1章 転移、そして冒険者に  06

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 冒険者レベル2


 武器系

  メイス Lv.4  短剣 Lv.2


 防具系

  バックラー Lv.3


 身体能力系

  体力 Lv.3  筋力 Lv.4  

  走力 Lv.3  瞬発力 Lv.4

  反射神経 Lv.3


 感覚系

  視覚 Lv.3  聴覚 Lv.2

  嗅覚 Lv.2  触覚 Lv.2  

  動体視力 Lv.3  気配感知 Lv.3


 精神系

  冷静 Lv.2

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 翌日、やはり朝から大岩ダンジョンに向かった。


 先行パーティが突入してから多少時間をおいて入っていく。


 最初の分岐まで進んで、まずは行き止まりの左ルートを行く。


 ゴブリンの発生率は昨日1回目に入った時と同等だった。ある程度時間が経てば発生率が戻るのだろう。


 6匹のゴブリンを討伐して分岐まで戻り、今度は正ルートの右に行ってみる。


 先行パーティが入った後なので発生率は下がっているかと思ったが、地下2階へ続く坂の手前に着くまでに20匹ほどのゴブリンが出現した。もちろんそこまでの距離は、左ルートの行き止まりまでに比べて倍以上あったのだが。


 しかし正直、もうゴブリンは全く相手にならない。3匹同時に出てきても完全に力押しで完勝できてしまう。というかなんなら一振りで3匹倒せるレベルである。


 ちなみに昨日と合わせてゴブリンを50匹以上倒したわけだが、ようやく冒険者レベルが3になった。とうわけでますますゴブリンでは物足りなくなってきた。


 ……あれ、俺ってこんなに好戦的な人間だっただろうか。


 ともかく好奇心もあってそのまま地下2階に下りてみることにした。なお食堂で例の青年に話を聞いたところ、彼らは最下層の地下5階で主に戦っているらしい。他のパーティも4~5階で稼いでいるとのことである。


 地下2階も1階と同じような雰囲気であった。地図を見て自分の位置を確認しながらダンジョンを進んでいく。


 やはり何度かゴブリンに遭遇した後、ようやく初見のモンスターが出現した。


 小型のワニほどの大きさの表皮が岩のようなトカゲ、『ロックリザード』である。


 攻撃手段は噛みつきと尻尾による打撃。


 ロックリザードはシャカシャカという感じでこちらに走ってくる。そして目の前で大きく口を開き、噛みついてこようとする――


 グシャッ!


 俺はその横っ面にカウンター気味にメイスを叩きこんだ。『反射神経』『動体視力』スキルがそういった高度な攻撃を可能にする。


 ロックリザードは横に吹き飛び、仰向けになってもがいている。今の一撃を耐えるということは防御力はゴブリンよりも高いようだ。


 俺は近づいて行ってその白い腹にメイスを振り下ろした。グエッと断末魔を上げ、ロックリザードは息絶えた。


 残ったのは魔石と皮だ。魔石はともかく皮はかさばるな。まあとりあえず持っていくが。


 とりあえず戦えそうなので先に進む。ロックリザードが2匹同時に出現することもあったが、動きがそこまで早くないので問題なく倒せた。


 ゴブリンを20匹ほど、ロックリザードを20匹ほど倒したところで地下3階への坂の前まで着いた。今日はここまでだな。調子に乗って進むのはやめよう。


 踵を返そうとすると坂の奥から気配が近づいてきた。


「あれ、おっさんじゃん。3階に下りるのはやめとけよ。1人じゃ無理だ」


 上がってきたのは例の青年のパーティだった。


「ああ、もちろん下りるつもりはないさ。ここまででいっぱいいっぱいだ」


「それならいいけどよ。まあ1人でここまで来るのも結構無茶な気がするけどな」


「そうかもな。ところでそっちは今日も5階まで行ったのか?」


 そう言うと、青年は首を横に振った。


「いや、ボアウルフが多めに出たんで今日は切り上げだ。『アイテムボックス』持ちがいないと素材が持ちきれなくてよ。まあ3日分の稼ぎにはなったから問題はないんだけどな」


「なるほど……ところで『アイテムボックス』っていうのはやっぱりスキルのことか?」


「知らねえのか? 物を大量に運べるスキルさ。魔法みたいなもんだな。Cランク以上のパーティには必ず1人はいるらしいぜ。なにしろそのランクになるとバカでかい素材とかも出るからな」


「へえ……気が遠くなる話だな」


「まあな。正直低いランクで日銭を稼いで生きていくのも悪くはねえ。高いクラスのダンジョンは命がいくつあっても足りないって話もあるからな。もちろんここだって気を抜けばあの世いきだ。せいぜい気をつけな」


