2章 新人冒険者として  05

「え!? は!? オクノさん一人でボス倒したんですか!?」


 素材の買取を頼むと受付嬢のキサラが素っ頓狂な声を上げたので、俺はついビクッとなってしまった。


「そうですが、何かマズかったでしょうか?」


「あっ、すみません。マズいというわけではないのですが、一人でボスに挑む人はほとんどいないので」


「そうなんですか?」


「ええまあ、Fランクでやる人はほとんどいませんね。いても帰って来ないですし……」


「ああ……」


 「でもそういうことならおめでとうございます。これでEランクにぐっと近づきましたね」


「確かボスの討伐がEランク昇格の条件の一つでしたね。やはり一番の壁なんでしょうか?」


「そうですね。といってもFクラスダンジョンのボスはパーティを組んでいればそこまでではありませんけど、高クラスダンジョンだとやはり大変みたいです」


「この町にはDクラスダンジョンもありますけど、やっぱり難しいんですね」


「そうですね。最近はそうでもありませんが、昔はパーティで挑んで一人も帰ってこないということがあったそうですから」


「怖いですね」


 このギルドにあるガイドは結構内容が充実していてボスの情報もそこそこ載っているのだが、このガイド自体最近作ったものらしい。ギルドの上の方に有能な人がいて、その人の号令一下作ることが決まったとか。俺みたいな新人にとってはありがたい話である。


「あれ? オクノさん、この素材はボスのものですか?」


 キサラが手にしているのは立派な2本のツノである。


「ええ。ツノが生えたボスでしたね。ガイドには載ってなくて驚きました」


「えっ? それってもしかしてレアボスじゃありませんか?」


「いや分かりませんが……。レアボスっていうのはごく稀に出現するボスとかそんな感じですか?」


「そうです。あのダンジョンでレアボスが出たのは初めてですよ。だとすると詳しい話を聞かせていただかないとなりません。お願いできますか?」


 なんと、やはりあのボスはレアものだったのか。しかも初めてって……そんなクジ運良かったか俺。いや、むしろ難易度が上がったとするならば運が悪いのかもしれないな。そっちなら納得できる。


「分かりました。もちろんお話しますよ、ガイドには助けられていますしね」


 ということで、俺は再び奥の部屋に案内された。ちなみにツノは本部に照会するとかで、買取はしばらく待つことになってしまった。


 なお俺が得た『再生』という特殊スキルは結構なレアスキルらしい。レアボスからレアスキルが得られるというのは分かりやすい話ではある。


 う~ん、そうするとやはりラッキーだったのか。幸先がいいという話ならいいんだが。







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 冒険者レベル6


 武器系

  メイス Lv.8  短剣 Lv.4

  格闘 Lv.4


 防具系

  バックラー Lv.7


 身体能力系

  体力 Lv.8  筋力 Lv.9

  走力 Lv.8  瞬発力 Lv.9 反射神経 Lv.7


 感覚系

  視覚 Lv.6  聴覚 Lv.5

  嗅覚 Lv.3  触覚 Lv.3  

  動体視力 Lv.7  気配感知 Lv.6


 精神系

  冷静 Lv.5  思考加速 Lv.4

  興奮 Lv.1(new)


 特殊

  再生 Lv.1(new)

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 宿のベッドの上で情報の整理をする。


 ステータスについてだが、『興奮』はボス戦の時の感じから推定したスキルだ。興奮状態になって攻撃力が上昇する、みたいなものを想定している。


 『再生』はそのままだ。考えたらこのスキルがあるとポーションの使用量が減るので、お財布にも優しい優秀なスキルである。


 さて問題は今後の予定だ。大岩ダンジョンのボスも倒したし次はもう一つのFクラスダンジョンに向かうのが定石だろう。


 特殊スキルは1ダンジョンにつき1つしか取得できない。強くなりたいならなるべく多くのダンジョンを回る必要がある。


 ちなみに当たり前の話だが、低いクラスのダンジョンで得られるのはレア度の低いスキルになる。俺が運よく得られた『再生』は普通ならDクラス以上のダンジョンでないと出ないもので、しかも取得率も低いらしい。


