで中型犬ほどの大きさがあるキラービー、通称『キラービーソルジャー』だ。もちろんレアボスではなく通常のボスなのだが……
「なんで2匹いるんだよ」
そう、現れたのは2匹のキラービーソルジャーだった。
そんな話は聞いてないんだが……ということは、もしかしたらこれも初の話だったりするのか?
「とにかくやるしかないか」
俺は背負い袋を下ろし、メイスとバックラーを構えた。
数は倍になったが、ボス自体はノーマルだ。攻撃方法は情報の通りだろう。
俺がじりじりと距離を詰めると、2匹のビーソルジャーは左右に別れ、それぞれが俺から距離を取った。
そして両方ともに尻を大きく上に反らすと、勢いよく振り下ろす。
ヒュンッ!
風切り音とともに尻についていた毒針が俺の方に飛んでくる。初見殺しの飛び道具である。
俺は横っ飛びにかわし、すぐに1匹のビーソルジャーに肉薄する。連射ができないというのは分かっている。
しかし回避に専念するビーソルジャーを捕えるのは難しい。メイスが何度も空を切り、その間にビーソルジャーの尻に毒針が再装填される。
二発目の毒針攻撃。これも難なくかわす。発射の動作が大きいので正直そんなに問題はない。ただこちらの攻撃も当たらない。
毒針をかわす。メイスが空をきる。毒針をかわす。メイスが空を切る。
7~8回繰り返しただろうか。ダメだこれは、無限ループになってしまう。
「クソ、普通のキラービーのように直接攻撃しにくればカウンターを取れるんだがな」
そう愚痴った時閃いた。向こうが来ないなら、こちらから無理矢理カウンターを取りに行けばいい。
見るとちょうど毒針の再装填を完了したところだった。距離を取ってまた撃ってくるはずだ。
俺は1匹に狙いを定めゆっくりと距離を詰めた。
ビーソルジャーが尻を上げる。ここだ。
俺は猛然とダッシュした。針を撃ちだす瞬間無防備になる。そこを狙いにいったのだ。
ビーソルジャーが尻を振る。針が飛ぶ。俺のバックラーがそれを弾く。そして俺のメイスが……空を切った。
「うぐっ!」
俺のふとももに針が刺さっていた。そのせいで一瞬踏み込みが鈍ったのだ。
もう一匹のビーソルジャーが俺の動きを読んだというのか。そうじゃなければ当たるはずがない。
俺は鉛筆ほどの太さの針を無理矢理引き抜いた。ふとももから痛みがせりあがってくる。これが毒か。
俺は腰にさげたポーチをまさぐった。むろん解毒ポーションは用意してある。
しかしその時2匹のビーソルジャーが急接近してきた。カチカチという耳障りな音は、巨大な顎から発せられている。
――勝機と見て噛みつきにきやがったか。ムカつく奴らだ。
目の前が赤くなる。血か? いや違う。これは……『興奮』スキル?
「おおおッ!」
俺は叫びながら、一匹のビーソルジャーにメイスを振り下ろした。
そいつの頭が爆発したように四散する。
その隙にもう一匹が俺の右腕に噛みついた。凄まじい
「潰れろ虫がッ!」
俺はその腕を引き抜こうとせず、逆に無理矢理押し付けた。そのままビーソルジャーを床に叩きつける。何度も何度も、そいつの頭がひしゃげて潰れるまで。
気が付くと2匹のビーソルジャーはダンジョンの床に消え、それぞれ魔石と高級ハチミツ入りの袋だけが残されていた。
「はぁ、ふうぅ……すごいな『興奮』スキル」
普段の俺なら絶対言わないような言葉を口走っていたようだが……興奮しているならしょうがない。
俺は全身にけだるさと悪寒を感じ、慌てて解毒ポーションをあおった。腕とふとももの傷はすでに『再生』を始めている。
「さて、イレギュラーだったんだからいいスキルが来るんだろうな」
しばらく立ったままでいると、脳内に知識が入り込んでくる感覚。
「ええと……これは『安定』スキル、か」
レア度はそこまで高くないがちょっと気になってたスキルだ。物理法則を無視して足場を安定させるスキルらしい。
しかし苦労した割には普通の感じなのか……と思っていたら、再度脳内に知識が滑り込んでくる。
「『鋼体』スキル……まさか一気に2つ特殊スキルが手に入るとは、これはラッキーだな」
『鋼体』は言葉の通り身体が鋼のように強靭になるスキルだ。防御力アップと言えば分かりやすいだろう。こちらもレア度はそこそこだが、『再生』とともに生存性を高めてくれるのはありがたい。
俺は素材を回収すると、意気揚々と大木ダンジョンを後にした。
もちろん残った時間で気分よくトレーニングをしたのは言うまでもない。
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