第4話 代行者
壁の守人。
それは、アルフレイム大陸北方のコルガナ地方にて、魔神の魔の手から人類の領域を守るため、日々戦う勇敢な戦士たちである。
これは、その守人の一人、マティアス・ヴィンセントという男の話。
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幼いマティアスが物心ついた頃には既に親は無く、スラムの劣悪な環境に身を置いていた。
子供にとってはその日の食糧にすらありつくことの難しい極限の状況の中、彼は窃盗を繰り返すことで幼少を生き抜いた。
そんな厳しい生活の中で出会ったのは一冊の絵本。そこに描かれていたのは古代の英雄を謳った御伽噺であった。
彼は打ち捨てられた鈍を手にし、一心不乱に振り続けた。御伽話の英雄のようになるために。
そうして数年が経った頃、スラムに奈落の魔域が発生し、多くの住人が取り込まれてしまうという大事件が起こった。
親しい者、大切な者が巻き込まれて泣き叫ぶスラムの住人。領主はこれに一切の対応を見せず被害は拡大。悲しみの声は街中に広がった。
気づけば彼は奈落の魔域に足を踏み入れていた。欠片の躊躇いも無く。
巻き込まれた人々の誰もが命運尽きたと思ったその瞬間、襲いかかる魔神の前に立ち塞がる影が一つ。それはマティアスだった。
彼は魔神に剣を向け、啖呵を切った。
「俺は英雄になる男だ。こいつらを食いたかったら俺を倒せ」と。
瞬間振るわれる魔神の一撃。それを合図に戦いが始まった。
凄まじい勢いで繰り出される魔神の攻撃に、彼の体は自然に反応していた。
魔神の猛攻をいなし、あまつさえ切り返してみせたのだ。
しかし、鈍は鈍。頑強な魔神の身体に傷をつけることさえ能わない。
それでも彼はあきらめず剣を振い続けた。
激しい攻撃の応酬は三日三晩も続き、遂にマティアスの身体が限界を迎える。
魔神の手により彼の命運が尽きようとしたその時、紫電が魔神の体を貫いた。
「よく戦い抜いたわね。小さな英雄さん」
これがマティアス生涯の師となるシェスとの出会いであった。
才能を見出されたマティアスは"壁の守人"であったシェスの付き人として、戦略的要地に点在する奈落の魔域を破壊する任務に就くこととなった。
当初は魔神討伐の手柄を奪われたことに腹を立ててシェスに反抗するマティアスであったが、徐々に彼女に絆され、やがては師と仰ぐようになる。
十年後、シェスのもとで修行と経験を積んだマティアスの力量は気付けば師である彼女のそれを上回っていた。
遂には"壁の守人"としての階級でもシェスを追い抜き、彼女から免許皆伝を言い渡される。
しかし、シェスに恩義を感じると同時に大事な相棒だと認識していたマティアスはこれを突っぱねた。
「一生君の弟子がいい。これからも僕と一緒に戦ってくれないか?」
マティアスの必死の説得を受けたシェスは根負けし、今日に至るまで共に戦い続けている。
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