第15話 食客の誤魔化し方
そこでようやく、衝撃から立ち直ったアリアが、照れた様子で言い出しにくそうに告げた。
「あの、京介さん、助けてもらって大変ありがたいのですが、その、離してもらえると助かるというか…。」
確かに、俺はアリアを助けた際に、抱きかかたままになっていた。
「悪かった。配慮が足らなかったな。」
「いえ、良いんです。その、本当にありがとうございました。…そうだ、京介さん怪我とかしてないですか。」
俺がアリアを離したおかげで、ようやく冷静になれたのだろう。アリアは俺の心配をしてくれた。
「見ての通りだ。どこも怪我をしていないから、気にする必要もない。」
「そっか。良かったですー。」
アリアは安心したのか、露骨に声に緊張感が抜け、胸を撫で下ろしていた。アリアは怪我をしなかったことに大して言及してこなかったが、紗雪の方は、俺がアリアを助けたときの、一連の流れについて、どう思っているのか気になって、目をやる。
紗雪は、不審そうな目で俺を見ており、俺と目が合うなり口を開いた。
「京介、あんた今魔獣に噛まれてなかった?それで、怪我がないってどういうことか説明してちょうだい。」
まあ、当たり前のようにそこを突っ込まれるよな。アリアは脳天気なのと、助かった安堵感で、そこのところを聞いてこなかったが、傍から眺めていた紗雪が、それを聞いてこないはずがない。
「偶々、防御の結界術を体に張る訓練をしていたんだよ。だから、噛まれても平気だったんだ。」
真実と嘘を織り交ぜて、伝える。下手に全部嘘をつくより、こうした方がばれにくい。
紗雪は、なおも不審そうな視線をこちらに向けていたが、これ以上深くは聞いてこなかった。俺の言った事を否定する材料がなかったのだろう。
「結界術の訓練なんて勤勉なことね。その調子で、蛇王の墓所の結界も直してちょうだい。」
紗雪は皮肉を言うことで、納得はしていないからということを言外に伝えてきた。とりあえず、今は緊急の事態だったから、力を使ったが、今後はより一層意識して紗雪の前では、力を使わないようにしなければと思う。紗雪ほど聡明であれば、後一度か二度、俺が力を使う場面を目撃すれば、偶然で片付けられないものだと察するに違いない。
「…ああ、任せてくれ。」
皮肉には取り合わず、正直に言葉を受け取った風に返答する。
紗雪は、それで俺がこれ以上この話を広げるつもりか無いことに気づいたのだろう。休憩を終えることを俺とアリアに告げると、一足先に馬車に乗り込んでいった。
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