第21話 アリアの意識

 静寂を切り裂いたのは、奴の甲高い声ではなく、俺の声だった。


「…お前は本当にこれで良いのか、アリア?」


 俺は、目の前の化け物ではなくアリアに、問いかけた。


「…何言ってやがる。ついにボケたかお前え。この器のガキなら二度と目を覚まさねえ!すでに、ガキの魂の上書きは終わっちまってるからなあ!」


「アリア、お前はこの選択に後悔はないのか?叶えたい未来があったんじゃないのか?」


「おいおい、耳が聞こえてねえのか?たかだか人のガキ如きに入れ込みやがってよお。」


「アリア、これが、本当に前を向いて選択した結果なのか?」


「…いい加減にしろよ。いつまで死人に話しかけてるつもりだ?」


「アリア、前に言っただろ、お前が助けて欲しいなら、何度だって助けるって。」


「だから!!───。」


 瞬間、化け物の体が大きく光って、何かを言おうとした化け物の言葉を遮った。


 化け物の体から発せられた光が消えていくと、そこには姿形は変わらないが、雰囲気が先程のまでのそれとは異なる存在がそこに立っていた。


「…アリア、本当は俺に言いたいことがあったんだろ?」


 先程のアリアとの話の続きだ。まだ、俺はアリアがわざわざ俺に話を聞かせた理由を聞いていない。


「…京介さんは、馬鹿なんですか。今、京介さんは本当に危険な状態にいるって分かってます?」


「分かってないかもしれないな。そんな事よりも、今はアリアの話が聞きたい。」


 俺は、まっすぐにアリアの目を見つめながら答える。


 アリアは、目が合うとすぐに顔を背けてしまった。もしかしたら、醜悪な自分の顔を見られたくないと考えているのかもしれない。


 しかし、それだけが理由ではないだろう。


「…逃げてくださいよ。」


 アリアは、ぽつりと小さな声でその言葉を漏らしたかと思うと、すぐに声を荒げて言葉を続けた。


「逃げてくださいよ!もうどうにもならないんです!今は奇跡的に意識が戻ってきてるけど、それも長くは続かないことくらい自分が一番よく分かってます。次、意識を手放したら、もう戻ってこられません。そうなったら、私は、私のこの手で京介さんを殺すことになる。それだけは、嫌なんです!」


 アリアは目に涙を浮かべ、顔を歪めながら懇願する。しかし、それはアリアの本心じゃない。その表情には、不安や怯えが色濃く反映されている。


 だったら、俺はそのアリアの頼みを受けるわけにはいかない。アリアには本心を話してもらわなければ。


「…じゃあ、どうして今、奇跡的にアリアの意識が戻ってきてるんだ?それは、俺の問いかけに思うところがあったからじゃないのか?逃げろなんて言葉を伝えるためだけに戻ってきたのか?」


「──っ!」


「どうしても、伝えたい言葉が、意思があるはずだ。アリア、今度こそ前を向いて選択をしろよ。お前は使命に囚われて、時間に追われて、半ば強制的にどこか違うところを見ながら選択してしまう後悔をもう知っているんだから。」


 俺はアリアに優しく語りかける。

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