第30話 南雲の事情

 道中、南雲はとにかくうるさかった。


「ねー、何か私に聞きたいこととかないの?本当はあるんじゃない?どうして、こんな美少女が街道で一人、倒れていたのか、とか。」


 ずっと無視していたのだが、先程から、ずっと同じ事ばかり聞いてくる。正直、全く興味ない。


 しかし、いよいよ我慢できなくなってしまって、俺は南雲の望みに応えることにした。


「…どうして、あんな場所で倒れてたんだ?」


「えー?聞きたい?聞きたいの?やっぱり気になってたんじゃなーい。」


 面倒くさいので、いちいち突っ込まない。


 南雲は、にやにやした顔をしながら、待ってましたと言わんばかりに話し始めた。


「私ねー、冒険者なんだー。だから今日もパーティー組んで、魔獣を狩りに行ったわけよ。そしたら、信じられないことに私が寝てる間に、おいて行かれちゃったのよ。しかも、『お前とは、もうパーティーを組めない』なんて書き置きを残して。だから、私は一度町に戻ろうと思ってたんだけど、結局空腹で倒れて、あの状態だったわけ。あんまりにも酷い話だと思わない!?」


 南雲が倒れていた理由は分かった。確かに酷い話ではある。だからこそ、南雲はこの話を人にすることによって怒りを発散させたかったのかもしれないし、同情を買いたかったのかもしれない。しかし、酷い話なのに、俺は南雲を置いていったパーティー連中の方に共感してしまった。たった数十分一緒にいただけで、ここまで精神を削られるのだ。とてもパーティーが組める気などしない。


「え?何その反応?今の話を聞いてどうしてそういう反応になるわけ?どう考えても私が可哀想でしょーが。」


「すまん、確かにそうだな。だけど、何の理由もなく置いて行かれたんじゃなくて、お前の方にも何か置いて行かれるだけの理由があったんじゃないか?」


「うーん、私が美少女すぎて、一緒にいると興奮して困る、とか?」


 これは冗談………で言ってるわけじゃなさそうだな。妙に顔が真剣だ。正直、置いて行かれたのは、そういうところだと思うのだが。


「後、考えられる理由は、私が新米冒険者だから、とか?もしそうなら、この世界は新米冒険者に厳しすぎる!新米いびりとかあるわけ!?」


「南雲、お前冒険者になってどのくらいなんだ?」


「え?五日くらいだけど…。」


 思っていたより、浅かった。というか、よくそれで魔獣討伐の遠征パーティーについて行こうと思ったな。大体、冒険者になりたての頃は、住んでいる町の近くの森で、猟師でも倒せるレベルの魔獣を狩るのが基本だ。


「その経験の浅さでどうやってパーティー組んでもらったんだよ?」


「そこは、ベテラン冒険者だって嘘ついて。」


 これまた、ありえない解答が飛び出してきた。この世界において、魔獣の脅威は全人類が共通認識として把握している。だからこそ、冒険者になりたての人間が、自らの強さを偽ることは、まずありえないのだ。偽ったところで、自分の身に危険が増すだけで、良いことなど一つとしてないからだ。


「どうして、そんな事を?」


「だって、強い魔獣を倒す方が楽しいに決まってるじゃない。」


 答えはシンプルなものだった。楽しい、か。普通、皆、魔獣を倒すことには、多少なりとも恐怖が混じるんだけどな。だからこそ、自分のレベル以上の魔獣には挑まないという自然なストッパーがかかるのだが、南雲にはそれがない。初心者故の無鉄砲さか、あるいは、そういう性格なのかは分からないが。


 これまで、ただ面倒くさい少女くらいの認識だった南雲に少しだけ興味がわいた。そのため、隣町に着くまでの間、南雲の話を真剣に聞いてみたのだが、これといって面白い情報はこれ以上得られなかった。

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