第18話 蛇王の墓所にて

 俺は、密かに二つの結界を発動させた。気絶の結界だ。結界内に入った対象は、数時間は気絶した状態となる。それを、気づかれることなく、紗雪とアリアに発動した。


 当然、紗雪もアリアも気絶をし、意識を失う。後は、防護の結界を彼女たちに施すだけだ。予定通り、最硬の防護結界を彼女たちに施し、安全な場所へと避難させる。


 全てが終わった後に、紗雪に何かを聞かれれば、蛇王の呪いの影響か何かで、紗雪たちは気絶したので、安全な場所に運んだ、とでも言えば良いだろう。後は、結界でそれを偶然回避できた俺が、墓所まで魔獣と遭遇することなく辿り着いて、弱っていた結界を張り直したと言えば良い。これで、万一にも彼女たちが危険な目に遭うことはなくなっただろう。


 残った問題は、墓所の結界を破るほどの存在とは一体何者なのかと言うことだけだ。最悪のパターンは、ここで奴が姿を現さず、正体がつかめないことだ。危険度の高い敵が、町の中に潜んでいるという事態は避けたい。となると、多少わざとらしくても、相手を引きつけなければならない。


 そんな風に考えながら、蛇王の墓所へと向かう。道中、襲ってきた魔獣は、俺に指一本触れることなく、消滅させられる。宝剣を使うまでもない、結界術のみですり潰せる。


 倒した魔獣の数が五十にのぼる頃、ようやく蛇王の墓所に辿り着いた。


 かつて、俺が蛇王を倒し、作り上げた墓だ。


 少しだけ懐かしいものを感じていると、後ろから誰かが来る気配を周囲に張っていた結界が感知した。


 ついに来たか。


 多少派手に魔獣を始末してみせたのも、この呪いの元凶をおびき出すためだ。これで、駄目だったのならば別の手も考えていたのだが、手間取らなくて済んで良かった。


 その気配が立ち止まったのを感じ取る。


 俺は、それを受けて、ようやく振り返った。背後から、これ幸いと襲ってくれれば、その隙に一撃を叩き込んで勝負はついていたのだが、相手もそれなりに警戒はしているらしい。


 しかし、そこには予想もしていない人物が、立って、俺を見つめていた。


「……アリア。どうして、ここに?」


「どうしてだと思います?」


 俺は、答えない。


「もう、何となく分かってるんじゃないですか?」


 アリアが、ここい居る事は、おかしいを通り越して不可能に近かった。気絶の結界による昏倒状態から目覚めるには、早すぎるからだ。それにアリアには不可能な点がもう一つ、俺がアリアに張った結界が破られていることだ。


 確かに、結界は内側からなら比較的容易に破壊できる。ただ、それでもただの冒険者には、荷が重いはずだ。


 そう、アリアは、ここに来ることも、結界を破ることも不可能なのだ。アリアが、本当にただの冒険者ならば…。

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