第23話 千年の恨みを宿した蛇王との対決

「動かねえなら、こっちから行かせてもらうぜ。千年の恨みをその身で清算しろ!!」


 蛇王が両手を広げると、それが合図だったかのように、空間が軋み出した。


 軋みは次第に大きくなっていき、やがて空間に亀裂が走る。


「喰い尽くせ!!」


 その言葉と共に、空間の亀裂から無数の蛇が飛び出した。


 ただの蛇じゃない。蛇の魔獣だ。見た目にそれほどの違いはないが、普通の蛇よりも獰猛で、何より殺傷能力が段違いだ。この蛇の魔獣に噛まれれば即死するという冒険者も珍しくないだろう。


 その数が、数千か。


 こちらも油断をしていると足下をすくわれかねないな。


「…宝剣。」


 その呟きと共に、俺は何もない空間に、手を伸ばす。すると、その空間から、一振りの剣が出てくる。


 全身を黄金色に光り輝かせた、この世界最強の剣。俺が、この世界にやってくるにあたって授かった決して切れないもののない剣。


 俺は、その剣をゆっくりと手に取り、前に掲げる。


 眼前には、無数の蛇が全てを飲み込みながら、こちらに迫ってきている。


 それを視界に納め、俺は掲げた宝剣を、その蛇の群れに向けて振るった。


 宝剣が振るわれた先の空間には何も残らない。空気や音さえも切り裂く無情の一撃。


 その言葉通りに、眼前に迫っていた蛇の群れは一匹残らず、消滅していた。


「…はっ、宝剣かよ、相変わらずだな。だが、これならどうだっ!!」


 そう言うと、今度は蛇王自身が、凄まじいスピードでこちらに迫ってくる。


「…確かに、宝剣は驚異だ。だがなあ、お前にこの器が切れんのかよお!」


 なるほど、だからこその肉弾戦か。


 蛇王は、手足を蛇に変え、俺の四方から攻撃を仕掛けてくる。


 しかし、その攻撃は通らない。俺の周囲に張っている防護結界を破れるほどの威力じゃない。この結界術も俺がこの世界に来るにあたって授かったもので、何者をも寄せ付けない絶対の守りだ。


「守ってばっかじゃあ、埒があかねえだろ!どうした、仕掛けて来いよ!」


 蛇王の言葉には余裕を感じる。俺が、その体に傷一つつけることはないと踏んでいるのだろう。


 その考えは間違っていない。


「お前も、甘くなったよなあ!軍神の頃のお前なら、躊躇わずに切り捨ててたぜ、こんな体よお!」


 なおも蛇王の猛攻は止まない。確かに、攻撃を続けていれば、いつかは俺の結界の方に限界が来て、蛇王の攻撃が通るようになるだろう。


「弱くなったんだよお、お前は!!その迷いこそ、弱さだ!弱けりゃあ、誰も守れねえ!!」


 一際大きな声で叫んだかと思うと、蛇王は勝利を確信したかのように薄く笑い、途端に冷静になって攻撃を止めた。


「…そろそろ終わりにするぜ。」


 そう言って蛇王が俺から距離を取ると、蛇王の体が強く光った。


 光ったのは一瞬、しかしその変化は驚愕に値するものだった。


 今まで、人型を保っていた蛇王の体が、完全な蛇の姿へと変化したのだ。その全長は、なんと百メートルにも及ぶ。およそ、三十階建てのマンションに匹敵する大きさだ。

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