2章 新人冒険者として 02
翌朝、日が昇ると同時に、俺とカイムたちのパーティは町の門前に集合した。
「おっさん……ええと、ソウシのおっさんだったか、一応こっちのメンバーを紹介しとくわ」
長剣を腰に下げ、盾を持ったカイムがそう言うと、隣の杖を持ったおさげの少女が口を開いた。
「メリベです。Eランクです。一応魔法使いをやってます。いつもカイムがすみません」
次は20歳くらいのショートカットの女性だ。槍を持っている。
「ラナンだ。同じくEランク。攻撃専門だな。よろしく」
最後は小柄な少年だ。俺と同じくバックラーとメイスを持っている。
「ラベルトっす。Eランクす。回復魔法を使えるんすけど、どっちかというと殴る方が好きっすね」
タンクにアタッカーにマジシャンにヒーラー、絵に描いたようなバランスのいいパーティだな。ちなみに全員結構美形だ。美形多いなこの世界。
「ソウシ・オクノです。Fランクです。今のところ殴ることしかできません。今日から少しの間お世話になります。カイムさんには大変お世話になってます」
とお辞儀をすると、「おっさん気持ち悪いからいつものしゃべりにしてくれよ」と言われてしまう。彼なりに気を遣っているのかもしれないな。
「ソウシさんは姓を持っているんですね」
とおさげ少女のメリベが聞いてくる。実はこの国では姓持ちは珍しいらしい。貴族階級の特権に近く、平民で姓持ちは基本他国出身ということになるようだ。
「ああ、自分の故郷だとそれが普通だったんだよ。呼ぶときは今みたいにソウシで頼む」
「装備が同じだと話が合いそうっす。なんでメイスを選んだんすか?」
「う~ん、使いやすそうだからかな。槍も考えてるんだけど高くてね」
「槍はいい。モンスターの顔を近くで見なくて済む」
「は? メイスで殴る感触がいいんすよ」
長身美人のラナンと下っ端風少年ラベルトが睨み合う。仲がよさそうなパーティだな。
「おら、そのへんにしとけ。じゃあ出発するぞ。まずは村までだ」
カイムが仕切って、ゴブリン集落討伐隊の出発となった。
トルソンの町を出て道沿いに進む。もちろん歩きである。
もちろんこの世界には馬車やモンスター車(!?)もあるのだが、基本行商人か貴族様しか使わないらしい。
都市部に近づくと乗合馬車なるものもあるそうで、この世界は意外と人の行き来が多いようだ。
しばらく歩くと道から離れたところに畑が見えてくるようになる。日が中天を過ぎたころ、10軒ほどの家が集まった集落にたどりついた。最初の目的地の農村である。
俺たちはその農村に入って行き村長の家らしきところに直行する。どうやらカイムたちはこの村には何度か来ているようだ。
出てきた村長は50歳くらいの男性だった。
「おお、『銀輪』さんか。ゴブリン退治に来てくれたのか?」
「おうよ。また井戸を使わせてもらいてえ。それとゴブリンを見た奴の話を聞かせてくれると助かるんだが」
カイムが対応するが、なるほどきちんと情報収集をするんだな。
「分かった。こっちだ」
村長に案内されたのは畑で、そこで作業をしていた中年のご婦人に話を聞くことになった。
と言っても、そこまで有用な情報があったとは思えない。
・畑の一部に被害があった。
・ここから3カダ(約3キロ)離れた森で、10匹くらいのゴブリンを見た。
・畑に残された足跡からすると、やはり10匹くらいで行動していると思われる。
・今のところ人的被害はない。
基本的にギルドで聞かされた情報そのままだ。
「ゴブリンがどんな得物を持っていたかは分かるか?」
カイムが追加でそう質問する。
ご婦人は「たぶん木の棒を持っていただけだと思うけど……」と答えただけだった。人間注意して見ることをしなければ、モンスターが何を持っていたかなんて記憶には残っていないだろう。
俺たちはその場を後にして、井戸で水を補給した後、ゴブリンがいたという森の方に向かった。
30分ほど歩くと、ご婦人の話の通り、畑が荒らされている跡を見つけることができた。
足跡については素人の俺にはよく分からないが、カイムやラナンの前衛組が言うには確かにゴブリンの足跡らしい。
「さっきゴブリンの武器について聞いていたのは何か意味があるのか?」
俺が聞くと、カイムが頭をかきながら答えた。
「ああ、ゴブリンってのは集団の大きさによって使う武器が変わるんだ。すくなければダンジョンと同じで木の棒とせいぜい石を投げてくるくらいだが、多くなってくると刃物とか弓矢まで使いだす。ヤバくなると魔法も使うらしいが、さすがにそれは見たことがねえな」
「なるほど、使う武器は確かに重要な情報だな」
「だろ。まあ今回は足跡の数からいってもそんなデカい集団じゃないな。多くてせいぜい100匹くらいか。それより増えると村を襲いだすからな」
100匹って、それは結構な数じゃないだろうか。だが考えてみると俺ですら20匹くらいなら何とかできそうだ。Eランクの彼らなら問題ないのだろう。
「じゃあ今日はここで一泊だ。火をおこして飯食おうぜ」
カイムの指示で野営の準備が始まる。キャンプの知識が多少は役に立つと思ったが、現代日本のキャンプは道具に恵まれてることがよく分かっただけだった。
一応交代で見張りを立てつつ一泊して、翌朝日が昇ると同時に俺たちは森に入っていった。
先頭からリーダーのカイム、槍使いラナン、魔法使いメリベ、回復役ラベルト、そしてゲストの俺の並びだ。しんがりは結構危険な場所だが、『気配感知』スキルがあるので背後からの奇襲される可能性は低いだろう。
しかし100匹ほどの集団とはいえ、広い森の中でそれを見つけるのは容易ではないはずだ。
と思ったのだが、ゴブリンは順路に印をつける習性があって、それを
ただその印とやらは木の幹に打撃痕がついているというもので、正直知らないと見分けはつかない。このあたりはやはり経験がものをいうということなんだろう。
30分ほど進んだとき、『気配感知』にゴブリンの気配が引っかかった。数は8だ。
しかしどうもカイムは気付いてないらしい。どういうことだろうか?
「前にゴブリンがいるぞ」
と小声でしらせると、カイムが振り返る。
「あ、マジか? おっさん分かんのか?」
「ああ、100メート……いや、100リド先に8匹だな」
「ソウシさん『気配感知』が強いんですね」
メリベがちょっと驚いたような顔をする。ふむ、俺の『気配感知』は高性能なのか。
「まあいいや、俺とラナンでやる」
二人は先行して行き、俺たちは少し離れてついていく。
すぐにゴブリンが見えてきた。森の中で見ると緑の肌が保護色になるんだな。『視覚』スキルがなければ正確に見分けられなかったかもしれない。
「せやっ!」
カイムの掛け声でカイムとラナンがゴブリンたちの前に躍り出る。
まばたきする間もなく4匹の首が飛び、4匹が心臓あたりを貫かれ地に倒れ伏す。
驚いた。剣さばきも槍さばきもほとんど見えなかった。これがEランクか。
ダンジョンと違い死体は消えないが、ゴブリンの死体を運ぶのはありえないので、魔石だけ短剣でえぐりだしてもっていくようだ。
せっかくなので手伝いがてら取り出し方を教えてもらったが……やはりグロ耐性は今後必要だな。
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