第16話 蛇王の墓所へと至る前夜

 俺も紗雪に続いて馬車の御者台に戻ろうとしたところで、アリアに声をかけられた。


「…もし、また私が困っているときがあれば、京介さんは今みたいに助けてくれますか?」


「当たり前だ。アリアが助けて欲しいなら、何度だって助けるつもりだ。」


「…そう…ですか。」


 アリアは俺の言葉を噛み締めるように、呟いた。それ以上は何も言わず、俺もまた何も言うことはしなかった。



 旅を再開して、しばらくすると暗くなってきたため、今日はもまた野宿をすることになる。


 昨日と同じように三人で火を囲んで食事を取り、食事が終わった後も、少し雑談を続けた。


 アリアはその間、ずっと楽しそうな様子だった。悩むことを止め、今の時間を、目一杯楽しむかのように過ごしていた。


 紗雪も、アリアに当てられてか、昨日よりも少し素直な様子でアリアと接することができるようになっていた。こんなに楽しそうな紗雪は、もしかしたら紗雪が領主となってからは、はじめて見るかもしれない。


 やがて、雑談も終わり、明日に備えて早めの睡眠を取ることとなった。俺は今日も、魔獣の見張りをすることを申し出た。


 紗雪にもアリアにも交代でやるように強く否定されたが、こればかりは一切苦でもないのに、彼女たちに押しつける訳にはいかない。彼女たちは、俺と違って、ちゃんとした睡眠が必要なはずだからだ。


 彼女たちを半ば無理矢理説得し、今こうして一人で月を眺めるに至っている。


 明日には蛇王の墓所か…。


 結界を張り直すだけと言えば、簡単そうに感じるが、実際はそう簡単にはいかないだろう。まず間違いなく、結界を破った何者かの横やりが入るはずだ。


 もし、そうなった時、紗雪とアリアを絶対に守り切れると断言できるだろうか…。


 紗雪とアリアに俺の持っている力がばれても良いのなら、彼女らを守り通すくらい造作も無いことだろう。しかし、俺は、紗雪やアリアと築いた、この関係を大切に思っている。それに、俺には、どうしても、五年前に死んでいった友の最後の言葉が忘れられないのだ。


「…あなたに本当に大切なのは、あなたのことを一個人として見てくれる存在だわ。それは軍神でも、英雄でもない、あなたのことを…。」


 微かな痛みと共に、忘れがたい記憶が思い起こされる。


 軍神でも英雄でもない、ただの京介か…。


 そんなもの、三千年前に置いてきてしまったっきり忘れてしまっていたが、紗雪の元で働いていると、何だか思い出せそうな気がするのだ。


 もう一度、月を眺めて、決意する。


 やっぱり、この事件に紗雪とアリアを関わらせるわけにはいかないと。

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