「ありがとう、気を付ける」


「おう、じゃあな」


 そう言って青年たちは去っていった。何度か話してみて分かったが、彼は話好きでおせっかい焼きらしい。


 しかし『アイテムボックス』か。要するにゲームみたいにあり得ない量のアイテムを運べるようになるスキルなんだろう。そういうスキルはどうやって手に入れるのか……はすでに分かっている。


 ダンジョンのボスを倒すのだ。ボスを倒すとランダムで特殊なスキルが一つ身につくらしい。そこで運が良ければ……というわけだ。


 それはともかく、先ほどの会話で彼らがこの最低ランクのダンジョンにいる理由が少し分かってしまったな。「低いランクで日銭を稼いで生きていく」。なるほどそういうゆるい生き方も冒険者には許されているのか。


 それなら自分はどうするのか。しばらくはそれを考えながらダンジョンに潜ることになりそうだ。





「え、オクノさんもう地下2階に行ったんですか? それもロックリザードをこんなに」


 ギルドで素材をカウンターに並べると、いつもの受付嬢が目を丸くした。ちなみに彼女はキサラという名前らしい。桃色の髪をツインテールにした可愛らしいお嬢さんである。


「そんなに驚くほどのことなんでしょうか?」


「Eランクに上がってそれなりの人なら分かりますけど、冒険者になって5日の人がこれは珍しいですよ。というか無理をしていませんか?」


「う~ん、そこまで無理はしてないと思いますが」


「やっぱりオクノさん戦いに慣れてるんじゃないですか? 本当に強い冒険者になれるかもしれませんよ」


「はは、それならいいんですがね。まだまだ先は長いですから」


「そうですねえ。Dランクになるのも結構大変みたいですから。オクノさんの場合はまずパーティを組むところからですね」


「もうちょっと強くならないと無理でしょうね。この歳で『覚醒』するのも珍しいみたいですし、組んでくれる人もそうはいないでしょうから」


「そこはちょっと不思議ですよね。私の父はもう『覚醒』する可能性がなくなったって安心してたんですけど」


「私も話を聞いて驚いてますよ」


 キサラ嬢の父親と比較されるとなんかちょっと自分の異常性が分かってギクリとするな。


 やっぱりパーティを組むのは難しそうだ。若い人間は若い人間同士で組むのが普通だ。会社でだって若手はベテランを好んで飯に誘ったりはしないものだ。


 まあ1人の方が気楽だしな、と自分の人生を思い返しながら、俺は買い取り額50,000ロム近い金額を受け取ってギルドを後にした。





 屋台で肉串を3本買い、食いながら考える。


 Fクラスのダンジョンに2階まで潜って1日50,000ロム。


 日本で言うなら日当50,000円。普通に考えれば悪くない。いや悪くないどころかかなりの高給取りだ。


 もっともこの世界は食料品の値段が感じ日本の2~3倍はするので実際そこまで余裕はない。


 宿代も継続的にかかる。今の宿は一泊6,000ロムだが、正直今の宿にずっといるのは勘弁願いたい。ちなみに町にあるもう一軒の宿(Dランク冒険者用だ)は一泊20,000ロムらしい。


 さらに問題なのは冒険者の装備品や道具が非常に高額だと言うことだ。


 武器や防具はハードに使えば当然破損するし、メンテナンスも常に必要だろう。着ている服だってすぐにボロになる。


 ポーションも最下級の5級品で15,000ロムだ。さっきのキサラ嬢の話の通り大怪我を負えば450,000ロムかかる。そのぶん前の世界の薬から考えれば超高性能なので、むしろ安いのかもしれないが……。


 ともかく、そう考えると1日50,000ロムというのは命がけで戦っていることを考えてもかなりカツカツの稼ぎである。


 キサラ嬢によると魔石の買い取り額はモンスターのランクが上がると跳ねあがっていくらしい。


 つまり冒険者としていい生活をしたいなら、必然的に高い冒険者ランクを目指し、強いモンスターと戦っていくことになる。


 結局はリスクとメリットの間でどこに妥協点を置くかということになるのだろう。何のことはない、前の世界と同じである。


 宿に着くまでに3本の肉串を食い終える。実は昨日も感じたのだが、肉の栄養分がすぐに全身に行き渡るような不思議な感覚がある。


 もしかしたらこれも『覚醒』の効果なのだろうか。この後筋トレすると効果が高くなったりしないだろうか。しばらく試してみるか。


 俺はその夜、宿の部屋で自重トレーニングをやってみたが、今の身体に自重トレーニングは大した意味がないことがわかった。あとで鍛冶屋に頼んでダンベルでも作ってもらおう。

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