第27話 二千年来の旧友たち
その人物は、いつものように人通りが一番多い通りのベンチに座っていた。
「リュウウェル、元気にしてたか?」
「キョル……京介か。それはこちらの台詞だ、京介こそ蛇王の墓所に行って何もなかったのかい?」
不満そうに口を開いたのは、俺と二千年の付き合いになる龍人の美少女、リュウウェルだ。
「大体、どうして僕への報告がこんなに遅れたんだ?僕の不安を知っていれば、真っ先に来るべきだと思わないかい?」
「それは、悪かった。後処理に追われてたんだ。」
「…まあ、無事だったなら別に構わないが。それより、君が蛇王の墓所に行ったせいで、僕に降りかかった災難の方に謝って欲しいよ。」
リュウウェルは、心の底から疲れたように、重いため息を吐いた。
「何だ、その災難って言うのは。あまり、心当たりがないが。」
「本当に心当たりがないのかい?思い返してごらんよ。京介が、一人で危険な場所に向かうと言ったら発狂しそうなのが一人いるじゃないか。」
「…もしかして、ラミリーか。」
「もしかしなくても、ラミリーだとも。分かっているなら、あらかじめメンタルケアくらいはしておいて欲しかったな。」
ラミリーは、リュウウェルと同じく二千年近くの時を生きているエルフだ。昔、魔獣に襲われているラミリーを助けた事で、妙に懐かれてしまったのだ。
「…すまん、本気で忘れてた。」
「とにかく、一度直接会って話をしてやってくれ。連日、僕のところに来ては、どうして京介を一人で行かせたのかを延々と問い詰めてくるから。……っと、丁度良いじゃないか。」
何が丁度良いのかは聞くまでもない。話の流れと、俺の後ろに立っている雰囲気から大体察せられる。
俺は、渋々後ろを振り向いて、その存在に声をかけた。
「……久しぶりだな、ラミリー。」
「……京介は私の事なんてどうでも良いんでしょ…。私って何?……私って京介の何なの?……。」
そこに立っていたのは、十七歳くらいに見える、綺麗な緑髪をした利発そうな顔立ちの美少女だった。基本的にエルフという種族は、皆顔立ちが良いが、ラミリーはその中でも特に目を引くほどに美しかった。
ただ、今の発言から分かるように、ラミリーは言動が色々と残念なのだ。利発そうな顔立ちに似合ない、馬鹿っぽい言動が全てを台無しにしている。
「……ラミリーは、俺の大事な仲間だろ?」
「仲間……ねえ、、まあ、今はそれを置いとくとして、京介は大事な仲間に危険な場所に向かう相談の一つもしないんだ……。リュウウェルにはしたくせに……。」
面倒なところを突いてくる。リュウウェルに助けを求める視線を送ってみるが、僕は関わりたくない、と言わんばかりに目を逸らされてしまった。
「リュウウェルには、情報を集めるのと結界を張るのに手伝ってもらったから、その成り行きで話しただけだ。元々、変に心配をかけたくなかったから、二人には相談するつもりはなかった。」
「……京介は、私の事信頼してないんだ。……もしかして、私の事嫌いなの?」
思考が飛躍しすぎだ。ラミリーは昔から、思い込みの激しいところがある。
「信頼してるし、好きに決まってるだろ。好きだからこそ傷ついて欲しくないんだ。」
「京介……。そんなに私の事を考えてくれたんだ……。何よもう、早くそう言ってくれれば良いのに。そういうところ京介のかっこいいところだと思うけど、私だって京介に傷ついて欲しくないんだから。」
どうやら、ひとまず機嫌は直ったようだ。相変わらず、テンションの落差が激しい奴だ。喋っている内容はそれほどおかしくないのだが、いちいち大げさなのが、ラミリーの面倒くさいところだった。
「あとさ………好きってもう一回言ってくれない?」
「ラミリーのことが好きだ。」
「…………ふふっ、ふふん。」
何やら気持ち悪い笑い声を発して、満足そうに何度も頷いている。
これ以上、ここにいると、またラミリーが何を言い出すか分かったものではない。ラミリーがとりあえず満足しているこの辺りで切り上げるべきだろう。
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