第26話 数日後、町中で

 森をしばらく歩いて紗雪と合流し、紗雪が目覚めるまで待った。


 紗雪は、自分がどうして気絶していたのか、蛇王の墓所はどうなったのかを矢継早に尋ねてきたが、俺は元から用意しておいた言い訳を使った。


 紗雪は、いまいち納得していないようだったが、反論することもできずに、質問攻めを終わりにした。


 その間、全てを知っているはずのアリアは、何も言わなかった。俺が、自分の力の事を知られたくないというのを察してくれたのだろう。俺は、アリアの事を信用して、いちいち口止めをしていなかった。口止めをすることで、なんとなく対等な関係が崩れてしまうような気がしたのだ。


 こうして、俺と紗雪とアリアの三人は町に戻ることになった。


 道中、特に魔獣に襲われるような事もなく、安全に町に着いた。帰り道の中、アリアはずっと楽しそうだった。おそらく行きの道では、使命の事が頭によぎって、心の底から楽しめなかったのだろう。その使命が無くなった今、この帰り道が、アリアにとって自分の意思で踏み出した初めての旅となったに違いない。アリアの夢を叶える最初の一歩が楽しそうで良かったと心から思った。




 蛇王の墓所から町に戻ってきて、早くも数日が経った。その間、俺は、ひたすら紗雪に酷使され、この事件に関する報告書の作成に勤しんでいた。なんでも、紗雪が言うには、


「私は、ほとんど気絶してて、この事件がどうやって解決されたのか知らないんだから、京介に頼むのは当然でしょ。」との事だった。もっともな言い分に、当然反論は出来なかった。何より、紗雪を守るためとはいえ、紗雪を気絶させたのは自分だという負い目もあった。


 そんな慌ただしい日々に、ようやく一息入れられたのが今日なのである。


 だから、今日は、久しぶりに町を歩いていた。目的が二つあって、その内の一つが、今回の件を、ある人物に報告しておかなければならないからだ。


 その人物を探しながら、町を歩いていると不意に後ろから声をかけられた。


「京介さんじゃないですか。久しぶりですね。」


 後ろを振り返って確認すると、そこにはアリアがいつもの明るい笑顔をして立っていた。


「アリアか、久しぶりって言っても数日前だけどな。」


 そんな俺の言葉に、アリアは、あははと苦笑いで返した。


「それで、アリアはこの町でやりたいことはできたのか?」


 俺は、ふと気になってアリアに尋ねた。確かアリアは、一番叶えたい未来があるから、しばらく町に残ると言っていたのだ。簡単なものではないのかもしれないが、何となく進展が気になった。


「えっ!?いや、それは、まだちょっと……。」


 妙に歯切れの悪い返事が返ってきた。どうやら、進展はあまり良くないらしい。


「俺で良ければ、時間があるときに手伝うけど。何度だって助けるって約束したからな。」


「……いやー、この件は京介さんには手伝ってもらえない事というかですね……。」


「そうなのか?まあ、手伝えることがあれば、言ってくれ。」


 そう言うと、アリアは大きなため息をついて言った。


「まあ、先は長そうですので、もうしばらくはこの町に残ることになりそうです。……あっと、すみません京介さん、私はこれで。」


「何か用事でもあるのか?」


「紗雪さんとお茶をする約束があるんですよ。」


 紗雪も俺と同様に、今日は久しぶりの休日だ。それにしても、アリアと紗雪は町に戻って、さらに仲良くなっているようだ。元々、アリアは紗雪のことを領主様と呼んでいたのに、今じゃ紗雪さんと呼んでる。良い方向への関係の変化に、何だか心が温まるような気分がした。


「そうだったのか、邪魔をして悪かったな。」


「いえいえ、声をかけたのは私の方ですし…。それでは、京介さん、また会いましょうね。」


 アリアは丁寧なお辞儀をした後、走って行ってしまった。その姿は、雑踏に飲まれてすぐに見えなくなってしまった。


 俺は、その姿が見えなくなるまで、見送った後、自分にも用事があったことを思いだし、再び町を歩き始めた。

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