第7話 時代は変わる
「感傷に浸っているのかな?」
少し遅れたリュウウェルが、やってくるなりそう尋ねた。
「その気持ちは分るよ。僕もこうしてこの町を見ていると、あの時の事を思い出す。ずっと昔のことのはずなのに昨日のことのように思い出せるんだ。」
リュウェルは懐かしむような、哀しいような顔をして、町の方を見ながら、そう言った。
「君が中心となって、かつての旧友と共に町を興し、皆で過ごしたあの時間が忘れられないんだ…。」
「でも、ここはもう、かつて俺たちが興した町じゃない。時代は変わり、この町もまた滅びと再生を経験した。」
「分ってる。こうも長生きしていると、時代に取り残されているということを、しみじみと感じさせられるよ。」
リュウウェルの言っていることには、全て心当たりがある。俺にとっても、あの時の記憶は忘れられないものだ。時代に取り残されていると感じたことは一度や二度ではないし、もうこの時代に自分は必要ないのではないかと考えたことさえある。だけど、それでも俺たちは生きている。だとしたら、俺たちには生きる理由があるのだろう。かつての仲間たちを覚えている事や、町の栄枯盛衰を見守り、陰ながら支えることに意味があるに違いない。
「リュウウェルも分っているんだろう?俺たちには、俺たちの役割があると言うことを。」
「ああ、その通りなんだろうね。ただ、僕は君ほど強くあれないよ。」
「急がなくて良いんだ。リュウウェルは俺よりも千年も若いんだから。いずれ、折り合いをつけられるようになる。」
そう言うと、リュウウェルは少しだけ笑った。
「この僕に若いなんて言えるのは、君くらいだよ。まあ、人生の大先輩の言うこととして胸に留めておくよ。」
俺も、リュウウェルが言うように強いわけではない。ただ、リュウウェルよりも千年前に同じ事を経験しただけだ。
千年前の大災厄を経験して、それでも生き残ってしまった者として、リュウウェルよりも、もっと愚かしかったのが当時の俺だ。それに比べれば、リュウウェルはよほど賢い方だと思う。
「さて、大先輩からの助言を頂いたことだし、感傷に浸るのはここまでにして、さっさと目的を果たしてしまおうか。」
リュウウェルは町のほうに向けていた視線を、俺の方に向けると、両手を差し出してきた。
「すでに君の結界に重ねがけができるように術式を施してある。」
そう言うリュウウェルの両手には確かに、魔方陣のようなものが、びっしりと刻まれていた。
俺はその両手に、左手を差し出した。すると、リュウウェルが、俺のその手を両の手のひらで包み込んだ。
残った右手を町の方に掲げ、結界術を使う。すると、町全体を淡い光が一瞬包み込み、すぐに消えて無くなった。
これで、蛇王の呪いを遅らせる結界は発動した。
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