第59話 穴の向こう側へ

「魔道具で攻撃して、敵を入口から離します。入口から3メートル以上敵を離したらこちらに報告させますので、私の合図でミーニャさん、突入して攻撃をお願いします」


「了解なのニャ」


「その前に一つ確認したいのですが、いいでしょうか」


 これはジョンだ。何だろう。


「ええ、どうぞ」

 

「ミーニャさんがとんでもなく強いのはわかっています。でもアークスケルトンって、本来は1体に対してC級冒険者の戦士3人以上で相手する事が推奨の魔物ではなかったでしょうか」


「その通りです」


 クリスタさんは頷く。


「この場合は一度引き返して、それなりの人数を集めてから、ここへ戻ってくるのが正解でしょう。

 これからやるのは例外的な方法です。ミーニャさんがいて、それなりの魔道具を所持していて、妖精で向こう側を観察できるという要素が揃っているからこそ、可能な方法となります」


 それなりの魔道具か。

 何を使うつもりだろう。

 技術者的に興味があるので聞いてみる。


「どんな魔道具を使うんですか?」


「エイダンさんはこの魔道具がどんな機能を持っているか、わかりますでしょうか?」


 クリスタさんが魔法収納アイテムボックスから取り出したのは、表面が灰色の陶器のような質感をした、直径20cm程の球だ。


 咄嗟に透視魔法で内部を解析。なるほど、これならアンデッドには効果が高いだろう。


「衝撃を受けると破裂して、熱と神力を周囲にまき散らす魔道具に見えます。ついでに言うとかなり危険で、出来れば近づきたくないですけれど」


 内部には空気に触れると発火する薬剤と、熱で爆発する薬剤、高い神力を帯びた軽金属粉が仕込まれている。

 おそらく次の順番で効果を発揮する、使い捨ての魔道具だ。


  ① 落とす等して外側のセラミック層が割れると、薬剤が空気に触れる

  ② これによって高熱が発生し爆発

  ③ 爆発で金属粉が高熱を帯びた状態で周囲に散らばる

  ④ 金属粉は高熱で空気に触れると瞬間的に燃焼し、更なる高温の酸化物となる

  ⑤ 神力を帯びた上、燃焼して高熱となった金属酸化物が周囲に広がる


「その通りです。やはりわかりましたか。万が一に備えて幾つか作って貰ったものを魔法収納アイテムボックスに入れています。私はこういった細工物を作るのは得意ではありませんので」


 そう俺に告げた後、クリスタさんはジョンとミーニャさんを交互に見る。


「今エイダンさんに言った通り、これは破裂すると高熱と神力を半径10m以内にばらまく、使い捨ての魔道具です。これを穴の向こう側すぐ、アークスケルトンの前で爆発させます。その際こちらに中身が飛ぶと危険なので、障壁魔法を展開します」


「爆発の衝撃で、坑道が崩れる心配はないのかニャ」


 確かに今の説明では、そう感じるだろう。

 しかし俺には問題無い事はわかっている。


「爆発そのものは、そこまで威力が高くはありません。その際にまき散らされる神力と高熱で敵を倒す、というものですから。爆発した後、送り込んだ妖精の魔法で、空気を入れ換えて温度を下げます。ミーニャさんに突入して貰うのはその後になります」


「爆発してすぐ飛び込んだら駄目かニャ」


「金属が白熱する位の温度の破片がばらまかれていますし、空気も呼吸できない状態になっている可能性が高いです。ですから換気をして、温度が下がった事を確認した上での突入となります」


 確かにこの仕組み、空気中の呼吸可能な成分を大量に消費するだろう。

 換気しないと危険なのは間違いない。

 温度の方もクリスタさんが言う通りだ。


「わかったニャ」


「それでは作戦を実行します」


 クリスタさんは魔道具から手を離す。

 魔道具は空中に浮いた状態で穴の中へと入っていった。

 妖精が物質浮遊魔法を使って持ち運んでいるようだ。


「障壁を展開します」


 魔力が俺達と穴の間に展開される。

 そして次の瞬間、穴の向こうで明らかな神力の気配。


 そこから更に3秒ほどした後。


「どうやらミーニャさんに、スケルトンと戦って貰う必要はなくなったようです」


「倒したニャ?」


 クリスタさんは頷いた。


「そのようです。換気と温度確認は終わりました。ですから全員で行きましょう。ただ全員が入った時点で止まって下さい。水中の敵はまだ健在です」


「わかったニャ」


 今までと同じ隊列で穴から中へ。

 四角い空間。目で見て最初に感じたのはそんなイメージだ。

 同じ幅、同じ天井の高さで前に続いている空間。

 壁や天井、床には自然の洞窟なら当然あるだろう凸凹がない。


 床は前に向かって下がっていき、30m程の所から先は水に浸かっている。

 水に浸かっていない部分には動ける敵はいない。

 先程の魔道具で倒した敵とその痕跡は、クリスタさんがまとめて回収したようだ。


 そして透視魔法でこの空間の外を見ることが、出来なくなっている。

 外からこの中が見えないのと同様、何らかの魔法措置がかかっているのだろう。


 さて、俺は透視魔法で水の中を見てみる。

 実は透視魔法を使わなくても、明らかな魔物の魔力を感じる。

 沈殿池にいた骨魚スケルトンフィッシュと同種だが、遙かに強い魔力と気配がゆっくり動いているのを。


 透視魔法で姿形を確認する。

 巨大な骨魚スケルトンフィッシュなのだが、口部分が恐竜風に長くて歯が凄く、前のヒレが前足っぽくて指までついている 

 教本にはなかった形状の魔物だ。


「クリスタさん、この魔物は何かわかりますか?」


 知らない事は聞いてみるに限る。

 クリスタさんは頷いた。


魚竜フィッシュドラゴンがゾンビ化したものです。同種の物と比べて小さめですが、水中なら相当に強力で厄介な敵です」

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