第19話 ある少女のお話
「京介さん、またいつかの夜みたいに、私の話を聞いて欲しいっていったら、聞いてくれますか?」
「アリアがそうしたいなら、断る理由がない。」
「…ありがとうございます。やっぱり京介さんは、優しいですね。」
アリアの様子に、特に変わったところはない。しかし、それこそが異常だった。先程まで、あれほど心を乱していた彼女が、こうも落ち着いているのはおかしいのだ。
「…あるところに、一人の少女がいました。その少女の家では、毎日のように祈祷が為されていました。それは、少女のずっと昔のご先祖様から引き継がれてきた一族の大事な大事な仕事だったんです。」
アリアはそこで、言葉を一度切り、一呼吸入れる。俺は、黙ってアリアの話の続きを待った。
「その一族の当主には、祈祷のお仕事と同時に刻印が受け継がれていました。少女は、十歳の時に、両親を亡くし、刻印と祈祷を受け継ぎました。そして、それから八年間が経ったとき、長年に渡った祈祷が成果をあげ、その少女の一族の悲願が叶ったのです。後は、その少女が、始まりのご先祖様のお墓に行くだけです。ただ、ここで問題が発生しました。少女はとても弱く、一人ではそのご先祖様のお墓に辿り着くことができなかったのです。誰かに手を借りられないかと思っていたところに、ちょうどそこに向かう二人の男女が居ました。少女は、その二人について行くことにしました。」
俺はまだ何も言わず、アリアの話の続きを待った。
アリアは、徐々に表情を歪ませながら話を続ける。
「少女は、その二人と冒険をして、色々なはじめてを知ることができました。短かったけど、本当に楽しい日々でした。いつしか、少女は一族の使命を捨ててでも、叶えたい未来ができました。しかし、一族の使命を簡単に捨てることはできません。何より、少女に刻まれた刻印がそれを許しませんでした。少女は最後まで迷い、抗おうとしましたが、結局は弱い少女にできることなんてありませんでした。そうして、今、少女は悲願の墓所の前に立っているのです。」
「これで、私の聞いてもらいたかったお話は終わりです。」
そう言ってアリアは、ある少女の一生を締めくくった。話に出てきた祈祷とは、蛇王の墓所の結界を破るためのもので、蛇王が没して、墓所に結界を張られてから千年以上もの時間をかけて、ようやく破るに至ったのだろう。
そして、ご先祖様のお墓とは、この蛇王の墓所のことで、少女とは……アリアのことだ。
つまり、この事件の黒幕は、アリアということで、その正体は──
「──蛇王の子孫か。」
アリアは何も言わない。無言の肯定だ。だとすると、一族の悲願というのは……。
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