 ともかくも、もう一つのFクラスダンジョンの情報はガイドで取得済みだ。カイムにも話を聞く予定だが、今日は飯の時間が合わなかった。


 まあ明日行ったとして、いきなりボス部屋に行くつもりはない。


 そうそう、今回のボス戦で服がボロボロになってしまった。前世からの持ち越しのシャツもついに手離すときが来たようだ。そうなると完全に俺はこの世界の住人になってしまう気がするな。それはそれでいいことかもしれない。


 そんなことを考えていると、意識はいつのまにか遠のいていた。


 


 もう一つのFクラスダンジョンは、町からちょっと離れた森の中にあった。


 木にきざまれた目印にそって進むと、複数の樹木がより合わさったような巨木があり、その幹に大きな洞【うろ】が開いている。


 不思議な光景だが、ダンジョンの入口とはどこもそういうものであるらしい。


 こちらにもいくつかのパーティが来ているはずだが、すでに先行組の姿はない。俺は装備の確認を再度してそのままダンジョンに入った。


 ダンジョンの壁は、大岩ダンジョンのそれとちがって樹皮のような質感だ。場所によってテクスチャが変わるのは面白い。


 地図にそって順路を進むと、『気配感知』に反応。ブーンというデカい羽音がするのでこのダンジョンのザコモンスターの一つ『キラービー』だろう。


 現れたのはカラスくらいの大きさの大きな蜂だ。尻の先には「返し」のついた見るからに刺されたら痛そうな針が光っている。


 そいつは俺を確認すると少しだけ左右に揺れた後、一直線にこちらに向かってきた。もちろんその針で獲物を刺そうというのだろう。


 グシャ


 しかし俺の『動体視力』『反射神経』『瞬発力』スキルは余裕でその動きに対応する。カウンター気味にメイスを叩きこまれ、キラービーはバラバラになって吹き飛んだ。


「動きは速いが所詮Fクラスか」


 落ちたのは魔石と、膨らんだ水風船みたいな物体だ。持ち上げると中に液体が入っている。なんとそれはハチミツなんだそうだ。この世界、実は甘味は結構発達しているらしい。


 そのハチミツ入り水風船を専用の袋に入れ、俺はダンジョンの奥へと歩を進めた。





 結局今日は地上4階まで進んで引き返した(大木ダンジョンは上るタイプだった)。


 ザコモンスターは、『キラービー』以外に『キラーシザース』というデカいカマキリが出現した。


 こちらはそこそこ強敵で多少手こずったが、攻撃してくる時に鎌をカウンターで折ってしまえば楽勝だと気付くとやはりザコと化した。


 なんにせよ同じFクラスでも大木ダンジョンは大岩ダンジョンよりは多少難度が高いようだ。『反射神経』などのスキルが育っていないと苦戦はするだろう。


「オクノさん、今日から森のダンジョンなんですね」


 町に戻ってギルドで買取を頼むと、テーブルに並べたハチミツ袋を見てキサラが確認をしてきた。


「ええ、早めに多くの特殊スキルを得ておきたいですからね」


「それは分かりますけど、次に行くのが早すぎですよ。それにずっと休んでないんじゃありませんか?」


「ああ、それは確かにそうなんですけど……」


 カイムたちの様子を見ていると1日ダンジョンに入って2日休み、みたいな感じで活動しているようだ。


 命がけの肉体労働なのでそれが当たり前なのだろうが、俺としては正直他にやることもないし、強くなるのが加齢対策なこともあってついダンジョンに行ってしまう。


 それでもなぜ自分に命がけの戦いに対する忌避感がないのかよく分からないが……。


「でもそれだけ力を求めているなら、森のダンジョンを攻略したら別の街に行っちゃうんですね。少し残念です」


「ありがとうございます。まあまだ先の話ですけどね。それにDランクになったらまた戻ってくるでしょうし」


「あっ、そうですね。でもそのためにもまずEランクに上がらないといけませんね。実はもう少しで上がりますから頑張ってください」


 む、そう言われると明日にでもボス退治に行きたくなるな。まさかキサラも励ましが煽る結果になるとは思わないだろうな。

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