第38話 これからの話

 五年前の事を最後まで、話し終えて、俺は一息ついた。リュウウェルとラミリーはただただ、悲しげな表情をしていた。


「五年前、龍神谷から帰ってきた俺は、お前たちに京花は死んだと言ったが、真実は今話した通りだ。」


「…なるほど、ね。まあ、僕たちに嘘をついていたというのは、この際どうでも良いよ、もんだいはこれからの話だ。」


 リュウウェルは、まっすぐとこちらを見ながら告げた。


「この話を僕たちにしたということは、連れて行ってもらえるということで良いんだよね?」


「ちょっと、どういうことリュウウェル。連れて行くって、どこに?」


 リュウウェルは、やはりその察しの良さから、これから俺が何をしようとしているのかが分かっているみたいだ。


 それに対して、察しが悪いラミリーが、リュウウェルに説明を求めるように食ってかかる。


「はぁ、ラミリー、君はどうして物事を、もう少し考えられないのかな?今の話の流れから、分かるだろう?」


「…え?流れって……。や、やめてよ、私が京介の話をちゃんと聞いてなかったみたいじゃない。……聞いてたからね、京介。京介の話なら、一言一句漏らさず覚えてるから。」


 ラミリーが、いちいち俺に弁明してくる。とりあえず、このまま放置していてもラミリーは状況を一向に理解できないだとうから、俺はリュウウェルに説明するように言った。


「いいかい、ラミリー、つまり京介はこれから龍神谷に行って、京花に会うつもりなんだよ。だから、僕はそれに僕たちも連れてってくれるのかを問いただしたんだ。」


「……あー、そういうことね。ま、まあ、私も何となくは分かってたけどね。京介の真意を私が理解してないわけないじゃない。」


 とりあえず、これでラミリーにもこれからの話が分かったようだ。ようやく、話を次に進められる。


「つまりは、そういうことだ。俺はこれから龍神谷に向かう。そして、リュウウェルとラミリー、今回はお前たちにもついてきて欲しい。お前たちにとっても無関係の話ではないからな。」


 俺が、そう言うと、二人とも当然と言うように頷き返してくれた。


 そうと決まれば、さっそく紗雪に、龍神谷に向かうことを報告しなければならない。食客である俺が、無断で一週間以上も、行方をくらますわけにはいかないからな。


「じゃあ、俺は紗雪にこのことを話してくる。お前たちは、通りにいる南雲という少女と合流して、町の出口で待っててくれ。もし、準備があるなら、俺が帰ってくるまでに済ましておいて欲しい。時間はあまりないからな。」


 俺が二人に、そう告げて、立ち去ろうとすると、ラミリーが口を開いた。


「ねえ、京介、まさか、その南雲とかいう女も連れて行くわけ?どうして?」


 まあ、当然と言えば当然の疑問か。南雲は京花と全く関係のない人であるから。しかし、俺には南雲を連れて行きたい理由があった。あの龍の襲来時に見せた才能の片鱗。南雲は、ちゃんとした仲間と冒険を重ねれば、確実に歴史に名を残すような冒険者となる。


 それに、俺が南雲を連れて行きたい理由はもう一つあった。京花が教えてくれた、人とのつながり。それによって、見いだすことのできた南雲の才能。これを、京花に伝えたかったのだ。人と関わることも悪くない、軍神であればできないような経験をすることができる。こういう経験を積み重ねれば、きっと俺も、ただの人に戻れるのではないかと。


 俺は、そんな色々な理由を説明するのが、面倒でも恥ずかしくもあったため、一言だけラミリーに伝えた。


「俺がそうしたいからだ。」


 この言葉を受けて、リュウウェルは何かを察したように頷き、ラミリーは何故かショックを受けたような顔で固まっていた。


 そんな二人に背を向けて、俺は紗雪のいる領主の館に足を向けた。

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